ルール説明
*
勇者候補歓迎パーティから早三日。今回の選抜試験のため勇者候補のチームの内1~32番までのチームの候補達が王都郊外にあるこの樹海の前に集結していた。パーティの時とは違い全員思い思いの戦闘用の服を着ておりまさしく準備は万端といった様子であった。
そんな彼らの前に一人の鎧を着た男性が前に立ち、声を張る。
「……定刻となった。私は騎士団第2師団団長、トーマス・フィンジェイド。急用が入り欠席なされたカラレス提督、アースラウド聖騎士長に代わり私が説明をさせていただく。
今回、諸君らにやっていただくのは宝探し。統一軍と騎士団がサバイバル演習用に共同管理しているここ惑いの樹海でチームで協力して宝を探してもらう」
宝。探し?と候補達は内心首をかしげつつもこれからさらに詳しいルールを説明するであろうトーマスの方へと意識を集中させる。
「それでは詳しいルールの説明であるが、
まずこの惑いの樹海には半径15kmの対魔物の結界が張られており、その結界の中にいくつかの宝を用意している。それを3日以内に結界の中心部にある転送用魔方陣にまで持ってくれば、このチームを合格とする。 次に失格の条件であるがこの三日以内に宝を運ぶことができなかった、チームメンバーの内誰か一人でも死亡、もしくはギブアップした時点で失格とする」
そう説明し終えると彼の隣にいた複数の騎士や修道士達が動き、候補者達に腰に付けられる小さな袋を手渡していく。
「その袋の中には最低限度の食料と守護結界を発動させる魔導具が入っている。
食料についてはこの樹海には複数の果実や川魚に加え食べることが可能な種も含めた魔物が複数存在する。それを食べて自給自足してもらう。
魔導具の方はチームメンバーの物と連動しておりチームメンバーの誰かがギブアップし起動される、もしくはチームメンバーの者が死亡した時、他の者達の魔導具も起動し規定日時まで絶対に壊れない結界を生み出す。
……説明はこれで以上だ。質問がないようであればこれから諸君らを所定の開始位置にまで移動させる」
トーマスが指を鳴らすとチームで固まっていた彼らの足下に魔方陣が出現し。それを起点に彼らを覆うような球状の結界が出現。そのまま彼らを浮遊させ結界の中へと移動させていくのであった。
その姿を見守っていたトーマスであったがその顔には強い悪意がにじんだ笑みが浮かんでいた。
「………お前達、細工の方と、アレはもう設置は?」
「細工は魔術省の担当を巻き込み完了済みです。処置の方も終わっています」
「アレについてですが設置は完了していますが、第6師団の連中が重点的に封印をかけていたためか目覚め行動し始めるのは二日目の午後からとなる予定です」
「上々。………何が勇者候補共だ。勇者となるものはあの御方を除き一人もいない。
恥知らずの愚弟と共に全員死ぬがいい………!!」
トーマスの交渉がその場に響く。
悪意が混ざった勇者候補選抜試験がついに幕を開ける。
*
ここはミスト、イレクトア、ハムナス達3番チームの結界の中。ミストとイレクトアの間にある険悪な雰囲気は一切消えぬままここまで来てしまったが、ハムナスはそれを少しでも緩和するために激励の言葉をかける。
『あと1分で到着します。到着と同時に結界は消えますのでご注意ください』
「っしゃぁ!!いっちょやってやしましょうや!!ねぇ姐さん方!!」
「……!!フン」
「………ヘイヘイ、分かってるよーん。約束だからね、ってなんでコイツこんなに不機嫌な訳?生理かなぁ?ねぇ君知ってるぅ?」
イレクトアはハムナスに対し鬱陶しそうな塩対応をするがミストは彼を睨みつけ乱暴に返していた。また頬はやや赤みがかっており体を両腕で隠すようなしぐさも取っていた。
その様子に訝しんだのかイレクトアはミストを煽りつつハムナスに近づき何かあったのかを聞き出そうと近づいてくる。
抜群の容姿に胸元、二の腕、太ももを大胆に露出させた巨乳美少女であるイレクトアに近づかれれば、大抵の男はなんでも話してしまいそうになるが、ヴォルフとの話で彼女が想像以上にヤバい女であることを知ったハムナスは目をそらしつつ言葉を紡ぐ。
(大体こんなこと話せば、もう一人のヤバ女に殺されるわ!!)
「いやぁ~!わっかんねぇっスわ!!俺そーいうの鈍感でぇ~……!!」
「………人間ってさ、手足が一本二本なくても関係なく生活できるって思うんだよね~☆」
「………いえ、その、救護室の方で、ミストさんの豊かなお胸を見てしまって、はい……」
「!!おいっ!!ゴラァ!!」
あっさりと脅しに屈したハムナスにミストは顔を真っ赤にし怒鳴りつけるが、それはすぐに吹き出すように大笑いし始めたイレクトアの声にかき消されてしまう。
「プッッッハハハハハハッ!!そっかそっかぁ!!胸見られたからミストちゃんご機嫌斜めなんだぁ♡いやぁ~女捨てたみたいな格好してるくせに乙女さんなんだか……アハハハハッ!!」
「………生憎私はお前みたいに公衆の面前で男に肌見せて絶頂するド変態とは違って、慎み深いんでね」
「……確かに私は自分の体には恥ずべき所なんかないけどさ。人をえげつない痴女みたいに言うのやめてくんない??名誉棄損で殺すよ??」
「おっと驚いた。今のアンタに名誉なんてもんがあるのかぁ!知らなかったよ!」
そのミストの言葉が最後のトリガーになったのかお互いに持ってきていた得物に手を掛ける。
ミストは両手にそれどれ一つずつ持っている鉄カバンの取っ手に力を加え、イレクトアは腕に装備した盾に収まった剣とは別に背中に背負っていた大剣に手を掛ける。
まさに一触即発の状態であったが、そこにハムナスが割って入る。
「おいアンタら!!落ち着こうぜ!!提督から聞いたぞ!!お前らこの試験で合格しなくちゃ色々まずいんだろ!!こんなところで殺し合いをしてる場合じゃねぇだろ!!
後こんな狭いところで殺し合いなんかしたら真っ先に俺が死ぬ!!」
「………そもそもルール説明で思ったんだ。喋れないようにして半殺しにして魔物に見つけられないよう埋めとけば、ルール上は何の問題もなくお前を排除できるってぁ!!」
「アハハハハッ!!なぁんだ同じこと考えてたんだぁ!!ホンット!!不愉快だなぁ!!!」
「ヒィッッ!!嘘だろ無視ィ?!」
間に入ったハムナスを無視し二人はぞれぞれ武器を取り出して憎き相手を血祭りにあげようとするが、その時、上方から声が響く。
『スタート位置に到着しました。5秒後に結界を解除します。5。4。……』
「……チッ、タイミングわりぃな」
「……君を殺すより、さっきにこっちを片付けた方がよさそうだねぇ♪」
「え、ええ?!何の話だ」
「冒険者君。君に期待はしてないけど~。とりあえずギブアップしたり死なないでよ♡……私やそこのカス女と違って、あの獣共は峰打ちなんてしてくんないからさ☆」
「無駄話すんな馬鹿共。……来るぞ」
『1。0。結界解除』
カウントがゼロとなった次の瞬間、結界は消失する。これによって彼らが最初に目に映した光景は、自分達を囲う森林、ではなく。
「「「グゥゥゥゥアアアアアアアアアアアアアッッッッッーーー!!!」」」
30匹はいるであろう多種多様の魔物の群れで自分達へと襲い掛かってくる姿であった。




