カエリザキ 3
「…正樹の事、庇っているのか?」
あたしの説明にもなっていない言葉だとやっぱり上手く伝わらなかった。
だけど、こーくんの声が幾分か柔らかくなっている。
「ううん。庇ってない」
「だって、愛美は最近ずっと正樹を見たら怯えていただろ?」
「違うの。好きだから緊張してどうしたらいいか分からなかっただけなの」
こーくんがあたしの中から言葉を引き出してくれるのでようやく普通に話す事が出来た。
不意に両肩を軽く押された。そういえば、ずっと何か抱きかかえたままだった。恐る恐る両手を降ろして、立て膝だった体勢もお尻をペタンと落として座り込む。
「航樹、悪いけど愛美と二人で話したい」
「……後で一発殴らせろ」
「分かった」
まーくんの返事を聞くとこーくんはリビングを出て行った。階段を昇る音がしたので自分の部屋に行ったのだろう。
何やら兄弟で分かり合えたらしいが、やっぱりこーくんはまーくんを殴るみたいで心配だ。
「あの…さっき言った事、忘れて欲し「無理」」
よりによってあたしは、まーくんの頭を抱えているのを忘れて…いや、忘れたというかこーくんとの話に集中し過ぎて、まーくんも聞こえているということを失念してしまった。うっかりにも程がある。
そして、無かった事にするのも無理だそうだ。
「俺の事、好きなのか?」
「好き」
直接聞かれると恥ずかしい。それでもなんとか返事をしたかったけど、この二文字が限界で後は言葉にできず、全身真っ赤になって俯いてしまった。
「顔を合わせると固くなって、一言目には『こーくんは?』っていつも航樹を気にしてて、航樹と話している時は楽しそうに笑ってて、航樹の事が好きなんだと思ってた」
「違うの」
まーくんの言葉に血の気が引いた。言われてみたら確かにそう見えたかも知れない。慌てて否定したあたしに、落ち着けと言わんばかりに頭をポンポンとされる。
「俺は嫌われていると思っていたから、どうせ嫌われているならとことん嫌われてやろうと思って…悪かったな」
「違うの」
嫌いなんて思っていない。やっぱり慌てて否定する。その時、目の端に床へ落とした生徒手帳が映った。
あたしは急いで拾い上げると、裏表紙をめくってカバーに挟んである写真を抜き取った。
理沙ちゃんからもらったまーくんがテニス部だった時の写真をまーくんの目の前にぶら下げる。
「嫌いだったら持ち歩いたりしないよ」
まーくんの目が真ん丸になっている。いつもは切れ長のどちらかと言えば細い目なのにあんなに丸くなっているところは初めて見た。あたしのように全身真っ赤にはなっていないけど、耳の上の方がほんのり赤くなっていた。




