カエリザキ 1
学校指定の鞄と持っていたカップケーキが絨毯の上に転がる。
あたしはいつの間にかソファーの上に寝転んでいて小林くんの肩越しに見えた照明に目を瞬かさせた。
そう肩越し、なのだ。あたしと天井の間には小林くんが居た。顔と顔の距離が近い。
シュルリと音がして、いわゆるセーラー服と言われる制服の赤いスカーフが抜き取られる。
思わず身を捻って両手で小林くんの胸を押すけれど、筋肉質な体はピクリとも動かなかった。ただ、ソファーに押し倒された時には僅かに引っ掛かっていた胸ポケットの生徒手帳が完全にポケットから飛び出して、絨毯の上に滑り落ちていく。
「食べていいんだろ?」
耳元で疑問形なのに返事を拒む様な低音で囁かれて、ゾワゾワした感覚に首をすくめた。
それでも僅かな抵抗とばかりに小林くんの胸を押していたあたしの両手はやすやすと捕まり、頭の上で片手だけで押さえ込まれてしまった。
両手を上げることでセーラーの裾が持ち上がり下着代わりに着ているキャミソール越しにあたしのお腹に小林くんの指が這う。擽ったくて再び身を捩ったあたしの頭の中にようやく「食べていいんだろ?」という小林くんの言葉の意味が降りてきた。
羞恥で体中熱くなる。自分では見えないから分からないけれどきっと全身赤く色付いてしまっている事だろう。
小林くんならいいけど。
小林くんならいいのだけれど、でも、これは違う。
上手く言葉に出来なくて思考が空回りしている間に、キャミソールがスカートから引き出されて、指が直接、お腹を這うようになっていた。肌と肌が直接触れる温もりが気持ちいい。
気持ちいいけど、間違っている。
言葉にならない声の代わりにこぼしてしまった吐息で、彼の目がまるで獲物を捉えた肉食獣のような眼光を放つ。
なんだかよくわからないけど目尻がじわりと濡れた。そもそもあたしは泣き虫なのだ。自分でもなんでこんなにも涙腺が弱いのだろうと思う。悲しくても寂しくても悔しくても恐くても嬉しくても喜んでいても涙が溢れるのだ。
目尻に小林くんの唇が触れた。溜まっていた涙を拭ってくれたのだ。先程とは打って変わって、心配する色が目に見えた。
ああ、好きだ。
そんな想いが胸にストンと落ちてきて、強張っていた全身から力が抜けていった。込み上げる想いで口元が緩む。
突然捕まってびっくりしちゃったけど、あたしは彼が優しい事を知っている。
ちゃんと言葉にすれば聞いてくれるのだから、逃げなくても大丈夫だ。
そう思えたので、あたしの顔から少し離れた彼の顔を視線で追った。
涙を含んでほんのり濡れている唇。唇の上にある、すっと綺麗に整っている鼻梁。鼻の上にある、意志の強そうな上がり気味の眉毛と一重の切れ長の目。
その目にしっかりと視線を合わせた。あたしの目にはまだ少し涙が湛えられているが、溢れるほどでは無い。




