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カエリザキ 2

「正樹!愛美に何しているんだ!」


 たった今、好きだと告げようとした瞬間に、怒鳴り声が聞こえた。

 声に反応してあたしも小林くんも半身を起こす。

 いつの間にかリビング側のドアが開け放たれていて、中学の制服を着たこーくんの姿が見えた。

 この家の間取りでは、キッチン、ダイニング、リビングが仕切り無しで繋がっているけれど、玄関から手前にリビング側のドアで、奥にダイニング側のドアがある。

 あたしはキッチンに用があるのでいつも奥のドアから入るけれどそうするとソファーは背もたれの方から見るので座面は見えない。

 逆に手前のリビング側のドアから入るとソファーの上はハッキリと見えてしまうのだ。


「航樹」

「こーくん」


 あたしと小林くんのこーくんを呼ぶ声が重なる。二人とも愕然とした力の無い声だ。

 

 ちゃんと気持ちを伝えようとした矢先だったけど、その機会が失われた事に行き場を失った気持ちが、止まったばかりの涙腺を崩壊させてしまった。

 ボロボロと留まることなく流れる涙に小林くんはあからさまにギョッとしてあたしを見つめている。

 いつもはニコニコと人当たりの良いこーくんが怒りに震えながら右手を拳にして振り上げた。

 あたしを見ている小林くんはこーくんの様子には気付いていない様だった。

 このままだと、小林くんが殴られてしまう。

 慌てたあたしは、ソファーに膝立ちになって、小林くんの頭を守るように抱きかかえた。


「違うの」


 さっきまで言葉にならなかった声がようやく発する事が出来た。

 殴られると思ったからギュッと目を瞑って歯を食いしばった。自分の意志ではどうにもならない涙が慌てた事で止まってくれた。


「違うって?」


 こーくんの声は震えている。なんとか拳を振り下ろす事を止めてくれたようだ。惰性で軽くコツンとだけあたしの頭に当たったけど、大きな衝撃は無かった。

 ここで黙ってしまったら意味が無い。上手く説明なんて出来ないけれど、とにかくまとまらない思考を言葉にしていく。


「まーくんならいいの」


 まずはこーくんに説明しなきゃ、って思ったけど、これじゃ伝わらない。


「まーくんじゃなきゃイヤなの」


 これも伝わらないと思う。心の中の想いを言葉にして伝えられない自分がもどかしい。


「あたし、まーくんが好きなの」


 こーくんにちゃんと伝えなきゃ。ギュッと瞑っていた目を開けて顔を上げて、こーくんの目に視点を合わせて言い切った。

 やっぱり今の状況の説明にはなっていないけれど、あたしの中にこれ以上の伝えたい言葉が出てこなかった。

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