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快炎鬼  作者: 吉田四郎
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十三の炎

十三の炎

奈良公園エリア内の東大寺の南大門には、左に阿形像、右には吽形像の金剛力士像が向かい合って安置され、南大門の前は参拝客や観光客たちがもっとも多く、また鹿のいる賑やかな通りになっていて、通りの両側では「鹿せんべい」を販売するオバちゃんたちが露天用のパラソルを広げて台を設け、台の上には「鹿せんべい」を積み上げ、イスに腰をかけ客が来るのを待っていた。    

鹿せんべいの直径はソフトボールの2号ボール(直径9.1㌢)ほどの大きさで、こんがりと薄茶色に焼かれていた。

大勢の参拝客や観光客たちで賑わっている南大門前の通りを、ラフな格好で手ぶらの3人の若者たちが、行き交う人々を品定めでもするような目つきでぶらつきながら歩いていた。

リーダーらしき松本が、不満げな顔で言った。

「久々に地元の奈良に帰ってきたってのに、奈良公園しかなかったのかよ? 俺たちの行く場所は……」

見るからに弱々しげな体質で、メガネを掛けた足立が言った。

「ここで時間を潰すしかないよ。中学の時の同窓会がこの近くのホテルで始まるのが夕方だから……」

通りをぶらついている3人の前を、アララが颯爽と通り過ぎていった。

3人は同時に振り返って、アララの後ろ姿を見送りながら感嘆の声を上げた。

「スッゲー!」

「マジかよ?」

「いいガタイしてんじゃん?」

松本は足立に言った。

「女はガタイとは言わない。プロポーションって言うんだ」

西中はアララの後ろ姿を羨望の眼差しで見つめていた。

「いいのはプロポーションだけじゃない」

「彼女はファッションセンスだって抜群だ。あのファッションだと恋に疲れた女の一人旅じゃないね?」

アララの後ろ姿を眺めながら、松本が言った。

「俺もそう思う」

「あれは観光目的じゃない。どう見てもアバンチュールを求めている女の一人旅だ」メガネの足立が松本に聞いた。

「それだったら、この俺たちにも多いにチャンスありじゃん?」

「オフコースだ」

「チャンスは待つものじゃない。作るものだ」

松本はニヤリと薄笑いを浮かべながら、二人を誘った。

「俺たちも作ろうぜ」

「チャンスを待つ必要なんて、これっぽっちもねーよ」

―――

カラフルなパラソルの下の屋台でイスに腰をかけ、煎餅を売っているオバちゃんにアララは聞いた。

「これって人間が食べると、どうなるのですか?」

オバちゃんは笑顔で、アララに煎餅を手渡しながら言った。

「少しはバカに効いてくれたらいいんだけどね。どうにもならないですよ」

「材料は米ぬかと小麦粉からできている煎餅ですからね」

アララは笑って応えた。

「そうですよね。バカに効く煎餅なんてないですよね」

アララの近くで数人の観光客たちが、群がってきた鹿たちに煎餅を与えていた。

鹿は早くよこせとばかりに鼻を近づかせて急かせると、若い女性は悲鳴を上げた。

「キャ―――ッ!」

逃げる女性の後を鹿の群れが追うと、仲間の男性が女性に向かって叫んだ。

「捨てろ!」

「早く煎餅を投げ捨てろ―ッ!」

女性は逃げながら煎餅を投げ捨てると、鹿は路上にバラ撒かれた煎餅に群がった。

群がる鹿たちから立派な角を持った一匹の雄鹿が離れていき、煎餅を手にしているアララに近づき、クンクンとアララの匂いを嗅ぐと、雄鹿は静かに後ずさりしながらアララから離れていった。

遠ざかる雄鹿を見ながら、アララは苦笑した。

「本能的に感じ取ったのかしら?」

「私の怖さってモノを……」

―――

松本たち3人は、アララから離れた場所で鹿たちに煎餅を与えながら、煎餅を持ったアララから離れていく雄鹿を見ながら不審に思った。

「おいおい。どうなってんだ?」

「彼女、鹿にシカトされてるよ?」

「よっぽどキツい香水でも身に付けてんのかな?」

松本が笑いながら言った。

「しかたねーな」

「鹿が寄り付かないなら、俺たちが寄り付くしかねぇな?」

―――

立ち去ろうとするアララに3人が近づき、背後から松本が声をかけた。

「すみません。ちょっといいでしょうか?」

アララは驚いた顔で振り返った。

「えッ?」

松本はアララを誘った。

「ボクたちと一緒に、お茶でもいかがでしょうか?」

アララは躊躇うこともなく、笑顔で松本に返事をした。

「いいわよ」

―――

アララたちが入った喫茶店の装飾は、遷都せんと奈良をイメージするかように上品で洗練されたインテリアで統一され、ゆったりとした豪華な革製の椅子には数人の客たちの姿がちらほらと見られる程度で静けさが保たれ、アララと松本たちは奥のテーブル席に座っていた。

アララの前の席の足立が聞いた。

「これからの旅行プランは立っているのですか?」

アララは言った。

「父親の像を見に行こうと思っています」

「えッ!」

「お、お父さんの像があるのですか? この奈良に……」

アララはニッコリと笑って応えた。

「ええ…」

「凄い!」

「あ、あなた、名家のお嬢さんじゃないですか?」

「とんでもない」

足立と同席の西中が身を乗り出して、アララに聞いた。

「奈良のどこにあるのですか? お父さんの像は……」

「東大寺の戒壇堂かいだんどうに四体があります」

「ええーッ!」

「よ、四体も……ですか?」

アララの横に座って今まで黙って話を聞いていた松本が、胡散臭そうな顔でアララの横顔を見つめていた。

『戒壇堂と言えば……』

持国天じこくてん増長天ぞうちょうてん広目天こうもくてん多聞天たもんてんの    四天王の像が展示されている場所じゃないか?』

アララは話を続けた。

「私の父の像は色々とデフォルメされてしまっているけど、戒壇堂だけでなく全国津々浦々(ぜんこくつつうらうら)に存在しているの」

足立がアララに聞いた。

「失礼ですが、お父さんのお名前を聞かせて頂けますか?」

「天邪鬼って言います」

松本たちは身を反らせるようにして、アララの話を一笑に付した。

「冗談、キツイっすよ。お嬢さん……」

「怒りますよ」

「真剣に話しをして下さいよ。俺たちマジメに話を聞いているのですから……」

「ウソじゃないわ。ホントのことよ」

アララの横の席の松本が、念を押すようにして聞いた。

「じゃあ、あなたは本気で自分の父親は天邪鬼だと言うのですね?」

「そうよ」

「私の父親の天邪鬼の像は、門前の仁王さんだけでなく、いかめしいよろい姿の持国天、増長天、広目天、多聞天の四天王たちからも情けない姿で踏みつけにされてるわ」

松本はアララの話を聞きながら、別のことを考えていた。

まれにだが、とてつもない特殊な才能を持った低レベルの人間がいると聞いたことがある。もしもこの女が低レベルの女でないとすりゃ、俺たち3人をからかっているってことになるが?……』

不信感を抱いた松本は、アララに聞いた。

「娘さんなら知っているハズですよね?」

「ざっと大雑把おおざっぱでいいですから、お父さんの天邪鬼が、なぜ四天王たちから踏みつけにされているのか、その理由を教えて下さいよ?」

「いいわよ」

「娘の口から言うのも変だけど、私の父親の天邪鬼は自分の本心を素直に現すことができなくて、他人ひとさまに逆らうことが好きなひねくれ者で、その上、高慢チキで自惚うぬぼれが人一倍強くて、いつもおごりたかぶり嫉妬しっと深かった性格だから、常に誰かに踏みつけにされていたの」

アララの話を聞きながら、前の席の足立が怪訝な顔で聞いた。

「いくらお父さんの性格が悪いからといって、寄ってたかって四天王の武将たちから踏みつけにされたのでは、集団のイジメに遭っているようでちょっと可哀想だとは思わないのですか?」

アララは平然と応えた。

「思わないわ」

「性格が悪いだけだったら娘としてカバーもフォローもサポートだってできるけど、父親としてあるまじき酷い事を、実の娘のこの私にしてしまったのですからね」 

足立は身を乗り出すようにして、アララに聞いた。

「な、何をしたっていうのですか?」

「父親の天邪鬼が、あなたに?……」

西中も興味深そうに、身を乗り出してきた。

「教えて下さい」

「な、何があったのですか? あなたたち親子の間で……」

アララは自嘲じちょう気味に、足立の問いに応えた。

「私は父親によって、毒娘にされてしまったの」

「えッ?」

「ど、毒娘だって?」

アララの横に座していた松本が、いぶかし気な顔で聞いた。

「何ですか? 毒娘って……」

アララは横を向いて、松本に応えた。

「私の父親の天邪鬼は、私がまだ赤ん坊の頃から微量の毒をミルクに混入して、私が毒娘となるように育ててきたの」

面前の足立と西中がアララに聞いた。

「ウソでしょ?」

「し、死んでしまうじゃないですか? たとえ僅かな量の毒であっても赤ちゃんに飲ませたりしたら……」

松本はますますアララを疑いの眼差しで見つめていた。

『何をふざけたことを言ってんだ。この女?……』

『可愛い顔をしているが、マジでイカれちまった女なのかもしれねぇな?』

アララは面前の二人に言った。

「だから私は、誰もが恐れるポイズンガールなの」

「ンなこと言われても……」

「信じませんよ。あなたが毒娘だなんて誰も……」

アララはにっこり笑って二人に聞いた。

「見たでしょう?」

「……何をですか?」

「鹿が煎餅を食べずに、私の前から立ち去って行ったことを?……」

「見ましたけど?……」

「鹿のお腹がイッパイだったのかも知れないじゃないですか?」

アララは二人を納得させるように、二人の顔を交互に見ながら言った。

「違うのよ。あれは鹿がさっしたのよ」

「私の身体には猛毒があるってことを本能的に……」

松本がサッ!と席を立った。

「ちょっと失礼」

「どうしたの?」

アララの問いに松本は答えた。

「トイレに行ってくる」

松本がアゴを横にしゃくって西中を促すと、合図に気付いた西中は、スッと席を立った。

「俺も行くよ」

足立も慌てて席を立った。

「ボ、ボクも行きます」

―――

3人はアララの死角になるようにして、トイレの前で集まっていた。

松本は吐き捨てるようにして言った。

「天邪鬼の次は毒娘だと言いやがった」

「ざけやがって、マジにムカついてくる女だぜ」

西中がアララをかばった。

「だけどさあ」

「鹿が彼女から遠ざかっていったのは事実だし、天邪鬼の話にしても説得力があって、納得させられた部分も多かったよなぁ?」

足立も西中の話に相槌あいづちを打って、松本に反論した。

「そうですよ。まんざらウソでもなさそうですよ」

「お前ら、まだ判らねーのか? あの女にからかわれているってことが」

松本は二人の意見を無視して、足立に言った。

「お前は薬局へ行って、睡眠薬か下剤でもいいから買って来い」

「売ってくれないよ」

処方箋しょほうせんがなければ睡眠薬なんて……」

睡眠導入剤すいみんどうにゅうざいなら売ってるハズだ」

「どうする気だよ? 睡眠導入剤とか下剤なんか買って」

「あの女に飲ませるのさ。あとは眠ろうが事故を起こそうが、誰かに酷い目に遭わされようが俺たちの知ったことじゃねぇ。思い知らせてやるのさ。俺たちをナメていやがると、どうなるかってことを、あの女に……」

西中は又もアララをかばった。

「話の続きを聞いてからでも遅くはない。それからでもいいじゃないか。下剤でも何でもいいから彼女に飲ませるのは……」

「そうだよ。話しているとボロを出して、謝ってくるかもしれないじゃないか?」

「遅いんだよ。ボロを出してから謝られても……」

松本は足立に命令した。

「だから早く買いに行って来い。市販の睡眠導入剤ならドラッグストアでもコンビニでも売っているハズだ」

―――

アララは落ち着いた店内の装飾を見ながら呟いた。

「親切ついでに教えてあげようかしら?」

「現世へやってきた私たち4人は、地獄耳の持ち主だってことを……」

アララは小さな笑いを浮かべながら、戻ってくる松本たちを見た。

「ホントに考えの甘いボクちゃんたちのようね」

「この私がクスリの入った飲み物を、すんなりと口にすると本気でそう思っているのかしら?」

―――

戻ってきた松本はアララの横には座らず、西中と一緒に前の席に着いた。

アララは怪訝な顔で聞いた。

「あら?」

一人足りなくなったようね?」

アララの問いに西中が答えた。

「すぐに戻ってきます。ちょっと用を思い出したようです」

松本は問題を切り替えた。

「どうでもいいじゃないですか。あいつのことは……」

「それよりも、さっきの話の続きを聞かせて下さいよ」

アララはとぼけた顔で松本に聞いた。

「……どんな話だったかしら?」

「父親の天邪鬼に毒で育てられたって話ですよ」

「あなたの話を聞いていて不思議に思ったのです。たとえ僅かな量の毒であっても抵抗力の無い赤ちゃんにとっては猛毒となって死ぬじゃないですか?」

「それなのに、なぜあなたは無事に育ったのですか?」

「私の身体は毒には強い特異な体質だったようです。私のように特異体質の人はあなたが珍しかるほど珍しくはなく、この世には結構多くいるそうですよ」

「疑い深いあなたは信じられないでしょうけど、アフリカの一部の部族ではエイズにまったく感染しない人間だっているの。エイズ・ウイルスだって人間の身体にとっては猛毒以上の厄介な存在だと言えるでしょう?」

「それと同じことなのよ」

松本は不満げな顔で言った。

「あなたが特異な体質だってことは判りました。だけど、父親の天邪鬼がなぜあなたを毒娘にしたかったのか、その理由が判りません」

「インドの古い文献に毒娘のことが記載されているから、それを説明しながら父親の考えを説明させて貰うけど、それでもいいかしら?」

松本はあっさりと承諾した。

「いいですよ。どうぞ」

「紀元前327年のことだけど、アレキサンダー大王が東方遠征でインドに攻め入った時、当時の近隣きんりんの王たちはアレキサンダー大王に四つの贈り物をしたの」「一つは絶世の美女。もう一つはめども尽きぬさかずきと、あらゆる病気を治すお医者さん。そして占星家せんせいか……」

「話は少し横にそれるけど、それもいいかしら?」

「いいですよ。どうぞ、どうぞ」

「インドにはインドにしか生えない「ビーシュ」という毒草があって、なぜだか理由は知らないけど「ビーシュねずみ」というインドの鼠だけは、その毒草を食べても死なず、当時のインドの王様たちは「ビーシュ鼠」にヒントを得て、誰かを裏切る時のために「刺客しかく用の毒娘」を育てあげていたの」

「当時の王は毒娘を育てるために産まれたばかりの女の子を捜し出し、揺りかごの下に毒草を敷き、そして衣服の下にも毒草を忍ばせ、薄めた毒を乳母うばの乳首に塗って乳を飲ませながら、女の子の身体をゆっくりと時間をかけて徐々に毒にらしていき、やがて毒に免疫を持った身体になった少女は絶世の美女へと育ち、そして目的とされる相手の王の元へ贈られていったのよ」

西中がアララに聞いた。

「毒殺されたのですか? アレキサンダー大王は……」

「さあ、それはどうかしら?」

「でも、突然の高熱に襲われ32歳の若さで急逝きゅうせいしてしまったのだから、毒殺された可能性は多いにあるわよね?」

松本は何も言わずにアララの話を聞いていた。

「‥‥‥‥‥・」

アララは話を続けた。

「古代ギリシャの哲学者であり、アレキサンダー大王の教師でもあったアリストテレスもまた、暗殺じゃなくて謎の死をげているの」

松本が言った。

「わかった。過去に毒娘が存在していたことを認めよう」

「問題はあなたの父親だ」

「あなたの父親の天邪鬼は、可愛い我が子をそうやって毒で育てたというのですね?」「ええ、そうよ」

「やっぱり信じられない話ですよね。我がを毒娘の刺客しかくとして育てるなんて……」

「私は殺し屋じゃないわ」

「じゃあ、何ですか?」

かたよった父親の愛情っていうか、親バカっていうか……」

「私が天邪鬼の娘だから、イジメなどから身を守るために猛毒を武器とした強い女性にしたかったようです」

「歪んだ性格の父親だったけど、今となってはそんな父親に感謝しているわ。だって、どんな相手が私を襲ってきても、私はイチコロで殺せるのですから……」  

松本は呆れた顔で、アララを見つめていた。

『よくもまあ、そんなウソが平然と言えたもんだ』

松本はアララを小バカにするような言い方で聞いた。

「毒にも色々とあって、「聞けば気の毒、見れば目の毒」っていう毒もありますよね。あなたの持っている毒はナニ毒なんでしょうかねぇ?」

「教えて下さいよ」

「アルカロイド・アコニチンと言って、トリカブトの猛毒よ」

嘔吐おうと麻痺まひに始まり、呼吸困難、心臓発作で即死させることなんて私にとっては朝飯前……」

「毒の加減一つで、三年殺しのキスだってできるのよ」

「……三年殺しのキス?」

アララはニッコリと笑って言った。

「私のキスは死へのいざない……」

「私がキスをすれば、相手の男は三年経ったらアドレナリンが爆発的に噴出して、ある日の朝にポックリと死んじゃうの」

「……どう?」

「私って怖い女でしょう?」

「怖いとはまったく思いませんね」

「ハッキリ言って、嘘の上手じょうずな女性だと思っています」

西中が言った。

「俺も同感ですよ。こいつが怖いのは女性ではなくて、きりとかアイスピックなど、先のとがったモノですから……」

「……先端恐怖症なのね?」

「余計なことを言うんじゃねーよ。お前だって高所恐怖症のくせに……」

アララは二人をさとすように言った。

「毒娘の私から、あなたたち二人にラストチャンスをあげるわ」

「嘘の上手なこの私を懲らしめてやろうと思ってまだこのお店にいるのだったら、今すぐに出ていった方がいいわよ」

図星を突かれた松本は少し狼狽ろうばいした。

「あなたを懲らしめてやろうなんて、そ、そんな……」

アララの瞳がキラリと光った。

「これだけ忠告と警告をしても席を立たないっていうことは、私の言葉を信用せずに悪巧わるだくみを実行しようとしている証拠とみるわ」

アララは身を乗り出して、テーブルに両手を置いた。

「二人で仲良く、いい夢でも見ることね」

二人に向かってくちびるとがらせ、アララは白い霧状の息をヒュ~~~ッと吹きかけた。

松本と西中の二人は身動き一つせずに、目を大きく見開いたままでアララの吹きつける息を顔で受け止めていた。

二人のまぶたは同時に下がり、目がトロ~ンとうつろになっていった。

アララは目を閉じた二人に向かって、にっこりと笑った。

「さあ、私とともに行きましょう」

「高所恐怖症と先端恐怖症の二人でつくりあげた、バーチャルリアリティーの  世界の中へ……」


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