25 体育館の騒乱
体育館の扉には防御型魔装が展開され、遊佐達は中に入れない。
力ずくで突破するしかない。
遊佐と那谷は渾身の力で、それぞれの魔装を敵の防御型魔装へとねじ込んだ。その時、たぷん、と敵の魔装の一部が大きく波打った。
その中央には、目をこらさないと分からないほどの、小さい穴が開いている。
友澤はそれを見逃さなかった。
「今だ、マーナガルム!」
友澤の声掛けと同時に、マーナガルムが床を蹴る。
マーナガルムは遊佐達が開けた穴をめがけて一心不乱に飛び込むと、その穴に鼻づらをねじ込んだ。
バチバチとまばゆい火花が飛び散り、穴が少し大きくなる。
するとマーナガルムはそのままスルリと穴に飛び込み、奥にあった体育館の扉を押し開けた。
「ワオーン!」
マーナガルムの遠吠えが響く。それと同時に、体育館を覆っていた防御型魔装がぱちん、と風船が弾けるようにして消えた。
「よし、相手の防御型魔装を強制リリースさせたぞ!」
友澤が興奮したように言った。
これで薬師寺たちを助けられる——と思ったのも束の間、マーナガルムが開け放った扉の先は、既に大混乱に包まれていた。
一目見ただけでアンデッドが複数出現しているのが分かる。
逃げ惑う生徒たち。
いたるところに倒れている血まみれの生徒。
県内でも屈指の広さを誇る星道高校の体育館。
そこは本来、スポーツで汗を流す生徒たちの爽やかな声や、吹奏楽部やコーラス部の心地よいメロディに包まれる場所だ。
そこに、今は生徒たちの恐怖の声や断末魔が響いている。
すでに体育館内にはうっすらと血の匂いも漂いはじめていた。
「間に合わなかったのか……?」
力なく呟く友澤に対し、遊佐の瞳はまだ何も諦めてはいない。
「まだできることがあるはずです。ほら、会長たちも頑張ってる」
遊佐の指さす先には、何十人という生徒たちを庇うように薬師寺が先頭に立ち、向かってくるアンデッド達に銃撃を飛ばしている姿があった。
「薬師寺君、無事だったのね! あ、アカネちゃんも!」
声を弾ませた那谷の視線の先には、逃げ遅れた生徒たちのもとに走り、迫り来るアンデッドを片っ端から長剣でなぎ倒していく剣崎の姿があった。
「俺は剣崎の援護に回って、無事そうな生徒を薬師寺たちのところへ合流させる」
友澤が言うと、那谷も状況を素早く判断して言った。
「私もアカネちゃんの援護に回ります。遊佐君は? 薬師寺君の応援に行く?」
「俺は……」
その時、体育館の前方のステージの上に避難していた生徒たちの中に、気になる人影を見つけた。
少し猫背気味の細い体、くしゃりとした黒髪。
「あれ、浅田じゃないか……?」
遊佐は、そのまま一心不乱にステージの方まで走る。
時に襲い掛かってくるアンデッドに電撃をくらわせながら、遊佐は片時も浅田らしき人物から目を反らすことはなかった。
那谷も友澤も、遊佐の後を追いかけたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、アンデッドは次から次へと湧いてくる。
襲われた生徒が、次々とアンデッド化するのだ。応戦している剣崎たちの顔にも明らかな疲労が浮かんでいた。
今はこの事態に収拾をつけることが先決だ。
「遊佐君、頼んだよ……!」
那谷はそう呟くと、薙刀型魔装を構え、剣崎の援護をするために体育館の混沌の中へと飛び込んだ。
◇
「浅田は何を企んでいる? この体育館内での混乱を見て楽しんでいるのか?」
遊佐は険しい表情で、前方ステージへと走った。
どうやら体育館のステージ側に無事な生徒が固められているらしく、彼らの先頭に薬師寺がいる。アンデッドを次々と銃型魔装で撃退していた彼は、遊佐を見て目を丸くした。
「遊佐君⁉」
薬師寺は驚きの表情をしながらも、アンデッドを撃退する手を止めることはない。
「どうやって体育館の中に入って来たんだい? 僕たちは閉じ込められていたはずだが。外からは簡単に入ってこれたのかい?」
「いえ、体育館の内部から防御型魔装が展開されていたようです。俺達は外から力ずくで防御型魔装を強制リリースさせたんです。……それよりも!」
遊佐は薬師寺に責めるような視線を向けた。
「奥に浅田がいます! 会長は浅田に気づかなかったんですか!?」
「浅田くんが? そんなこと言ったって、次々出現するアンデッドに対応するので手一杯だよ!」
遊佐が薬師寺と会話を交わしたわずか数秒。
その間、遊佐は一瞬、浅田から目を離してしまった。
「クソ! 見失った!」
浅田は体育館のステージから姿を消した。
「浅田なら、中庭の方に行ったぜ?」
ステージ上にいた生徒の一人が声をかけてきた。
中庭——それは、ほぼ封鎖された校内において、屋外に出られる例外のひとつだ。屋外に出られるのは屋上と中庭しかない。
体育館からは側面の扉を出て、植栽に囲まれた狭い通路を通った先に中庭がある。
今すぐ追いかけないと——と遊佐が側面の扉に足を向けた瞬間、ステージ上から悲鳴が上がった。
見ると、先ほど浅田が逃げた方向を教えてくれた男子生徒の目が白濁し、みるみる間に体中の筋肉が肥大し始めている。
太くなった腕が制服のシャツをブチブチと破り、その体つきはもはや人間のそれではなくなり始めていた。
男子生徒の焦点を失った目は天井を剥き、口からは獣のようなうめき声が漏れた。
その姿を認めた生徒たちが口々に悲鳴をあげる。
「クソ、ここでもアンデッドか!」




