19 合流
家庭科室の中、遊佐たちと対峙している融合型アンデッドの体の表面が大きく波打ちだした。
ヌチャ、ヌチャ、と肉を捏ねるような音がする。
「アンデッドの体がおかしいぞ。どうなっている!?」
顔を引き攣らせた薬師寺の横で、遊佐が冷静に口を開く。
「体を再構築している……のか?」
「再構築だって!?」
「奴の四つの顔のうち、俺達が三つを破壊しましたよね。ホラ、見てください。残り一つの顔が、どんどんアンデッドの体の肉の奥へと押し込まれていく。やはりアンデッドの弱点は頭で間違いない。でも、あいつは俺達が攻撃できないように頭を体内に収納してしまうつもりだ」
「クソ、させるか!」
薬師寺が銃型魔装から攻撃を放つ。
薬師寺のコントロールは完璧だったが、一足遅かった。アンデッドの最後の頭はすんでのところで薬師寺の攻撃をかわし、肉の壁の奥へと押しやられてしまった。
薬師寺の攻撃はアンデッドの体表を焦がしたが、先ほどよりも敵の硬度が増しているのか、決定的なダメージは与えられていないようだ。
「どうする、遊佐君」
薬師寺の額に、汗の玉が浮かぶ。
「体の表面でも構いません、同じ個所を交代で何回も狙いましょう。そうすれば、皮膚を焼き切って筋肉にダメージが到達するかもしれない。そうすればアンデッドに多少大きいダメージを与えられるはずです」
「よし、その作戦で……いや、だめだ!」
薬師寺の悲痛な声が響いた。
見ると、アンデッドからはいくつもの手や足が鞭のように伸び始めている。
先ほど目黒川の腹を貫いた時と同様、アンデッドはこちらを威嚇するように、鞭のように長い手足をしならせている。
「本当にどうなってるんだ!? 手足が伸びるアンデッドなんて聞いたことがないぞ!」
「もしかすると、浅田がアンデッドの生態を覆すような細工をしているのかもしれません。そんなことが可能なのかは分かりませんが……。とりあえず、あの長い手足を放っておくわけにはいかない。俺達の後ろにいる生徒が狙われます」
「じゃあどうすればいい!?」
「まずは手足を全て無力化するしかありません。頭や体表をどうこうする前に、奴の鞭のような手足を全て切断しましょう。できるだけ手足の付け根を狙うんです!」
遊佐と薬師寺は、無言でアンデッドの手足を狙い続けた。しかし、素早くしなる手足を正確に狙うのは至難の業だった。
おまけに、鞭のような手足はかなりの硬度があるらしく、遊佐や薬師寺の放った攻撃は何度も跳ね返された。
連続で攻撃を放ち、遊佐達の息が上がり始める。
その時、アンデッドの腕のひとつが遊佐達の攻撃をかわし、後ろにいる保田を狙って猛スピードで伸びた。
アンデッドの鞭のような腕。目を瞑る保田。
すべてがスローモーションで見える。
けれど、遊佐の魔装は帯電しきらない。これでは電撃を放てない。
駄目だ、間に合わない——
遊佐が唇を噛んだ瞬間。
「魔装シフト!」
家庭科室に、いるはずのない大人の男性の声が響く。
少し低くてよく通る、遊佐達が聞きなれた声。
そして、魔装を展開する声とともに、黒く光る毛皮をなびかせて一匹の狼が現れた。
どうしてここに狼が、と遊佐が考えるよりも早く、狼はアンデッドの腕に食らいつくとそれをそのまま嚙みちぎった。
床にアンデッドの腕がボトリと落ちる。
「おーい、助けに来てやったぞ」
家庭科室の扉から顔を覗かせたのは、音楽教師であり、生徒会の顧問でもある友澤だった。
「ハヤト、遊佐君、それに他のみんなも大丈夫⁉」
友澤の後ろから家庭科室に飛び込んで来たのは剣崎だ。
剣崎は大きな剣型魔装を振りぬき、近くでうねっていたアンデッドの腕のひとつを切り落とした。
「友澤先生、それに、アカネも!」
思っても見なかった援軍に、薬師寺の顔が輝く。
一方遊佐は、剣崎はともかくどうして友澤まで魔装を持っているのか、そしてあの狼は魔装という認識で合っているのか、と頭をフル回転させていた。
しかし、状況を正確に把握するのはアンデッドを倒してからの方がいい。
遊佐はすぐに頭を切り替えると、友澤たちに指示をした。
「今そこにいるアンデッドは、どうやら四体以上のアンデッドが融合してできたようなんです。腕や足が鞭のように伸びるので注意してください! それから、家庭科室の後方で目黒川さんという一年の生徒がアンデッドに腹部を刺されておそらく重症です。もし可能なら応急処置をお願いします」
遊佐の指示を聞いて、友澤が無精ひげに囲まれた口元をニヤリと持ち上げる。
「さすが、遊佐は冷静だな。よし、応急処置は俺に任せろ。俺の狼型魔装も展開したままにして、お前たちの援護をする。遊佐、薬師寺、剣崎、あとは任せたぞ。……死ぬなよ!」
友澤に名前を呼ばれた遊佐達は、無言で頷いた。
それぞれの目はアンデッドの姿をまっすぐに捉えている。
「アカネと先生が来てくれたおかげでとても心強いよ。しかし、あの固い皮膚の内側にどうやったら攻撃をねじこめると思う?」
薬師寺に問われ、剣崎はぐっと奥歯を噛んだ。
恋人同士でも、アンデッドを目の前にしては再会を喜ぶ暇もない。
音楽室では、剣崎はたった一体のアンデッドすら倒せなかった。
ましてや、今目の前にいるのは四体以上のアンデッドが融合した、とても大きい魔獣だ。
先ほどのようにデタラメに斬撃を放ったところで、目の前のアンデッドを倒せるとは思えない。
「どうしたらいいのかしら。やっぱり、私みたいなただの高校生に魔装を使うなんて無理があったのよ……!」
泣きそうになる剣崎は、剣型魔装をグッと握り直す。
それを見て、遊佐はあることを思いついた。
「外から攻撃しても効かないのなら、内部から攻撃すればいいんだ! 副会長が来てくれたおかげで、活路が見いだせましたよ!」




