12 大きな来訪者
「これも全部、理数コースの奴らのせい……特に、イジメの主犯格だった目黒川のせいなんだよ!」
深津は、アンデッド騒動の原因は目黒川だと言わんばかりに彼女を糾弾した。
名指しにされた目黒川は、先ほどよりも体を小さくして震えている。
「君が浅田君に対するイジメを……?」
薬師寺が尋ねると、目黒川は震える声で反論する。
「あ、あたしだけじゃありません……! 皆やってた。皆あいつを無視してた! それに、浅田ってキモくないですか? ガリガリだし、チビだし。そのくせ自分の成績の良さを鼻にかけてて、周りを見下していて……」
目黒川はヘラヘラと笑いながら弁解する。
「だからって、彼に嫌がらせをして良いという理由にはならないだろう?」
「嫌がらせっていう程じゃないです! ちょっとした悪ノリっていうか」
「黙れ! いい訳はやめろ!」
深津が怒鳴るように会話に割って入る。
「いいか、お前らが浅田をいじめたせいで、あいつは自暴自棄になって学校全体を巻き込む騒動を起こしたんだ! 関係ない俺達まで巻き添えだ! 俺の一番仲良かった奴はなぁ、教室に入って来たアンデッドに一瞬で首を引きちぎられたんだ! 死んじまったら、いくらゾンビリオンがあっても助かりっこねぇ! 全部、全部、全部お前のせいなんだあぁぁ!」
「深津、落ち着け」
遊佐は、半狂乱になって目黒川に食って掛かろうとする深津を羽交い絞めにする。
深津の目から零れ落ちた涙が、遊佐のブレザーの腕の部分を濡らした。
「目黒川たちの処分に関しては、自衛隊が到着して学校が落ち着くまでどうしようもない。ここで責めたってしょうがないだろ」
「クソ、遊佐も冷静に言うんじゃねぇ! 目黒川のせいで、目黒川のせいで……!」
家庭科室に深津の涙声が響く中で、保田がきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「保健委員長、どうかしましたか?」
「ねぇ、なんか変な音しない? 重い物を引きずるような、ズリズリ……みたいな音だよ」
保田の指摘に、全員が耳を澄ませる。
家庭科室が一瞬の静寂に包まれた。
その静寂の向こうから、確かに何かを引きずるような音が聞こえてくる。
すると——
ドン! ガン!
次の瞬間、何か重いものが家庭科室の扉にぶつかった。同時に、扉の向こうにやたらと大きな影が見える。
人影ではない。縦にも横にも大きすぎる、不気味な影がそこにあった。
突然の出来事に、そこにいる全員が体を固くして扉の方を注視する。
ドン! ドン! ガン!
大きな影は、明確にその扉を狙っている。まるで、扉の先にいる遊佐達に狙いを定めているようだ。
「だ、誰よ!?」
那谷が震える声で尋ねるが、返答はない。
「ナギちゃん、返事なんかあるわけないよ! あれ、絶対に人間じゃないって! 影が大きすぎるもん」
保田が泣きそうな声で言う。
「アンデッドがまた来たってこと? それにしては大きすぎない? アンデッドってあんなに大きかったっけ!?」
次の瞬間、家庭科室の扉が外からの殴打に耐えかねて割れた。
割れて崩れた扉を踏みしめ、中に入って来たバケモノの姿を見た全員が言葉を失った。
それは、今まで見てきたアンデッドの三倍ほどの横幅があり、テレビでもインターネットでも見たことがないようなグロテスクな魔獣だった。
「オエ! キモすぎ! どうなってんのよアイツは!? 複数のアンデッドが合体してる魔獣なんて見たことも聞いた事もないわよ!!」
那谷の悲鳴に近い声が響く。
家庭科室に現れたアンデッドは、少なくとも四体以上のアンデッドが団子状に融合したバケモノだった。
顔や手足がデタラメな方向から生えていて、足のひとつは本来顔があるであろう体の上部から逆さまに生えている。おまけに体のいたるところから髪の毛のような長細い体毛が垂れさがっており、気味の悪さに拍車をかけている。
融合型アンデッドは重そうに体を引きずりながら、家庭科室の中へと入ってくる。
「一般生徒は生徒会役員の後ろに隠れるんだ!」
震えあがる生徒たちに、薬師寺が声をかける。
「魔装を持っていない保田さんも僕たちの後ろへ!」
「ねぇ、また戦うってこと!?」
那谷が半泣きで問う。
「そうするしかないだろう。逃げても追いかけてくるだろうし……それにしても、この団子みたいなアンデッドも、元はうちの生徒なんだろうか……。次から次へと、本当に勘弁してくれよ!」
唇を噛む薬師寺に、遊佐が言う。
「今はそんなことを考えている場合じゃありません。生徒会長も風紀委員長も、準備はいいですね?」
遊佐、薬師寺、那谷の三人は胸の前に魔装を構える。
その後ろで、他の生徒たちは不安そうにその様子を見守っている。
「いきましょう。魔装シフト!」
遊佐の声に合わせて三人全員が魔装を展開する。
急に目の前に現れた魔装に、他の生徒たちは息を呑んだ。
どうして自衛隊でもない一般の高校生が兵器である魔装を所持しているのか。
そして自分たちは助かるのか。
皆誰かに尋ねたい気持ちをぐっとこらえ、ただ静かに状況を見守るしかなかった。
魔装の出どころを知っている保田だけは、ただ純粋に三人の無事を祈っている。
「遊佐君、薬師寺君、ナギちゃん……! どうか、どうか怪我しないで!」




