第3話 皆一緒には行けない
閲覧ありがとうございます。
2話目で疲れた心を癒して?ください。
「柳を連れて行ってはいけない」
胡桃姉さんが消えてから5年後、赤い月が出る直前に、育ての親であるスコロールに言われたのはこの言葉だった。
「なんで!?」
異議を唱えたのは一兄だった。
スコロールは「ふー」と、長い息を吐く。
「柳には『地球』と『ニュー・アース』を繋ぐ『扉』、正式には『創造主の扉』の『門番』を担わなければならない。だから連れて行ってはいけない」
「何で……」
納得ができない。
一兄の言葉から、そんな気持ちが伝わってくる。
勿論俺も納得できていない。
「そんなに柳を置いていくのが嫌なら、行かなければいい」
スコロールが冷たく言い放つと、一兄はハッと顔を上げる。
しかし、スコロールの瞳は初めて会ったあの日と同じく目尻は下がっているのに、その瞳は暗い。
まるで俺達を突き放すかのような視線だ。
「お前達の道だ。好きに選べばいい。ただし、この機会を逃したら最後、『呪い』によって死ぬことになるがな」
――え?
俺と一兄は目を見開いた。
「『曽祖父』にかけられたその『呪い』は、解かなければお前達の『命』を奪う。そういう『呪い』、なんだよ」
当たり前かのように言うスコロールの胸ぐらを、一兄は掴んで怒鳴りつけた。
「どういうことだよ!! そんな話、聞いた覚えないぞ!!」
「そりゃ、言ってねえからな。初耳で当然だろ。逆に知ってたら俺はお前達に恐怖するね、『怖いよ〜』ってな」
顔色一つ変化させずに言うスコロールを見て、一兄は舌打ちをし「バカにしてるのかよ」、と呟きながらスコロールの胸ぐらから、乱暴に手を離した。
スコロールは乱れた胸元を直しながら口を開く。
「俺だって意地悪で黙ってたわけじゃねえよ。自分達の年齢を考えてみろ。いくら背伸びをして、精神年齢を大人に合わせようとしても、チビすけだったお前達に、『お前達は死ぬぞ』なんて言えるわけねえだろうが」
それは至極真っ当な答えだった。
悔しいが否定のしようもない。
「俺としてはそれを伝えるよりも、もっと身体を鍛えたり、腕を磨いたりする方が当時のお前達には最優先事項と判断した。大体、当時のお前達が知ったら絶望するか、自分の『力』とか、何にも考えずに闇雲に突っ走ってただろうが! え?」
そう言ってスコロールは、一兄のデコを指でキツツキの様に突く。
痛そうだ。
「他人ごとのような顔してるが飛鳥、お前も! 当時のままだと、ただの人形同然だったろうが!! あ?」
俺も一兄と同様、スコロールにデコを指で突かれそうになるが、ギリギリで避ける。
俺は一兄とは違う。
そう思ったのだが――。
「甘いっ!」
スコロールは逆の指で突いていた。
不覚。
そして地味に痛い。
「僕、一兄や飛兄と一緒に行けないの?」
突然声がしたのでその方を見れば、そこには弟の柳がいた。
「「柳!!」」
俺と一兄の声がハモった。
そして二人して柳の元へと行く。
「聞いてたのか……」
一兄の顔が曇った。
「スコロールに『呼ばれた』から」
それを聞いた俺達はキッとスコロールを睨みつけた。
スコロールは知らん顔をしている。
恐らく、わざと話を聞かせたんだ。
柳が聞いたらどう判断するか、『わかった上』で。
「僕、一兄や飛兄に死んでほしくない! その為なら僕、どんなことでもできるし、我慢するよ!」
目に涙を溜めながら言う柳。
まだ小学生なのになんて健気。
そんな柳の肩に手を添えながら俺はスコロールを睨みつけた。
「スコロール、一応聞く。柳が可愛いから手元に置きたいっていう理由じゃないよな?」
「お前らじゃねえんだぞ! んなわけあるか!! というか、俺をどんな目で見てるんだよ!!」
こんな『目』ですが?
三人で疑わしいと言う気持ちを込めて見れば、スコロールは「お前らなあ」と拳を握りながらプルプル怒りに震え、俺達三人はスコロールから拳骨をくらった。
「ヤッホー! 柳くん、スコロールさんに呼ばれたから来たよー! ってどうしたのその頭!? またスコロールさんに余計なこと言ったの!?」
ひょいと顔を覗かせたのは、久原家の側近と言える位置にいる山銀家の長女、『山銀彩』である。
「彩ちゃん!」
柳の顔がパア! と明るくなった。
柳とは同い年で、柳の『許婚』だったりする。
柳は三男に当たるし、別に家を継ぐとか関係ないから自由にすればいいのだが、実はこの『許婚』には裏がある。
この可愛らしい笑顔の柳が、自分の使える全てのものを使って、『彩』を自分の『許婚』にしたのだ。
何故そこまで柳が彩に執着するのかは知らないが、我が弟ながら恐ろしい惚れっぷりと行動力である。
一兄を見ればわからんこともないが。
うちの家系は『愛が重い』のかもしれない。
「柳は我が家の天使だけど、彩のことになるとドス黒いからなぁ」
一兄がこそっと俺に耳打ちをしてくる。
それを聞いた俺は眉間にシワを寄せた。
「一兄がそれ言う? 全然説得力ないけど?」
嫌味を言ってやれば、一兄はクククと笑う。
「俺は隠すことなく『黒い』からいいの。それにそのうち飛鳥もそうなるよ。久原家の人間は『愛が重い』らしいからな。なあ? スコロール」
一兄がスコロールの顔を見て言えば、スコロールは「ノーコメント」と意味するように胸元より少し上で腕をクロスさせ、バツマークを作った。
一兄が「うわ、ムカつく」と青筋が浮かび上がる。
「一兄、ダメだよ! 飛兄には『そういうの』はまだ早いんだから!」
いや、小学生に言われる俺って何?
地味に傷つく。
そして周りも「確かに〜」みたいな雰囲気をかもし出された。
意味わからん!
そう思う俺に一兄が俺の肩に手をポンと置いた。
「つまりだ。お前も心底心を動かされる女の子でも現れたら、お前にもこの気持ちがわかるってことさ」
益々わからない。
一方的な許婚や、押し付け的な好意は受けたことがあるが、それのことを指すなら、正直興味ないし、どうでもいい。
寧ろ相手にするだけ不快になるからいらない。
「というか、その言い方をするってことは、一兄に『彼女』がいるってこと?」
「ん? ま、そうだな。うん」
あ、コイツ視線をそらしやがった。
「はいはい、お喋りは『ニュー・アース』に行ってからゆっくりしろ。そろそろ時間だからな。各自持ち場につけ〜」
スコロールが手をパンパンと叩く。
柳と彩は「了解!」と元気よく敬礼をし、庭へと駆けていった。
読んで頂きましてありがとうございます。
はい。
まだ異世界に行ってませんね。
わかってます。
ですがそういう話なんです。
ご了承くださいませ。
ですが、もしよければ次の話でもお会いしましょう。




