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18 血で染まるシャツ

 友澤、剣崎、それから音楽室にいた二名の女子生徒たちは、自分たちが置かれている状況についてしばらく話し込んだあと、四人で連れだって音楽室から出た。


 音楽室の周りはしんとしている。

 しかし異様な不気味さが漂っているのを、剣崎は肌ではっきりと感じ取っていた。


「とにかく、魔獣が出たことを他の先生方に報告しなくちゃならん。一旦、職員室に行くぞ。ハァ、音楽室はアンデッドの体液やら何やらですぐには使い物にならないだろうし、授業がつぶれた分の埋め合わせを考えると、頭が痛いな」


 友澤は校内にアンデッドが出たという異常事態にも関わらず、教師らしい悩みで深い溜息を吐いた。

 よく言えば冷静だし、悪く言えば楽天的すぎる。


 校内で起こった異常が音楽室のアンデッドだけじゃなかったらどうするのよ。剣崎はそう思いながら楽天的な友澤を小さく睨んだ。


 剣崎たちが階段を下りようと四階の踊り場に差し掛かると、何か物音が聞こえてきた。それは音楽室からは階段を挟んで真反対の方向から聞こえてくるようだ。


「向こうから何か聞こえないか?」


「そういえば、話し声が聞こえるわね。あっちは家庭科室か。こっちの騒動に気づかずに次の授業の準備でもしてるんじゃ……って、コレ!」


 剣崎がハッとして、家庭科室へと続く廊下を指さした。

 そこには何かを引きずったような、赤黒い線が何本も連なっている。


「何よ、この跡……まさか、血?」


「おいおい、音楽室に限らず家庭科室でも問題発生か?」


 剣崎と友澤は思わず目を合わせる。


「様子を見に行きましょう。職員室に行くのはその後ね」



 その頃、家庭科室では魔装を構えた遊佐と薬師寺が、融合型アンデッドと睨み合っていた。彼らの後ろでは、丸腰の生徒たちが震えながら肩を寄せ合っている。


 融合型アンデッドは複数の目を、それぞれの方向にせわしなく動かしている。それは無秩序のようで、しかし次の獲物を一生懸命に選別しているようにも見えた。


「このまま睨み合っていてもしょうがありません。会長、アンデッドを攻撃してなんとか倒しましょう」


 遊佐がアンデッドを睨んだまま言った。薬師寺もアンデッドから目を離さず頷く。


「そうだな。確か、アンデッドの弱点は頭部だったね? これだけ団子状になっていても、弱点は頭部ということでいいのだろうか」


 目の前のアンデッドは、目視できる限りだと四つの頭がある。


「攻撃してみなくちゃ分かりませんが、とりあえず今見えている四つの頭を全て破壊しましょう。そこまで痛めつければ、アンデッドも普通には動けないと思います。最悪、倒しきれなくても奴の動きが鈍ったのを確認して皆で避難してもいい」


「わかった。その作戦でいこう。じゃあ僕から行かせてもらうよ!」


 薬師寺はそう言うと胸の前で銃型魔装を構え直した。体の前に突き出すようにして両手で魔装を構え、その引き金に指をかける。


 銃型魔装の銃口が白い光が灯る。その光はみるみる大きくなり、薬師寺が引き金を引くと同時にアンデッドに向かって素早く飛び出した。


 パァン! という破裂音とともにアンデッドの顔のひとつが弾け飛ぶ。

 細かな肉片と体液がびちゃびちゃと飛び散り、近くの床を汚した。

 アンデッドが少しよろめくと同時に、他の三つの顔が一斉にうめき声をあげだした。


「頭同士が痛みを共有しているということかい?」


「細かい考察は後です! 次は俺の番です。くらえ!」


 遊佐がグローブ型魔装を構え、そこからバチバチと音の鳴る電撃を放つ。

 それはジグザグと稲妻のような軌跡を描いて、アンデッドの顔のうち二つに命中した。

 二つの顔を中心に、その周りが黒く焼け焦げる。

 プスプスと空気が逃げる音と、焦げ臭い臭いが辺りを漂う。


「さすが遊佐君! 威力が段違いだね」


 薬師寺が顔を綻ばせる。遊佐も確かな手ごたえを感じた。

 あと一つ顔を潰せば、こいつを倒せそうだ——と遊佐が確信しかけた時、後ろにいるはずの深津が声をあげた。


「おい、目黒川! 何してるんだ!?」


 その声に振り返ると、家庭科室後方の扉から穴井が廊下に出ようとしていた。


「自分だけ逃げる気か!?」


 声を荒げる深津に、目黒川の声が震える。


「そいつらとの戦いに巻き込まれて死ぬのはごめんよ! 会長たちがバケモノを引き付けてる今なら、体育館まで安全に逃げられるはず! 皆も逃げたほうがいいよ」


「待つんだ、目黒川さん! 一人で逃げるのは危険だ——」


 薬師寺が声をかけた瞬間、薬師寺の横をヒュッと長いものが、猛スピードで横切った。


 それがアンデッドから伸びた腕である、と遊佐が認識したときには、既にアンデッドの伸びた腕は目黒川の腹部を貫いていた。


「ガッ……ハァッ……」


 扉に手をかけていた目黒川の口から、大量の血が漏れる。


 ぬちゃり、と血に染まったアンデッドの腕が引き抜かれ、彼女はそのまま後ろ向きに倒れた。

 倒れた目黒川の制服の白いシャツが、どんどん赤く染まっていく。


「きゃああ! 目黒川さんッ!」


 悲鳴を上げながら彼女に向かって手を伸ばしかけた保田を、遊佐が制する。


「ダメだ保健委員長、手を伸ばすな! アンデッドの攻撃の的にされるぞ! 全員、俺と会長の後ろから出るな。全員で固まって身を固くしてろ! どこからアンデッドの攻撃が伸びてくるか分からないぞ!」


 遊佐に言われて、丸腰の生徒たちはひしめきあうように固く身を寄せた。

 そうしたところで、安全が保障された訳ではない。


 すべては魔装を所持している遊佐と薬師寺にかかっている。


 その時、アンデッドの体の表面が大きく波打ちだした。

 ヌチャ、ヌチャ、と肉を捏ねるような音がする。


「アンデッドの体がおかしいぞ。どうなっている⁉」


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