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解析蜂


 場面はスキルを封じる黒き結界内へと移る。

 現実空間から切り離され、拡張されたドーム状の結界の面積は約半径5㎞。その北西部にて現在オルトラントと『水酸』は戦闘を行っていた。


「撃てッ……!!」

『▲▲▲▲▲▲………!!』


 オルトラントの指示を受け彼の後ろで待機していた巨大な鋼サソリは大きなはさみを開き、尻尾の先についた毒針部分を縦に開かせ、巨大な生態的な大砲を露出させる。すると次の瞬間には『水酸』に向かって発射する。

 そうして放たれた魔法の砲撃を下半身に強酸でできた蛇の尻尾を纏わせ、まさに日々のごとき速度で回避していく『水酸』であったが、表情こそ先ほどと同じ狂気的な笑みを浮かべているものの焦りのせいかやや冷や汗を流していた。


(あの鋼サソリは遠距離特化!しかも種類は非質量攻撃!あたしの酸の壁じゃ防御できない!

 それに加え……!!)

「………!!こっちも来たかな……?!」

『■■■■■■■■ッッッーーーー!!!』


 自分の体が急激に陰ったのを確認して『水酸』は顔を上へと向けるとそこには両腕に鋼サソリとは比べ物位ならない巨大なハサミを持ち、二対の複眼、四対の翅をもつ異形の怪蟲が回り込んでおりそのハサミを大きく広げていた。発見した瞬間『水酸』は自分が出した4体の酸の蛇から強酸ブレスを発射、貫こうとするが、堅殻の表層を溶かすのみで異形の怪蟲は止まらない。異形の怪蟲はハサミに力を入れ始め、閉じようとした瞬間、

 空間に視覚的なひびが入り始める。


「!!アシッド・スケート!!」


 『水酸』は下半身を纏う蛇の尻尾群を中心に弱性の酸を放出、さらに蛇に指向性の咆哮を発せさせると、摩擦係数がほぼなくなった地面を高速で滑り、移動。それによって。


ガガガガガガ、ガチィンッッッ!!ドゴォ!!!


 異形の蟲がハサミを閉じると共に生じた()()()()()()()()を回避するのであった。とはいっても破壊によって生じた衝撃波に『水酸』の体は吹き飛ばされるが日々に地面をかませ着地、凶悪かつ蠱惑的な笑みを浮かべながら鋼サソリの上に乗って移動してきたオルトラントを視線を向ける。


(あのザリガニ擬きは空間魔法を使ってガード不能の攻撃を出せるってわけ!!

 鋼サソリ含めておそらく一匹一匹が成体のドラゴンクラス!!)

「いいねぇ!!怖くて辛くて最高だよ!!こんなヤバい魔物を使役できているオルトラント君をブチ殺せたら私どうなっちゃうんだろう?!!

 ああああぁぁぁッッ!!考えただけでイっちゃうかもぉぉぉ!!!」

「……………やれやれ、うちの妹と言いどこぞの歌姫様と言い、最近の女性はもっと貞淑でいて欲しいものですねぇ………」

(まさかの2匹を使っても倒しきれないなんて……!!まずいなそろそろ()()が切れる……!!)


 仮面で表情を隠し声音も全くの平静を装っているが、内心オルトラントは目の前の少女に激しい危機感を抱いていた。

 鋼サソリ、遠距離攻撃兼拠点防衛特化怪蟲、フォートレススコルピオ。

 異形の蟲、近中距離攻撃戦闘特化怪蟲、デモリッシャーインセクト。

 2匹ともオルトラントの最強クラスの蟲であり、特にデモリッシャーインセクトにいたっては()()()()()への使用を想定された究極の生物魔法兵器の試作体。あくまで机上ではあるが、この二体だけで先のワイバーンの群れもリーダー格であったゴガを除けば、ほぼ全部殺しきれる実力がある。

 そんな桁違いの怪蟲を前に目の前の少女は一切戦意を失わず喜びと悪意無しの殺意を混じった狂気を自分に向け続けているのである。正直なところ恐ろしくないわけがない。

 それに加えもうすぐ自分と虫たちにかけていた魔法が解けてしまう。オルトラントは手を合わすと空間に複数の魔方陣が展開され、そこから緑色の蜂達が再び大量に召喚。デモリッシャーインセクトと共に『水酸』に襲い掛かる。


「あれまたその蜂ぃ?ちょっとちょっと、萎えさせないでよね!!

 アシッド・ヒュドラ・シャワー!!」


 『水酸』の蛇たちは大口を開くと十数本の酸の圧縮ブレスを放射。強力な圧力と魔力による強化を受けた強酸は蜂の大軍を次々と蹴散らし消滅させていく。ただそれにより隙ができたことに変わらない、巨体とは思えない飛行能力で蛇のブレスを躱し射程範囲外に逃げたデモリッシャーインセクトは再びハサミを大きく広げ空間破壊魔法を繰り出そうとする。

 『水酸』はすぐさま回避行動準備を完了しつつも一匹の蛇の長射程の超圧縮ブレスをデモリッシャーインセクトの左頭部に目掛けて発射する。どういうトリックか分からないが目の前の敵は自分の酸に耐性を持っている。しかしとはいっても頭部に当たれば悶絶し隙はできるはず、『水酸』的にはその程度の狙いでしかなかった。だが、


ジュゥッ、ジュァァァァ………!!!


 酸のブレスはデモリッシャーインセクトの頭部を貫通、彼の頭部をドロドロに溶かし不規則な軌道で体をあらぬ方向に墜落してしまうのであった。


『■■■■■■■ァァァァーーーーー?!!』

「は………?」

「クソ耐性が完全に……!!」


 この結果を見た『水酸』は思わず呆気にとられ、逆にオルトラントは素早い動きで前に駆けだす。その様子を自身で顕現させた酸の蛇の目から確認した『水酸』の視界には彼の他に一匹の蟲、先ほど召喚した蜂の姿があった。

 瞬間彼女の中で、パズルのピースがはまる音が響く。


「なぁぁぁぁぁぁぁるほど、それがオルトラント達の耐性の秘密かな?!!

 アシッド・ヒュドラ・ウェーブ!!!」


 詠唱と共に『水酸』の蛇尻尾が地面を叩くと地面を溶かしながら巨大な酸の津波が出現。猛スピードでオルトラントへと襲い掛かってくる。それを見たオルトラントは瞬時に魔方陣を展開し古代トンボのような大型の魔物を召喚し、トンボの足を掴んで高速飛翔、酸の津波を回避する。フォートレススコルピオは一部装甲も展開し生態砲を次々発射し津波を迎撃しようとするが、自身の体以上の津波を消しきることができず飲み込まれてしまうのであった。

 酸の津波はあたりにまばらに残っていた木々を溶かしながらも『水酸』が指を鳴らすと消失。荒れ地と化した場所であるがあるものを、先ほどオルトラントに近づこうとした指先代の大きさを持つ、緑蜂の死骸であった。


「これを見る限り酸で死んだというよりかは溺れ死んじゃった感じかな。ま、これで確定。この蜂に私の魔法を受けさせ生き残った個体を取り込んで、私の酸、というか私の魔力に対しての耐性を付けさせた。

 正解かなぁオルトラントくぅぅぅぅぅぅん???」

「………遺憾ですが、配点10点満点の正解を上げましょうお嬢さん」


 やったー!!と無邪気に喜ぶ『水酸』を、トンボ型怪蟲に乗って飛行しながらオルトラントは見下ろしつつも手を握りしめていた。

 解析蜂(アナライビ―)。それはオルトラントが生み出した怪蟲の中である意味デモリッシャーインセクトの最高傑作とも言え彼の事実上の奥義ともいえる蟲であった。

 この蟲はありあらゆる魔法環境に適応することに特化しており戦闘能力は毛ほども持たない。その代わり対象の魔力を採取しそれを解析適応したうえで自分の体内に血清を生み出しそれをオルトラントに注入すると、オルトラントと彼の血を混ぜて作った怪蟲たちは対象魔力に対する絶対な耐性と抵抗力を得ることができるのである。

 本来は魔力を取れた時点で勝ちなのであったが………。


(………化身魔法を使われたことで魔力の構造が一部変化し、絶対耐性は強力な耐性レベルにまで下がってしまった。だからこのあの二体を使い速攻で片付けようとしたが………!!)

「困りましたね、もうあの二匹以上の蟲は使えないというのに………」

「ええぇー?!絶対オルトラント君隠し持ってるタイプでしょー!!だーせだーーーせ!!

 …………さもなきゃドロドロのバラバラになっちゃうよ?あはは、










 あははははははははははははははははははっっっーーーーーー!!!!」


 悍ましい狂笑と共にさんの蛇は結界の天井にまで届く超圧縮ブレスを発射。オルトラントを乗せたトンボは高速移動を行い攻撃を回避していくが、それもどれも紙一重。

 決着は近い。



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