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7 屋上へ

「魔装を持って、屋上に行くんです」


 遊佐が片方の口角をニヤっと上げると、那谷が顔を歪めた。


「魔装を持っていくって、まさか、戦うってこと!? 私、イヤなんだけど!」


「戦わずに済むならそれに越したことはありません。でも、いつまたどこでアンデッドに出くわすか分からないじゃないですか。丸腰じゃない方がいい。自衛隊が到着すれば、魔装は自衛隊に提出すればいいんです」


「遊佐君、勝手に提出だなんて!」


 薬師寺が抗議すると、遊佐は片手を上げて薬師寺を制止した。


「どのみち、会長はアンデッド化したとはいえ生徒を撃っています。正当防衛は認められるでしょうが、状況はきっちり説明しないといけない。もう歴代の生徒会長が秘密裏に魔装を継承するなんてできませんよ」


 遊佐がバッサリ切り捨てるように言うと、薬師寺は深くうなだれた。


「とにかく、いつまでもここに居たってしょうがない。全員、移動しましょう」



 遊佐たちは昇降口にいた生徒たちを視聴覚室に避難させ、内側から鍵をかけさせた。

 あとはアンデッドがこれ以上現れないことを祈るしかない。


 生徒会室に戻った遊佐たちは、机の上に置いてある箱から魔装を取り出す。


「ここにある魔装は全部で三つね。さっき薬師寺君が使っていた銃型、それから棒状の武器型、それから……あら、このフィンガーレスグローブの形のやつはどうやって使うのかしら。ねえ薬師寺君……って、ちょっと! アナタしっかりしなさいよ!」


 那谷が薬師寺の背中をバシッと叩く。

 薬師寺はすっかり憔悴しきっている。どうやら、先ほど自分が殺したアンデッドがここの生徒らしいという事実が、かなり堪えているようだ。


「そうですよ、会長。しっかりしてください。この魔装について一番詳しいのは会長なんですから。俺達にちゃんと説明してくれないと」


 遊佐がたしなめるように言うと、薬師寺はキッと目を吊り上げて遊佐達を睨んだ。


「僕はもう戦いたくないんだ! さっきは初めて魔装を使えるっていうんで少し興奮してたけど、まさか相手がうちの生徒だったなんて……! それを知っていたら、攻撃せずに逃げる方法を選んださ! 調子に乗ったせいで、僕は人殺しだ! もうだめだ、僕の人生は終わりなんだ……」


 薬師寺はその整った顔を苦痛で歪め、目を潤ませた。

 遊佐は薬師寺の目をまっすぐに見つめる。


「人生終わりじゃありませんよ。あれは正当防衛です。それに、仮に逃げたとしてもあのアンデッドは俺達を追ってきたと思いますよ。校内に閉じ込められている今、アンデッドから逃げ切るのは不可能です。あそこでアンデッドを殺さなければ、俺達か昇降口にいた生徒たちが殺されていたかもしれません。会長はみんなを守るために正しいことをしたんです。そう思いましょう」


 薬師寺は納得できない様子でしばらく俯いていたが、ついに覚悟を決めたらしい。顔を上げて正面を向いた。もう表情に淀みはない。


「わかった。さっきのアンデッドのことは一旦忘れるよ。今は生徒会の役員として、学校の異常事態をなんとかしなきゃ。そのためには職員室に行って、先生方と合流しなければ。ただ……」


 薬師寺は遊佐と那谷を上目遣いで見る。


「職員室に向かうのは君たち二人に任せたいんだ。僕は西校舎に着いたら、アカネの様子を確認しに行きたい」


 生徒会副会長の剣崎アカネは現在音楽室にいるようだが、そこにはアンデッドが出現している可能性がある。


「構いませんよ。副会長、電話で『アンデッドが』って言ってましたもんね」


 遊佐がうなずくと、那谷が「でも」と口を挟む。


「もし音楽室に本当にアンデッドがいたらどうすんのよ? 薬師寺君ひとりで戦えるわけ? こんなに意気消沈してる人が?」


 那谷は半ば煽るようにして言ったが、薬師寺は表情を変えない。


「もう戦いたくはないけど、だからと言ってアカネを放ってはおけないだろ? まあ、彼女は僕より精神的にも肉体的にも強いから、大丈夫だとは思うけど」


「強いと言ってもアンデッド相手に丸腰で戦える訳じゃありませんから。副会長がうまく避難できていることを祈りましょう。さて、ここにある三つの魔装ですけど、誰がどれを装備しますか?」


 遊佐は机の上に並べられた三つの魔装と、薬師寺と那谷の顔を順番に見た。


「あら、そんなのもう決まってるんじゃない?」


 那谷が爽やかな笑顔で言う。


「薬師寺君はさっきも使っていたこの銃型でしょ。私はこの棒型……先端の刃先がとっても見覚えがあるのよね……うん、この棒型にするわ。この訳わかんないフィンガーレスグローブ型のは遊佐君にあげる」


「俺がこれですか」


 遊佐は少し不満そうな顔でグローブを手に取った。


「訳わかんない形でも、遊佐君みたいな秀才なら使えるかと思って」


「僕もそのグローブ型はどう使うか分からないんだよね。まあ遊佐君なら大丈夫だと思うよ」


 薬師寺でも使い方が分からないものを、自分に使いこなせるのか?

 遊佐は内心不安に思ったが、若干強引な先輩たちに反論するのも面倒で、そのままグローブを両手にはめた。


 黒いグローブはひんやりとしていて、革とも普通の布とも違う。

 今まで触れたことのあるどの素材とも違って、手に吸い付くようだった。不思議な触り心地だったが、不快な着け心地ではなかった。


「じゃあ、屋上へ行きましょうか」



 屋上は生徒会室のあるフロアから階段を登った先にある。

 屋上へとつながるドアの取っ手を遊佐がひねると、ドアはあっけなく開いた。


「やっぱり開いていたか」


 遊佐、那谷、薬師寺の順番で屋上へと出る。

 那谷は遊佐の紺色のブレザーの裾を引っ張って、少しへっぴり腰になっている。


「うう、屋上にまさかアンデッドとかいないでしょうね?」


「アンデッドはいないんですけど……」


 遊佐が言い淀むと、那谷が噛みつくように尋ねる。


「何!? アンデッドの代わりに何がいるのよ!?」


「……浅田がいるんですよ」


「浅田って、あの、薬師寺君たちにいじめの相談をしたっていう? あの変な校内放送を流した張本人じゃないかっていう?」


 遊佐は頷き、目をこらすようにして屋上の向こう側をみた。

 遊佐達がいる東校舎の反対側、西校舎の屋上に、浅田が佇んでいる。


「あいつは屋上で一体何をしているんだ?」


本日は8話まで更新予定です。

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