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ハナニアラシ 5

 圭ちゃんのあの様子なら、きっと小林くんとこーくんも喜んでくれるだろう。

 自宅の最寄り駅から、更にバスに乗る。バス停を降りて道を渡って左に曲がれば自宅に行く道を今日はまっすぐと進んだ。三軒向こう側の四角い家が小林くんの家だ。その裏手にある青い屋根の家が自宅になる。隣同士並んでいるのではなく、門のある場所は正反対。背中合わせの位置関係だ。


 ここ数ヶ月で通い慣れた小林家のインターホンは鳴らさず勝手に門と玄関のドアを開けながら「こんにちは。お邪魔します」と声を掛けて上がり込む。お裾分けの為に、二日に一度は通っているのでいちいちインターホンを鳴らさなくてもいい、と言われているからだ。

 いつものようにダイニングキッチンに行くけどこーくんの姿はない。

 パッと見渡すと、ダイニングキッチンから続いているリビングのソファに人影があった。


「こーくん、今日学校でカップケーキ作ったから持ってきたよ…」


 ダイニング側からだとこちらに背を向けているので、ソファを回り込んで声を掛けたところで、そこに居たのはこーくんでは無くて小林くんだったことに気が付いた。

 年子の兄弟なだけあってパッと見は似ているから間違えてしまった。この時間小林くんはバイトで居ないという先入観からこーくんと思い込んでしまったけど、切れ長の目があたしの姿を捉えると、ドキリとして心臓が口から飛び出しそうになった。


「あ、あの…こーくんは二階?」


 よくよく考えたら今日は水曜日で、バイトはお休みの日だ。

 咄嗟にこーくんの居場所を聞いてしまったけど、緊張して声が上擦ってしまった。


「制服姿、初めて見た」


 うたた寝していたところを起こされて不機嫌そうな声で小林くんがそう言った。

 そうだ。今日は学校帰りにそのまま来てしまった。

 小林くんはバイトで居ないと勝手に思いこんで、会えるとは思っていなかった。嬉しい反面、嫌われたくなくて緊張する。笑顔、と意識すると顔の筋肉がピクピクと痙攣してしまった。

 眉間にシワを寄せて細めた目を見ていられなくてそっと視線を外す。

 きっと落ちてしまった第一志望の高校の制服なんて見たくないだろうと、制服でうろつかないようにしていたのに、あたしのバカー!


「こーくんは?」

「まだ帰ってない」


 沈黙に耐えられず、もう一度こーくんの居場所を聞いてみるけど、どうやら場の空気を換えてくれそうなこーくんに頼る事は出来ないらしい。

 小林くんの声はさっきよりも低く唸るようだった。

 ああ、どうしよう。まさか、ふたりきりになるとは思っていなかったから、頭の中が真っ白になってきた。

 何を話せば…あたし、何しに来たんだっけ?

 …そうだ!カップケーキ!

 わたわたと鞄からニ個のカップケーキを取り出す。

 今日学校の部活動で作ったのだけど、こーくんと二人で食べて…。


「どうぞ、食べて?」


 頭の中ではちゃんと説明していたけれど、掠れた声で言葉に出来たのはそれだけだった。

 小林くんの手が伸びてきて、次の瞬間、あたしの視界が反転した。

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