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面接の帰り

 桜ノ宮は沢山の人でごった返していた。毎年天神祭りにどれくらい来るのかはわからないけれど、どこからやってきたんだってくらい、立ち並ぶ屋台の前で大勢の人が笑っている。着物を着ている人や、簡単な薄着で済ませている人。その中でぼくは、スーツ姿だった。

「なにボヤっとしてんの。こっちこっち!」

 美香が手を引いて人ごみの中に突っ込んでいく。ぼくは人ごみが嫌いだ。美香だって知っているはずなのに。

 人を掻き分けて出たのはイカ焼きの屋台だった。溜息をついて財布を取り出す。

「あ、ええよ。今日は私のおごり」

「ごめんそんなつもりじゃ」

「いーのいーの」

 溜息のことをなじったわけではないらしい。美香が千円札を出してイカ焼きを二つ買う。そのまま一つをぼくの口に突っ込んだ。

「歩こ」

 また人ごみに入っていく。隣り合って歩いた。イカ焼きと手提げ鞄で両手がふさがれているから、手はつながない。交通規制の入った道を歩くと、係員の立ち止まらないで進んでくださいという大きな声が聞こえる。大量の人だかり。ゆるやかな川の流れのように、人々は歩いていく。

「今日はごめんね。急に呼んだりして」

 返事を返す代わりに、イカ焼きを口に含んだ。道路はそのまま橋につながっている。ぼくらは進んでいく。

 美香がぼくの腕を摘まんだ。

「最近、元気なさそうだったから」

 その顔は、陰っているように見えた。イカ焼きはしょっぱい味がする。

 鞄の中には、一次面接の通知書。

「元気だってなくなるよ、そりゃ」

「ごめん……」

 イカ焼きを食べ切り、手提げ鞄と一緒に持った。

「二人きりのほうが、嬉しいしさ」

 途端、美香の顔がぱあっと華やいだ。人々から歓声が上がった。輝かせた正体は花火だった。夜の空が一気に明るくなっていく。

「でも、ここじゃないと花火は見れないでしょ」

 美香がおどけて言う。その通りだ。

 つないだ手は、イカ焼きのたれで少しねばっこくなっていた。

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