3 魔装シフト
「魔装を使って戦うですって!?」
那谷がヒステリックな声をあげる。
その間にも生徒会室の扉は震え、いまにも割れてしまいそうだ。
扉が破られるのは時間の問題だ。
先ほどよりもアンデッドの息遣いがはっきりと聞こえてくる気がする。
「会長、何を言ってるんですか? 校内は先生であっても魔装みたいな危険物の持ち込みは禁止ですよ。そもそも、魔装なんて俺達みたいな高校生に手が出る値段じゃない。校内に攻撃型の魔装があるだなんて話も聞いたことがない」
自衛隊が使用している魔装は、それひとつで車が買えるほどの値段だ。
そもそも校内の敷地は国から支給された防御型魔装で守られているため、魔獣は侵入できないことになっている。攻撃型の魔装は学校に必要ないのだ。
「いや、それがあるんだ」
「はあ⁉︎」
遊佐と那谷の声がかぶる。
薬師寺は書類を収納している棚に手を伸ばし、手前に置いてあったファイルの束をどかすと、奥から両手で抱えられるサイズの箱を取り出した。
箱にはマジックで「災害用備蓄」と書かれている。
「それは、災害時用の乾パンや水が入った箱だって、会長が言ってましたよね?」
「すまない、それは嘘なんだ。代々の生徒会長のみにこっそり受け継がれているんだけど、これは非常食じゃない。過去の生徒会役員が作った魔装なんだ」
薬師寺がうやうやしい手つきで箱を開けると、そこにはいくつかの黒い物体が入っていた。
折り畳み式の棒状のものや、銃型、フィンガーレスグローブのような形のものもある。
いずれも大きくはない。片手でヒョイと持ち上げられるサイズだ。
本当にこれが魔装なのか? 遊佐は薬師寺の顔と魔装を何回も見比べた。
しかし、問題はそこじゃない。
「校内に魔装の持ち込みは禁止でしょう!? 生徒会が堂々とルールを破っていいんですか!?」
これが本当に魔装だとすると、目の前にあるのは殺傷能力の高い兵器だということになる。そんなもの、学び舎にあっていい訳がない。
遊佐が問い詰めると、薬師寺は開き直ったように言う。
「確かに持ち込みは禁止だ。でも、校内で魔装制作が禁止されている訳ではない」
「つまり、校内で魔装を作った先輩がいるってこと……?」
そんな馬鹿な、と目を見開く那谷に対し、薬師寺がうなずく。
「そうだ。県下有数の進学校であるわが校は、毎年卒業生から東大生を何人も排出しているだろう? 中でも飛びぬけて優秀だった数年前の先輩たちが、この魔装を作ったと言われている。ちなみに大学を卒業後はそのまま自衛隊に入隊したらしい。今頃、対魔獣部隊の開発チームで腕を振るっていることだろう」
「嘘でしょぉ……」
那谷が助けを求めるように遊佐を見た。
転落事故があり、気味の悪い校内放送があり、おまけにアンデッドが自分たちのいる部屋の扉を今にも壊そうとしている。そして、薬師寺はそれを先輩のお手製魔装で迎え撃とうとしている。
正直、無茶苦茶にもほどがある。
「それで、会長はこの先輩のお手製魔装でアンデッドを迎え撃とうって言うんですか?」
遊佐が薬師寺を睨むようにして言った。
薬師寺は涼しい顔で答える。
「ああ、そうだ。それ以外に方法はないだろう?」
「そんな、無茶ですよ! これの威力も分からないのに! だいたい、ちゃんとした魔装だったとしても、これは兵器なんですよ!? 俺達みたいな高校生に魔装が扱える訳ない!」
「大丈夫、使い方は前の生徒会長から聞いている」
「俺達の安全がかかってるのに、どうしてそんな平然としていられるんですか!? それとも、ここにあるのは防御型ですか?」
防御型魔装があるのなら、アンデッドの攻撃をかわしつつ安全なところまで避難することも可能だろう。走って階段を駆け下りて、グラウンドに出てもいい。
しかし、薬師寺は静かに首を横に振った。
「いや、ここにあるのは全て攻撃型魔装だ。諦めてこれで応戦するしか……おっと?」
その時、ガン! という音と共に、生徒会室の扉が外れた。
アンデッドは外れた扉を踏みつけるようにして、中へと入ってくる。
「アンデッドが入ってきちゃったわよ!? ど、どうすんのよ!」
那谷が遊佐の紺色のブレザーの袖をぎゅっと握る。
遊佐はゴクリと唾を飲んだ。
初めて間近で見たアンデッドは、遊佐が思っているよりもずっと体が大きかった。
さすが魔獣というだけある。
映画で見るゾンビは人間と同サイズだが、目の前にいるアンデッドはどう見ても人間の1.5倍ほどの大きさがある。体にはぼろ布のようなものをまとっている。
アンデッドは動きが遅いことで有名だが、万が一逃げ切れずに殴られでもしたら、無事でいられるとは思えない。
アンデッドは白濁した眼で遊佐達をとらえると、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。
「遊佐君と那谷さんは、後ろに下がっているといい」
薬師寺は二人を庇うように左手を広げ、右手にはいつの間にか銃型の魔装が握られている。
「会長!? 何をする気ですか!」
「よく見ておくといい。代々の生徒会長にだけ伝えられる、魔装の使用方法だ。合言葉を言うと、魔装を展開することができる」
薬師寺はそう言うと、覚悟を決めるように一瞬目を閉じた。
そして短く息をすうと、胸の前で魔装を構えた。
「魔装シフト!」
薬師寺がそう唱えると同時に、魔装を握った薬師寺の手元が白く光った。
シュンッという音とともに、薬師寺が持っている銃型魔装が一回り大きくなる。
銃型魔装は黒色のボディの中に、オーロラのように煌めく光をはらんでいる。
目の前の光景にただ息を飲むばかりの遊佐と那谷。それに対して、薬師寺は好戦的な笑みを浮かべている。
「僕も魔装で敵を攻撃をするのは初めてだ。初陣を見守ってくれたまえよ!」
本日は第5話まで更新予定です!




