10 もうヒトじゃない
「そんなので戦えるの?」
那谷は遊佐のフィンガーレスグローブ型魔装を見ながら怪訝な顔をした。
那谷と薬師寺の魔装は展開後に大きく変形するが、遊佐の魔装は見た目がほとんど変わらないからだ。黒いグローブはキラキラと光ってはいるものの、どういった攻撃を繰り出せるのかも、見た目からは分からない。
遊佐は那谷を安心させるように、ニッと口角を上げた。
「やってみなくちゃ分かりませんよ。さあ戦いましょう。アンデッドはすぐそこまで来ています」
遊佐、那谷、薬師寺の三人はアンデッドの方へ向き直す。
全員、先ほどよりも表情が固い。
状況を飲み込みきれない保田は、三人の数歩後ろで口をアワアワと震わせている。
「ど、ど、どうして三人は自衛隊が持ってるのと同じような攻撃型魔装を持ってるわけ!? それってすんごい高いんでしょ? 高校生が持てる代物じゃないじゃん! それに先生であっても校内に魔装の持ち込みは禁止のはずじゃぁ……?」
「詳しい話は後よ! ノドカはそこから動かないで!」
那谷は保田に動かないように指示すると、遊佐と薬師寺に先駆けて足を踏み出した。
「えいやぁ!」
那谷は長く伸びた薙刀型の魔装を、アンデッドの腹に勢いよく突き立てた。そしてそのまま、直線を描くように真横に振り切った。
ブシュ!
アンデッドの腹が大きく切り裂かれ、赤黒い体液がボタボタと地面に垂れる。
攻撃を受けたアンデッドは一瞬よろめいたものの、白濁した目で那谷をとらえると、ゆっくりとした足取りで再度彼女に近づいた。
「うう、キモ! キモすぎ! 寄ってこないでよ!」
那谷が顔をしかめる。
「那谷さん、頭だ! アンデッドの頭を狙え!」
薬師寺が声をかけるが、那谷は「嫌よ!」と首を振る。
「頭を狙ったら、このアンデッド死んじゃうわよね? だって見てよ、このアンデッドもうちの制服を着てるのよ? もう誰だかわかんないけど、私達と同じ生徒じゃない。殺せる訳ない!」
「冷静になれ、那谷さん! 僕もさっきまではそう思っていた。でも、見た目で人間と分からなくなるほど体内浸食が進んだアンデッドを、元の姿に戻す方法はないんだ。彼らはつい数時間前まではうちの生徒だった……けれど、今はもうヒトじゃないんだ! バケモノなんだよ!」
「そんな、そんな……!」
「それに、ここでこのアンデッドを倒さなきゃ、後ろにいる保田さんも危ない。僕たちは既にアンデッド化してしまった生徒たちを排除しながら、できるだけ早く自衛隊を呼ばないといけない。僕たちがまごついていたら、被害は拡大する一方だ!」
薬師寺の説得に、那谷は強く唇を噛む。
「僕だって本当は誰も殺したくない! でも、やるしかないんだ! 僕も目の前のアンデッドの頭を狙う。那谷さんは君のすぐ前にいるアンデッドの頭をその薙刀型魔装で一突きにするんだ! 僕がカウントするから、同時にやろう。いくぞ、さん、にぃ……いち!」
薬師寺がカウントし終えると同時に、彼の銃型魔装の銃口が白く光る。
銃口から飛び出た光が薬師寺の前にいたアンデッドの頭を破壊するのと、那谷が彼女の前にいたアンデッドの頭を一突きにするのが同時だった。
薬師寺が倒したアンデッドは頭を潰された衝撃で後ろにのけぞるようにして倒れ、那谷が倒したアンデッドは彼女が魔装を引き抜くと同時に、その場に崩れ落ちるようにして倒れた。
「こっちは倒したぞ! あとは遊佐君だけだ!」
薬師寺たちの視線が遊佐へと集まる。
遊佐は自分の方へと歩み寄るアンデッドをまっすぐに見据えながら、両手を並べ、手のひらを前に突き出すように構えた。
遊佐のグローブがバチバチと火花を散らしながら帯電する。
「いけ!」
遊佐が声をあげると同時に、グローブから電撃が繰り出される。
それは稲妻のようにジグザグとした軌道を高速で描きながら、アンデッドの胸に命中した。
胸に命中した雷撃は一瞬でアンデッドの全身を貫き、その体を一瞬のうちに黒く染め上げた。炭化したのだ。
炭化したアンデッドはそのままの体勢で前方へと倒れると、地面にぶつかった衝撃で体の一部がボロボロと崩れ落ちた。
「な、なんという威力だ……」
薬師寺達が目を丸くする一方で、遊佐は痛みに顔を歪める。
「いってぇ……」
「遊佐君、大丈夫?」
後ろから保田がかけよる。
「ええ、少し痺れますが、大丈夫そうです。この魔装は肌に密着しているからか、電撃を繰り出す際に使用者にもそれなりの衝撃を加えてしまうみたいです。あまり実用的とは言えませんね」
遊佐はアンデッドが三体とも動かなくなったのをその目で確認すると、ふぅーっと息を吐いてその場にしゃがんだ。
薬師寺と那谷が駆け寄ってくると、不機嫌そうに腰に手を当てた保田が皆を見回して言う。
「無事にここにいるアンデッド達を倒したことだし、どうして三人が魔装を持っているのか、説明してもらうからね!」
◇
遊佐たちは、これまでの経緯を保田に説明した。
「ふうん、そんなことがあったのね。あーあ、わたしも生徒会室に行っておけばよかったな。そしたらアンデッドに追いかけ回されずに済んだのに」
保田は太めの眉をハの字にして溜息を吐く。
「保田さんはどうして生徒会室に来なかったんだい」
薬師寺が尋ねると、保田はじっとりとした目で薬師寺を見た。
「だって、薬師寺君ってば毎回どうでもいい内容でわたしたちを呼びつけるんだもの。どうせ次の定例会が明日あるから、その時に話を聞けばいいと思ったのよ」
「どうでもいい話って、そんな言い方しなくてもいいじゃないか」
薬師寺がムッとするのを無視して、那谷が保田に尋ねる。
「そういえば西校舎はさっきより少し静かになったわね? 他の生徒たちはどうしているのかしら」
「先生たちが走り回って、アンデッド化した生徒をほうきとか椅子で抑えながら、無事な生徒は体育館へ避難させたはずだよ」
「先生たちも無事に避難できたのかしら?」
「それが分からないの。私も生徒会の役員として生徒の避難を誘導してたんだけど、そしたら三体ものアンデッドに追いかけ回される羽目になっちゃって……ぐすん」
「それは災難だったわね。とにかく、今は自衛隊に救助を要請しなきゃ。電話がある職員室へ向かいましょう」
那谷はそう言うと、眼鏡をクイッとあげて立ち上がった。




