24 封鎖された体育館
血の海と化した職員室から出た遊佐たちは、体育館に向かった他のメンバーと合流することにした。
しかし、ここで彼らの脳内に嫌な予感がよぎる。
「全校生徒が避難している体育館は、浅田にとって絶好のターゲットじゃないのか?」
遊佐がそう口にすると、友澤と那谷の顔がみるみる強張った。
「クソッ、俺としたことが、どうしてそんな単純なことを思いつかなかったんだ⁉ 先に体育館に向かった薬師寺たちはどうなった⁉ 職員室は後回しにするべきだった。お前ら走るぞ。体育館へ急ぐんだ!」
友澤を先頭に、遊佐と那谷が続く。
三人は息を切らせて、職員室から体育館までの廊下を一気に走り抜けた。
息が上がり切る前に体育館前に辿り着いた。ここの扉を開ければ体育館だ。
どうかみんな無事でいてくれ。祈るような気持ちで扉の取っ手に手をかけると、バチっという音と共に友澤の手が弾かれた。
「いってぇ! なんだよコレ!?」
「先生、大丈夫ですか? ……これ、防御型魔装だ。体育館の中から展開してるんだ」
「ハァ? ここでも防御型が出てくんのか? 校内を覆ってるやつだけじゃねぇのかよ」
友澤は痛そうに手をさする。
「誰が防御型魔装を展開してるのかしら? 薬師寺君たち?」
那谷が首を傾げた。
「いえ、生徒会室には防御型の魔装は無かったはず。俺が見たのはすべて攻撃型でした」
遊佐が言うと、友澤も頷いた。
「ああ、俺が生徒会の役員たちに魔装を作らせたときも、全て攻撃型だった。それに魔装は教員であっても校内持ち込み禁止だ。もしかしたら、校内規約を破って個人的に魔装を所持していた教員が、アンデッドの侵入を防ぐためにここで防御型魔装を展開している可能性もある。しかし——」
「体育館に避難した生徒たちが外へ逃げられないように、魔装で閉じ込めている可能性もありますよね」
遊佐と友澤はゴクリと唾を飲んだ。二人の予想は、同じ方向を向いている。
那谷だけが二人の意図をつかみかねている。
「ちょっと、遊佐君と先生だけで分かったような雰囲気出さないでよ! なんで私達は体育館に入れないのよ!?」
「つまり、防御型魔装を所持している奴が、中に生徒を閉じ込めようとしているんです。防御型魔装を一番所持していそうな奴は誰ですか? 校内に大型の防御型魔装を展開しているのは誰ですか?」
那谷はハッとする。
「まさか、中に浅田が……?」
「俺の予想が正しければ、そうです。浅田は校内を包むほどの大型の防御型魔装に加えて、小型の防御型魔装も所持していた。それで体育館の出入り口をふさいでいる。おそらく他の生徒に紛れてここに避難しているふりをしているんでしょう。浅田の目的ははっきりとは分かりません。でも俺が浅田なら——生徒を一か所に集めた上で蹂躙します。その方が効率よく生徒たちを殺せる」
「そんな……そんな! 中には薬師寺くんやアカネちゃん、ノドカもいるのよ!?」
「むしろ、浅田のターゲットは会長と副会長でしょう。浅田はあの二人にいじめに関する相談をしている。いじめが解決しなかった腹いせに、あの二人が体育館に入ったタイミングでここを封鎖した可能性が高い」
「おまけに、浅田は職員室の先生たちを惨殺した攻撃型魔装も持っていると思われる。最悪の展開だ」
友澤は唇を噛んだ。
「じゃあ、どうにかして早く体育館の中に入って、浅田を止めないとダメじゃん! ねえ、私達の持ってる魔装で、この防御型魔装を力ずくで破れないかしら?」
「無理だろう。魔装はそもそも対魔獣用に作られている。浅田の手製の魔装の強度が分からんが、ちょっとやそっとの衝撃じゃ破れない」
「そんなの、やってみないと分からないわよ! 魔装シフト!」
那谷は自身の薙刀型魔装を展開した。那谷の声とともに、魔装がシュッと縦に伸びる。
彼女は扉を見つめ、何度か深呼吸を繰り返した後、意を決したように薙刀の先端を体育館の扉へと突き立てた。
バリバリバリバリ!
薙刀の先端が当たったあたりから轟音が鳴り響き、鼓膜を揺らした。同時に飛び散った火花が、体育館の扉を明るく照らした。
那谷は奥歯を食いしばり、手に持った魔装に渾身の力を込める。その額には汗の玉が浮かんでいる。
「まだまだァ……こんな意味の分かんない騒動に負けてたまるもんですか。私は風紀委員長よ……この学校の乱れた空気は、私が正すッ!」
ぐぐぐ、と那谷の薙刀が防御型魔装の奥へと押し込まれる。
あと一押しだ。遊佐も一度深く息を吸い、唱えた。
「魔装シフト!」
遊佐の手にはめられたフィンガーレスグローブが、きらきらと輝き出す。
その輝きは闇夜に星を散りばめたようでもあり、絶望の中にわずかに見える希望のようでもあった。
「ああクソ、力ずくで突破するしかねぇな!」
友澤の声に反応し、横で待機していた狼型魔装マーナガルムが低い姿勢を取る。
那谷が薙刀型魔装を突き立てたあたりに、遊佐が手を添える。
「遊佐くん、直接触ったら痛いんじゃないの!?」
「痛みを感じないくらいに、こっちも電撃の出力をあげてやりますよ! 早くここを突破しないと、中でどうなっているか分かったもんじゃない。中に避難している生徒や、生徒会の仲間を見殺しにすることだけはしたくない!」
「そうね、一気にいくわよ! えいやぁぁぁぁ!」
那谷と遊佐の魔装から、防御型魔装の不透明な膜へと、ありったけの力が注がれる。
防御型魔装の表面が波を打ったように揺らぎ始めた。
「確実に効いてるぞ! あと少しだ! いいか、少しでも防御型魔装に傷が入れば、そこからマーナガルムが飛び込んで穴をこじ開ける。もう少し攻撃を続けろ!」
遊佐と那谷は揃って奥歯を食いしばった。
二人の手は、防御型魔装から絶えず放たれるビリビリとした衝撃で、今にも焼け付きそうだった。手先だけでなく、腕もジンジンと痛む。
二人の額には揃って汗の玉が浮き、その痛みが生半可なものではないことが分かる。
その時、遊佐達の攻撃ポイントを起点として、たぷん、と防御型魔装の一部が大きく波打った。
その中央には、目をこらさないと分からないほどの、小さい穴が開いている。
友澤はそれを見逃さなかった。
「今だ、マーナガルム!」




