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恋愛相談は仕事の後で

 あの日以来、とにかく人目が辛くなった。向けられる視線が痛いのだ。

 だが、それも当然。俺でも自分を客観的に見れば道化以外の何者でもないと判るのだから。世に聞くロマンス詐欺の被害者もきっとこんな感じなのだろう。

 いや灯里(あかり)はそれとは違うのか? あいつは最初から恋愛を取引と見ていたわけでそれを隠そうともしていなかったわけだし。つまりそれに乗せられて依存した俺が馬鹿だったというわけだ。

 令子の言じゃないが玉美と俺の関係は正にざまぁに違いない。俺に棄てられた玉美はイケメンとやり直し、対する俺は灯里に好いように利用された末に棄てられた。『ざまぁ男爵』とはなんとも巧いことをいったものだ。


 はぁ~……。

 本当、ため息しか出てこないよな。


「何がため息しか出てこないよ。

 なにが遭ったか知らないけど仕事中に他所事を(かま)けてるとミスするわよ」


 どうやら声に出ていたようで清水に聞かれていたらしい。しかしいつから?

 いや、それは今はどうでもいい話か。確かに彼女の言う通り仕事中に私情を持ち込むとミスを招くのはその通り。


「ああ、そうだな」


 俺は手許の書類を丸めるとそのままゴミ箱へ──。


「ちょっと、なにやってんのよっ。せっかく書いた発注書を丸めて捨てるなんて」


「え?」


「もうっ、悩みなら後で聞いてあげるから今は仕事に集中してよ。じゃないと本当に取り返しのつかないミスをするわよ」


 思ったよりも重症らしい。まさかこんなつまらないミスをしてしまうとは。お陰でまた発注書を一から書き直しだ。まさかくしゃくしゃになったそれを送り付けるわけにはいかないし。エクセルくらい導入すればと思うけどここみたいな中小規模のスーパーじゃそれも難しいんだろうな。

 仕事絡みでありながらもやはり他所事を考えてしまう。これも現実逃避なのだろう。ならば今は仕事に集中だ。同じやるならば今やるべきことをやるべきだし、なにより本来仕事の時間なんだからそれをするのが筋というものだ。




「ぷっ……。

 あ、ご、ごめん。笑い事じゃあなかったよね。ただ、あまりにも巧いこと言ってるからつい……」


 閉店後、俺と清水は近隣のファミレスへ来ていた。約束通り俺の悩み相談に乗ってくれているわけだがこれは酷い。いかに先輩で教育係とはいえやはり俺と同世代の女の子ということか。

 なお俺がこうして呼び捨てにしているのは彼女が俺と同じ歳であったからだ。もちろん彼女自身が立場を意識するよりもフレンドリーさを求める人間であったこともあるのだが。そしてそれ故にこうして遠慮なく……。やはりショックだ。


「でも自業自得かな。

 前の彼女、玉美さんだっけ? 彼女はまあよくある典型的な無邪気タイプだったんでしょうね。つまり悪気なく周囲を振り回すタイプ? 打算とかそういうのがない純粋なプラトニックだったんだと思うよ? それだけにちょっと可哀想……。

 今付き合っているっていう新しい彼氏だけど……。

 う~ん、どうなんだろう。三枝くんへの当て付けとかじゃないと良いんだけど……」


「は? なんだよそれ?

 いや、それよりも女ってそんなことで男と付き合ったりできるもんなのか?」


 俺の心配かと思えば玉美の方の話をする清水。そしてわけが解らない心理分析。もう少し女性っていうのは賢いものだと思っていたのだが……。


「まあ、人間っていうのは理性よりも感情が先にくるものだしね。だからもし彼女が三枝くんに固執していたとするとそういうこともあり得るのかなぁなんて思っちゃって」


 …………。


「まあ、あくまでもこれは可能性の話ね。

 多分三枝くんに振られたところを慰められてそこで落ちちゃったってのが本当のところかな。女の子って優しく守ってくれる男の人に弱いから」


「つまり世間知らずのお姫様タイプって感じか?」


「あははは。三枝くん、巧いことを言うね。

 だけどずばりそんな感じかな。女の子っていつだって王子さまに憧れるお姫様なんだよ」


「なるほどなぁ。道理で俺を従者のように連れ回してたわけだ」


 なんというか納得してしまった。多分そういうことなのだろう。


「でも、そうなるとあいつ……」


「うん、でもそこはしょうがないんじゃない? 端がどうこう言ってみたところでこればっかりは当人が決めることだから。

 それとも三枝くん、玉美さんに未練でも湧いてきた?」


「いや、それはないな。

 たとえ俺たちにどんな経緯があったとしてもそれはもう済んだことだし、それにあいつらが巧く付き合っている可能性があるのならば横から口を出してぶち壊すなんていうのも違う気がするしな。

 結局のところ恋愛ってのは自己責任でするものってことか……」


 未練がないといえば嘘になるけど、しかしそれはもう恋愛感情とは別のものだ。強いて言うなれば……なんだろう? 妹とかそんな感覚か?


「なんか悟っちゃった人みたいなこと言ってる……。

 でも、この分ならもう問題ないかな?」


「ああ、確かにな。

 さすが完全にってわけにはいかないけど、それでも気持ちの整理には役立ったよ。

 相談に乗ってくれてありがとうな」


 やはり持つべきは良い相談相手だ。

 あいつらもこれくらい人間ができていたらなぁ……。


「えっへん。これでも三枝くんの先輩で教育係だもんね。だからこれくらい当然だよ」


 ……これがなければ格好良かったんだけどなぁ。

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― 新着の感想 ―
相談できる人がいて良かったねえ。 いなかったら只管腐っていたかも知れないもんなあ。
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