8 この騒動を引き起こした犯人は
遊佐達がいる東校舎から見て反対側、西校舎の屋上に浅田が佇んでいる。
浅田は今回のアンデッド騒動に関わってるのではないかというのが遊佐たちの見解だが、どうしてここにいるのかは分からない。
「あいつは屋上で一体何をしているんだ?」
浅田は屋上に出てきた遊佐達を静かに見つめている。
三人の登場を意外に思っている様子はない。
遊佐は少し声を張って、屋上の向こうにいる浅田に問いかける。
「浅田……だよな? 同じクラスじゃないから話したことはないけどさ。俺は同じ一年の遊佐だ。さっきの校内放送はお前がやったのか?」
浅田は答えない。
口はつぐんでいるが、目はまっすぐに遊佐たちを見ている。
彼はいま、何を考えているのだろう。
「今、校内にアンデッドが出たんだ。浅田、お前何か知らないか? 校内放送で『すてきなイベントを用意しました』とか言ってただろ? それに、さっき屋上から転落事故があったのは知ってるか? 浅田は屋上にいたのなら、何か見てないか?」
遊佐はいくつか質問を投げかけたが、浅田はずっと口を結んだままだ。
屋上に重たい沈黙が流れる。
どうして校内にアンデッドが出たのか、どうして薬師寺は同じ学校の生徒を撃たなければならなかったのか。遊佐達は質問をまくし立てたい気持ちをぐっと押さえ、浅田の出方を待った。
しばらくの沈黙のあと、浅田は口を開いたかと思うと、突如叫ぶように言った。
「俺はお前達を許さない! 生徒も、先生も、全員許さない!」
突然の大声に、那谷がビクリと肩を震わせる。
「先生に助けを求めても、生徒会に助けを求めても、誰も助けてくれなかった! クラスの連中も皆巻き込まれたくないのか、全員見て見ぬフリだ! でも僕は負けたくない。学校を休んだり、辞めたりするのは絶対に違う! これはこの学校に対する復讐だ!」
「落ち着け、浅田。お前が辛かったのは分かった。相談してくれたのにも関わらず、その辛さに寄り添えなかったのは俺たち生徒会の落ち度でもある。すまない。でも今は一旦落ち着いて、お前の知っていることを俺達に話してくれないか?」
遊佐が優しく声をかけると、浅田は歪な笑みを浮かべた。
口の端は震え、目が全く笑っていない。
その目には怒りや恨みをないまぜにしたような、どす黒い感情が渦巻いている。
「校内に大型魔装を展開したのは僕だ。生徒たちをアンデッドに変えたのも僕だ。体内浸食スピードを各段に上げたアンデッドウイルスを、生徒たちの水筒やペットボトルに無差別に仕込んだんだ! 思ったよりもアンデッド化する奴が少なくてガッカリだ」
「アンデッドウイルスを仕込むですって……!? そんなの可能なの!?」
那谷の問いかけに、浅田が答える。
「そこにいる生徒会長の親の会社はね、アンデッドウイルスを抽出して変性させるような研究もしてるのさ。遊佐と風紀委員長は、薬師寺を信用して大丈夫だと思うのか? そいつがゾンビリオンを校内により多く導入するために、この騒動を起こしたとは思わないのか? 俺とそいつがグルだったらどうする?」
遊佐と那谷はバッと薬師寺の方を見る。
薬師寺は慌てて顔の前で手を振る。
「グルな訳ないだろう! あいつに騙されないでくれ!」
しかし那谷は薬師寺を見たまま、数歩後ずさった。
生徒会の三人の中に、目に見えない溝が生まれた。
浅田の言う通り、薬師寺はこの騒動に関わっているのか?
遊佐にも判断はつかない。
遊佐は薬師寺の動向を見張りながら、再度浅田に問う。
「浅田、女子生徒の転落事故について何か知らないか? それもアンデッド絡みか?」
「そうだよ。ここの屋上にいた生徒たちは皆アンデッドになってもらった! あいつら、僕をパシリにしてジュースを買いに行かせたんだよ。僕がそこにアンデッドウイルスを仕込んで帰ってくるだなんて思いもよらなかっただろうね。ハハッ、いい気味だ! 人間として死ねないって、あいつらにとっては最高の罰だろ! 中庭に落ちた女子はアンデッド化するのが遅くてさ、他のアンデッドたちに追い詰められるようにして落ちていったよ。でも落ちたあとに無事にアンデッド化したみたいで安心したよ」
「やっぱり、倒れていた女子生徒が姿を消したのはアンデッド化していたからなのね」
那谷が悔しそうに唇を噛んだ。
「あの女子生徒以外にアンデッド化した生徒は何人いるんだ?」
遊佐が尋ねると、浅田はニタリと気味の悪い笑顔を浮かべた。
「最初は二人だったけど、今はどうだろうね? 周りの人間を噛んだりしていたら、もっと増えているかもね。それに教室にあった水筒にも無差別にウイルスを仕込んであるから、生徒の大多数が昼休みを過ごす西校舎は今頃悲惨なことになっているかもねぇ」
「おい浅田、すでに被害は甚大だ。このゲームはお前の勝ちと言っていい。だからもう自衛隊に連絡させてくれ。携帯の妨害電波を出したり、防御型の大型魔装を展開しているのもお前なんだろう?」
遊佐は携帯電話が通じないのは混線ではなく、何者かが妨害電波を出す機械を使っているのだろうと考えていた。
「当りだよ、遊佐くん! 外部と連絡が取りたい? 外に出たい? それなら僕と鬼ごっこをしようよ!」
「鬼ごっこ?」
「そうさ。僕が校内を逃げ回るから、遊佐君たちは僕を捕まえてね。そうしたら携帯の妨害電波も止めてあげるし、校内と外を断絶している防御型魔装も解除してあげるよ! じゃあね、君たちを待っているよ」




