13 融合型アンデッド
家庭科室後方で保田たち丸腰の生徒が見守る中、遊佐たちは魔装を装備して融合型アンデッドと向かい合った。
「ウウウ……アアア……」
アンデッドの低くくぐもったうめき声が聞こえると、那谷が顔を大きくしかめる。
「うぇ、気持ち悪いっ! こいつらの見た目はもちろん、声も気持ち悪い!」
「確かに気持ち悪いですが……このアンデッド達、苦しんでいるようにも見えるんです」
遊佐はアンデッドを憐れむような目で見た。
「数時間前まではきっと人間だったのに、普通の人生を歩んでいたのに、急にこんなバケモノになって体の自由も効かなくなるなんて。このうめき声は、きっとアンデッドの嘆きなんですよ」
「嘆き……ね。はぁ、こんな時でも遊佐君は冷静なのね。事態が収束したら詩人にでもなるといいわ」
「あ、風紀委員長、俺のことをバカにしてますよね?」
「バカにはしてない。私は……さっさとこの戦いを終わらせたいだけ!」
薙刀型魔装を構えた那谷が床を蹴る。
「えいやぁ!」
融合型アンデッドの体の下方についていた顔の一つに、薙刀の先端がぶすりと突き刺さる。
「やったね那谷さん! 早速一つ倒したじゃないか!」
アンデッドは頭が弱点だ。全ての頭を潰せば、この敵の動きも止まるだろう。
しかし薬師寺の弾んだ声に対し、那谷は固い表情で眉をひそめている。
「どうしたんだい、那谷さん?」
「ぬ、抜けないの……! アンデッドに刺さった魔装が、さっきみたいに簡単には抜けないの!」
那谷は渾身の力で薙刀を引き抜こうとするが、薙刀はアンデッドの顔の一つに深くめりこんだままビクともしない。
その時、アンデッドの上部から生えていた腕の一本がにょろり、と伸びた。
「腕が伸びた⁉︎ そんなのアリかい⁉︎ 那谷さん、一旦魔装を解除して——」
魔装を解除してアンデッドから引き抜けるか試せ、と薬師寺がアドバイスするよりも早く、アンデッドの伸びた腕は家庭科室にあったワゴンを掴むと軽々しく持ち上げ、那谷に向かってブンと放り投げた。
「保健委員長! 避けて!」
遊佐の声に反応した那谷は魔装から手を放し、とっさに腕で顔と頭をかばう。
ドン! という鈍い音とともにワゴンは那谷に激突し、彼女は後方に吹っ飛ばされた。
「ナギちゃん!」
保田が悲鳴を上げながら那谷に駆け寄る。
那谷はぐったりとして動かない。
「保田さん、那谷さんは!?」
「ダメ、頭を打ったのか、意識がない! 呼びかけに反応しないの。息はしてるんだけど……どうしよう」
保田は泣きそうな声で言った。
「保田さんはそのまま那谷さんに付き添ってあげてくれ! このアンデッドは僕と遊佐君の二人で倒す!」
薬師寺は威勢よく言い放ったものの、彼の手は小刻みに震えている。
通常のアンデッドならまだしも、目の前にいる相手は複数体が融合したバケモノで、力の強さも未知数だ。普通のアンデッドの数倍の強さがあっても不思議ではない。
おまけに腕が伸びたり、刺さった魔装が抜けないなど、その生態は謎に包まれている。
アンデッドは那谷が刺した薙刀型魔装を、ヌチャリ、と音を立てながら引き抜いた。
薬師寺が小刻みに震える横で、遊佐は頭をフル回転させていた。
那谷がダウンした今、ここで薬師寺と二人で応戦して勝ち目はあるのか?
仮にここで時間を稼いで、その間に丸腰の生徒たちを体育館に避難させることは可能だろうか?
いや、無理だ。
遊佐は唇を噛む。
体育館に避難するまでの道筋にアンデッドがいない保証がない。せめてあともう一人魔装を使える人間がいれば、避難誘導をする人間と、ここで時間稼ぎをする人間に分かれることができるだろう。
しかし、強さが未知数のこの融合型アンデッドを、一人で抑え込むのは無理がある。
遊佐は自分の後方にいる生徒たちを見回して言った。
「おい、誰か風紀委員長の代わりに魔装で戦ってほしい。俺と会長だけじゃどうにもならない!」
アンデッドは自身に刺さっていた薙刀型魔装を抜き取ると、その辺にポイと投げ捨てた。あれを拾えば他の者でも戦えるはずだ。
しかし、遊佐の声に応える者はいない。皆、泣きそうな顔で震えながら遊佐を見るばかりだ。
「保健委員長!」
遊佐は保田の顔を見るが、保田も泣きながら首を横に振っている。
おぞましいバケモノを目の前に、誰も勇気が出なかった。
「クソ! どうすればいい? どうすれば……」
悪態をつく遊佐の横で、薬師寺がぼそりと呟いた。
「こんな時、アカネがいてくれたら……」
「アカネ? 副会長のことですか」
「ああ、アカネだったらこの状況を打破してくれるだろう」
遊佐は人一倍気の強い生徒会副会長・剣崎アカネの顔を思い浮かべた。
確かに彼女ならこの状況で、迷いなく薙刀型を手に取りアンデッドに立ち向かっただろう。
「でも、いくら副会長でも、薙刀型の魔装なんて使えるでしょうか」
よくよく考えてみれば、勇気があったところで薙刀のように扱いにコツがいる武器を使いこなせる人間なんて限られている。
あれは薙刀部の那谷だから使えた代物だろう。
その時、薬師寺が驚くべきことを口にした。
「いや、アカネは……いま、長剣型の魔装を持っているはずなんだ。もし彼女が僕たちを助けに来てくれたなら——」
「はぁ!? 剣崎さんがどうして魔装を?」
薬師寺は今から一時間ほど前、昼休みの始めの出来事に想いを馳せた。




