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快炎鬼  作者: 吉田四郎
14/50

十四の炎

十四の炎

広々とした無人の体育館内の上部の窓から強い陽が差し込み、フローリングの床を明るく照らしていた。

館内の中央付近には三尺(約90㌢)四方ほどのテーブルが一つと、試し斬り用の  畳表たたみおもて一脚いっきゃく立っていた。

テーブルの上にはさやに収まっている刀剣と、上部に少し長めのつるが付いた、一個の大きなスイカが置かれていた。

館内の出入り口のドアが静かに開き、六尺(約180㌢)のアルミの脚立きゃたつを肩にかついだ足立が入ってきた。

全身黒一色の凛々(りり)しい剣道袴けんどうはかま姿で白いたすき掛けをしたアララが、足立の後に続いて入ってきた。

アララと足立は館内の中央に置かれていたテーブルに近づき、両サイドに立った。

足立は勢いよく脚立をパッと開いて立てると、その場から横に離れていった。

アララはテーブルの上に置かれていた大きなスイカの横面を、上下に軽くさすった。

アララに撫で擦られたスイカのしま模様がフェードアウトして、西中の顔がゆっくりと立体的に浮かんで来た。

スイカ顔の西中は、目を上下左右に動かし、現状の異変をさとって仰天した。

「ゲッ!」

「ど、どうなってんだ!」

足立に向かってアララが片手を差し出すと、足立がスマホを手渡した。

スマホの画面を鏡にしたアララは、ニッコリと笑いながらスイカ顔の西中に見せた。「見ての通りよ」

「あなたはスイカになってしまったの」

スマホ画面を見た西中は、目が飛び出すほどに仰天した。

「ギャアアア―――ッ!」

横目で足立を追った西中が、怒鳴りつけた。

「なぜ、お前がここにいるんだ―ッ!」

足立はさげすんだ眼で、西中を無言で見下した。

「…………」

西中が叫んだ。

「おい、こらッ!」

「何とか、言え―――ッ!」

足立はゆっくりした口調で、西中に応えた。

「な・ん・と・か……」

スイカ顔の西中は激怒した。

「ざ、ざけんじゃね―――ッ!」

アララは激怒している西中に聞いた。

「あなたのお名前、何ていうの?」

「西中だ」

「そ、それがどうした?」

「西中クンに教えてあげるわね。西の瓜と書いて、スイカと読むのよ」

「知ってるよ」

「南の瓜と書いて、南瓜なんきんなの」

「そうかい。知らなかったよ」

「じゃあ、東の瓜と書いて、どう読むのか知っている?」

「知らねーよ」

「私も知らないわ」

西中は再度、激怒した。

「こら―――ッ!」

「ふざけるな―――ッ!」

スマホを手にしていたアララはいかれる西中から離れ、試斬台しざんだいに立てられている畳表たたみおもてに近づき、片方の手で畳表の上部を撫で擦った。

畳表の井草が消えて、スイカと同様に松本の顔が立体的に畳表に現れた。

松本は西中と同じように驚き、同じことを言った。

「ゲッ!」

「ど、どうなってんだ?」

アララは西中と同様に、松本にもスマホの鏡を見せた。

松本は悲鳴に似た声を上げた。

「ギャアアア―――ッ!」

「な、な、なんじゃ、こりゃあ―――ッ!」

アララは笑顔で応えた。

「見ての通り、ご覧の通り。まんま、まんま、そのまんま」

「あなたは試し斬り用の畳表たたみおもてになってしまったの」

「た、畳表だとォ?」

「以前は藁束わらたばだったのだけど、今は藁が少ないから畳の表を丸めて代用しているってワケね」

「お、俺を切断しようってのかッ!」

「あら?」

「思っていたよりも、物分ものわかりがいいじゃないの?」

アララは足立に向かって、持っていたスマホを投げた。

スマホを受け取った足立はテーブルの上に置いてあった刀剣を、アララに向かって ポイと投げ返した。

受け取ったアララは刀剣を松本に見せて言った。

「……これはね」

「な、何だ?」

「刀剣って言うのよ」

「み、見りゃ判るだろッ!」

「イチイチ説明なんかするなーッ!」

アララは松本の目の前で、鞘からスラリと刀を引き抜いた。

強い日差しに照らされ、やいばがキラリと光った。

それを見た松本の目が、点になった。

「ヒエ―――ッ!」

「先端恐怖症とか言っていたわね?」

「い、言ってねーッ!」

アララは鞘だけを床に落とした。

松本は音を聞いて、小さな悲鳴を上げた。

「ヒッ!」

アララは切っ先を、畳表の松本に向けた。

「な、何をする気だッ!」

「決まってるじゃないの」

松本は絶叫した。

「や、やめろ―――ッ!」

アララは切っ先を、松本の目の前で上下に素早く動かした。

かたなの先は……ね」

「な、何だッ!」

「切っ先って言うのよ」

「う、うるせーッ!」

アララは刃先を下に向けて松本に言った。

「テレビでクイズをやっていたわ」

「だから、畳表の中身を教えてあげるわね」

「き、聞きたくなんかねーッ!」

「いいから、お聞きなさい」

「あなたの身体の中心には、一本の青竹あおだけが入っているの」

「……青竹?」

「青竹とは……」

「……何だ?」

「青い竹のことです」

「わ、判り切ったことを言うんじゃねぇッ!」

「畳表は意味も無く、作られているワケじゃないの」

ためし斬り用の青竹は人間の骨の硬さに相当し、そして畳表の部分は肉の硬さに相当するように作られているのよ」

アララは一歩、後ろに引き下がって、刃先を松本に向けた。

「ゲッ!」

「試し斬りは最初の一太刀で、肩口かたぐちから袈裟懸けさがけで斬り……」

アララは袈裟懸けで、力強く刀を振り下ろした。松本の鼻先で、ビュンとくうを斬る音がした。

「ヒッ!」

「藁が落ちる前に、返す刀で脇下を逆袈裟ぎゃくけさで斬る!」

アララは斜め下から、ビュンと刀を上に跳ね上げた。

「ヒィッ!」

「そしてラストは水平に、ズバッと横一文字で斬るの!」

再度、ビュンと空を切る音がした。

「ヒィーッ!」

アララは一歩、前に出て、おびえる畳表の松本の前に、切っ先を突き付けた。

「三つに分断されるのがイヤだったら、一思ひとおもいに一刀両断で頭から縦割たてわりにしてやってもいいのよ」

「や、やめろッ!」

「やめてくれ―――ッ!」

アララはアッサリと松本の願いを聞き入れた。

「じゃあ、やめてあげる」

「ホ、ホントか?」

「一時中断よ。だって、お楽しみは後の方がいいんだもの」

「そ、そんな……」

アララは抜身の刀を持ったまま畳表の松本から離れてテーブルに近づくと、スイカのへたつるつかみ取った。

急に持ち上げられ、スイカ顔の西中は驚いた。

「な、なにをする気だッ!」

「真剣でスイカ割りでもしようと思ったけど、めたわ」

「そ、その方がいい」

「確か、高所恐怖症だとか言ってたわね?」

「そんなこと言ってねーッ!」

アララは刀をテーブルの上に置き、スイカの蔓を掴んで脚立を上がっていった。

西中は必死で叫んだ。

「あ、上がるな―――ッ!」

西中は絶叫した。

「降りろ―――ッ!」

アララは最上段まで上がり、脚立をまたいで立った。

スイカの蔓を持った片手をグイと横に突き出しグラグラとゆすすった。

「やめてくれ―――ッ!」

アララの手から、パッとスイカが離れた。

スイカ顔の西中は、恐怖で顔を引きつらせながら落下していった。

「ギャア―――ッ!」

アララは跨いでいた脚立を格好良く蹴って床に着地すると、刀を持って畳表の松本に向かい、上段からズバッと振り下ろした。

袈裟懸けで一刀のもとに切断された畳表の上部が落下して床に転がった。

畳表が床に落下するのと同時に、スイカも床に落下して、グシャッと鈍い音とともに、スイカの残骸が四方に砕け飛び散った。

倒れていった脚立が、足立の顔面を直撃した。

ドサッと倒れた足立の近くに、畳表の上部と砕かれたスイカの破片が飛んできた。―――

喫茶店のテーブルに身を乗り出し、目を閉じている松本の前でアララは「パチン!」と指を鳴らした。

松本はゆっくりと目を見開いた。

アララが聞いた。

「どうだった? 畳表クン」

「床を転がったご気分は?……」

松本は呆然としたままで、何も言わなかった。

アララはこぶしを二つに重ねて、袈裟懸けさがけで松本を切断するマネをした。「エイッ!」

松本は悲鳴を上げて飛び上がった。

「ギャア―――ッ!」

松本は西中を残してその場から逃げて行った。

アララは出口に向かう松本を見ながら、目を閉じている西中の前で指を鳴らした。

西中はトロ~ンとした顔で目覚めた。

「ごきげんよう。スイカクン……」

アララは西中の頭上に手を伸ばし、何かを掴もうとした仕草をした。

西中も悲鳴を上げた。

「ギャアアア―――ッ!」

西中はけつまろびつしながら、大慌てで店を飛び出し逃げていった。

―――

足立が小さなナイロン袋を持って店に近づいてきた。

慌てて店を飛び出してきた松本と店の前で激しくぶつかった。

ナイロン袋から飛び出したクスリの錠剤が散乱し、小さなガラス瓶が店の表をコロコロと転がっていった。

後から店から出てきた西中が、足立と一緒に倒れている松本の背中を踏みつけに して逃げていった。

「うわあ―――ッ!」

素早く起きた松本が、悲鳴を上げながら逃げる西中の後を追った。

「ウワア―――ッ!」

足立が怪訝顔で起き上がり、飛んで逃げていく二人を見送った。

「な、何だよ?」

「どうなってんだよ。二人とも?……」

足立は逃げる二人の後を追った。

「お~い」

「待てよ~~ッ!」


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