20 撃破
家庭科室の中、遊佐、薬師寺、剣崎の三名は魔装を構えてアンデッドと向かい合っている。
極限まで高まった緊張感で、3人の喉はヒリヒリと焼け付くようだった。
「俺や会長の魔装では、目の前にいる融合型アンデッドには歯が立たない。皮膚が固すぎて、その表面を焦がすくらいのことしかできないんです。でも副会長の持っている長剣型であれば、アンデッドの皮膚を突き破って内部まで攻撃が到達するはずです」
遊佐は剣崎の目をまっすぐに見た。
しかし、剣崎は小さく首を振る。
「そんなんじゃアイツは倒せない! アンデッドは少々傷つけられても平気で動くのよ? 私の魔装が切り傷を作ったくらいじゃどうにもならないわ」
「いいえ、傷を作ることが大事なんです。副会長、いいですか。渾身の力であのアンデッドに魔装を突き立ててください! 会長は副会長を援護して!」
「わかった。でも、遊佐くんはどうするんだい?」
薬師寺が怪訝な顔で遊佐を見た。
「俺は副会長が攻撃したあとで……ああっ!」
その時、アンデッドの腕がしゅるんと伸びて、遊佐達の後方を狙った。どうやら後方にいる丸腰の生徒を狙っているらしい。
「説明している暇はない! 副会長、頼みましたよ!」
「頼まれたくないんだけど!」
剣崎は恐怖で思い切り顔を歪ませながらも、「やああ!」と声をあげながらアンデッドに向かって走って行った。
剣崎の動きに気づいたアンデッドの長い手足が、一斉に剣崎に狙いを定める。
まるで鞭のようにしなり、矢のようなスピードで剣崎に向かって行く攻撃を、薬師寺の銃撃が見事に弾いていく。
この短時間で、薬師寺の命中率も各段に上がっていた。
時折、薬師寺が防ぎきれなかったアンデッドの手足を、友澤の狼型魔装が飛びついて噛みちぎる。
即席の連携プレーにしては上出来だった。
剣崎は器用にアンデッドの手足をかわしながら、ついに奴の本体までたどり着いた。
「副会長、今です!」
遊佐の合図で、剣崎が魔装をぶすり、とアンデッドに突き立てる。
ブシュ、と赤黒い体液が飛び散り、剣崎の頬を点々と染めた。
その時、後方から走って来た遊佐が剣崎の横につけ、彼女の長剣型魔装の刀身に手を添えた。
「副会長、しばらくそのままでお願いしますよ」
遊佐のグローブ型魔装からパチパチと白い火花が飛び散る。
「表面に傷を作れなくても、内部の傷からなら俺の電撃も通るはず! 副会長、目を閉じて!」
剣崎が固く目を閉じる。
それと同時に、遊佐の魔装からまばゆい白い光と、バチバチと弾けるような電撃が繰り出された。
バリバリバリバリ!
鼓膜を強く震わせる轟音と共に、電撃が一瞬でアンデッドの体を包む。
家庭科室に、数秒の静寂が訪れた。
誰も動かない。何も動かない。
「遊佐君、やったのか!?」
静寂を破る薬師寺の問いに、目を閉じていた遊佐がゆっくりと目を開ける。
ゼロ距離で、なおかつ傷の内部から電撃をくらったアンデッドは、一瞬のうちに黒い炭と化した。表面がもろもろと崩れ出し、アンデッドは完全に動きを止めた。
家庭科室に肉をひどく焦がしたような臭いが漂う。
その臭いにやられたのだろう、後方にいる生徒の数人がえずいた。
「やりました。倒しましたよ……ふぅ、魔装リリース」
遊佐が魔装を解除したのを合図に、薬師寺と剣崎も魔装を解除する。
三人は胸の中につかえていた緊張感を全て吐き出すように、揃って長い溜息を吐いた。
「それにしても、酷い臭いだわ。焦げくさい臭いの中に、鼻を強く刺激するような別の臭いも交じっていて……やっぱり、人間じゃないのね」
「いいや、アカネ。多分、元は人間なんだよ。今日僕たちが倒したアンデッドは、おそらく全員うちの生徒だ」
「なんですって!?」
驚きで口をパクパクとさせる剣崎の肩に、薬師寺は優しく手を添えた。
「この融合型アンデッドの見た目からは分からないだろうが、僕たちはここに来るまでにも何体かアンデッドを倒してきているんだ。そのいずれも……うちの学校の制服を着ていた」
「校内でアンデッド化したってこと? ゾンビリオンは打たなかったの? 保健室に何本かあるはずでしょう?」
力なく首を振る薬師寺に代わり、遊佐が答える。
「おそらく、この騒動を起こしたのは一年の浅田という男子生徒です。彼はいじめの復讐として学校を封鎖し、アンデッドを複数出現させて、校内を地獄絵図にさせるという選択をしたんだ」
「浅田って……目安箱に投書してきた、浅田くん?」
「ああ、そうだ。アカネも校内放送を聞いただろう?」
「……いえ、聞いていないわ。音楽室は昼休みの間はスピーカーの電源が切られていたみたいね」
遊佐たちは、昼休みにあった浅田がやったものと思われる校内放送のこと、転落事故のこと、そして生徒会室からここに来るまでのことを剣崎に話した。
「そんなことがあったのね……。私とハヤトが、もっと浅田君の相談に親身になっていたら、こんなことにはならなかったのかも。いや、親身じゃなかった訳じゃない。ちゃんと相談に乗ったつもりだった。でも……それじゃダメだったのね」
剣崎が両手で顔を覆う。彼女の胸に広がる後悔が、深い溜息とともに外へ漏れた。
その時、友澤が遊佐達を呼んだ。
「重症だった女子生徒のことなんだが」
「そうだ、目黒川さん! 彼女の容態は!?」
遊佐たちは教室後方に寝かされた目黒川のもとへ駆けつける。
そこにはおびただしい量の血を垂れ流した目黒川がいる。彼女の目は固く閉じられていた。
「もしかして、もう彼女は……」
「いや、死んではない。寧ろ……おかしいんだ。傷が塞がってきている」




