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レッドムーン ―ニュー・アース編―  作者: 瀬田 彰
第一部 第一章 旅の始まり編

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第11話 街へ行く前の問題


 俺と一兄は街に向かって歩いていたのだが、街が近づくにつれ、足が少しずつ重くなっていた。

 そして、遂にその足は街から怪しまれない数百メートルほど離れたとこで完全に止まってしまう。

 その理由は、街の周りは高い塀に囲まれていていること。

 街に入るには門番だか兵士だか、よくは見えないが、恐らく入り口の構えからしてチェックを受けなければいけないことを察したからだ。


「ねぇ一兄。俺、今あることを考えているんだけど」

「偶然だな。俺もだ」

「なら聞くけどさ、この世界って、スニーカーにズボンとトレーナーってアリと思う?」

「入っていく人間をみる限り、ナシだな。ちょっと……いや、かなり浮く姿だと思う」


 まさかここに来て服という根本的な問題に直面するとは思っていなかった。

 そもそも街に入る為に検閲があるなど、誰が想像しただろうか。


「よし、誰かの服を頂戴しよう!」 


 突然わけのわからないことを言いだし、人の中に突っ込んで行こうとする一兄を俺は慌てて止めた。

 曽祖父(クソジジイ)に向かっていた兄の姿はどこに行ったのか。

 いや、こちらが素の兄の姿なのか。

 とにかくこのままではまずい、ということだけは理解できる。

 今更だけど一兄とは双子だから今まで同じ時を過ごしてきた。

 けれども、意外に互いの素は見えてない部分があるんだと改めて実感させられる。

 正直、面倒くさい。


「でもこのままじゃ入り口で悪目立ちして終わるぞ? 迂回するにしてもここがどこなのか、知らないままというのはよくない」


 真面目な一兄の答えに「あ、うん。そこは俺も否定しない」と俺は返事をした。


「身分制度もどうなってるか知る必要があるからな」

「確かに」


 妙に説得力があり、俺も考えてみる。 

 知らぬ間にやらかして、『貴族』が出てきて『不敬だ!』と言われて、面倒ごとに巻き込まれたくはない。

 かと言ってあの塀を乗り越えて入ろうものなら、不審者行動と見なされるのは必至。

 見つかれば密偵かと疑われるのは間違いない。

 その際に、『変わった格好をしてたのでこちらから入りました』という言い訳など通用するとは思えない。

 それならば、そのまま突っ込んだ方が何倍もマシというものだ。


「一兄はスコロールから事前に呼び出されて何か聞いてたりしない?」


 俺の質問に一兄は目を座らせる。


「お前、俺をそんな目で見てたのか?」

「いや、スコロールと一兄ならあり得るかなと」


 こういうことは一兄に知らされることが多いからだ。


「ことと場合によってはそうすることもあるだろうが、今回それをして何かメリットがあると思うか?」


 突然呼び出されて、異世界に行くから知識をつけといてくれと言われたらどうなるか。


「遂にスコロールの頭がイカれた。と、思うな」

「だろ? 真剣に聞くだけ無駄だってなる。それにあのスコロールのことだ。俺に説明してたら『じゃ、後はお前から飛鳥に説明しといてくれ』で終わるだろ? そんなもの、俺が引き受けるわけがない。俺まで頭の中を疑われるのはごめんだよ」


 やれやれと、肩を浮かす一兄の言う通りだ。

 この世界に来る前、二人で呼び出されて、二人で話を聞いて、そしてそのまま『異世界(ここ)』に来てしまった。

 その間スコロールが一兄に目配せや怪しい行動はなかった。

 仮に一兄が上手く隠していたとしても、一兄が俺に隠し通せるとは思えない。


「ごめん」

「ま、疑いたくもなるだろ。俺だって、お前と同じことが一瞬頭を過ぎったんだから」

「それこそあり得ないだろ。もし俺が事前に聞いてたら、わざわざ一兄に聞かないよ。無駄だろ?」

「だよな。お前こそ何か聞いてたらもっと淡々と動いているもんな」


 ん?

 その言い方なんか引っかかるな。

 一兄には俺はそういう奴という認識なのか?

 いくら俺が無表情を貫いていても、流石に一兄を無視して淡々と進めるのは不可能だと思うぞ。


「あれ? ってことはさ、これ詰んだってことにならないか?」


 一兄が薄ら笑う。


「スコロールは狸親父で、理不尽で、身勝手で、自由奔放で無茶苦茶な奴だが、嫌がらせをする奴じゃないだろう」


 そう。スコロールは食えない奴だがその手の嫌がらせをする奴じゃない。


「そうだな。スコロールが情報もなしに俺達を見放すとは思えないよな」


 一兄も同じ結論を出した。

 そこまで互いに言って過去のことを思い出す。

 気に入らないことがあれば、俺と一兄からおかずを横取りしたり、遠足のお弁当をつまみ食いしたりとか。

 寝顔に油性ペンで落書きしてくるとか。

 自分が作った作品の実験体にするとか。

 修行だと言って無人島に一ヶ月放置するとか。

 俺達の目が段々遠くを見つめる。


「スコロールの奴、改めて思い出すとろくな大人じゃなかったな」

「今更だな。けど俺も同じことを考えていた」


 そうして一兄は大きなため息をつく。

 

「漫画やゲームなら親切な人から譲り受けたりしてもらえるのにな」

「そんな都合が良いことが起こるわけないだろ」


 ご都合主義じゃないんだから。


「と言うか、俺達手ぶらじゃねぇか! どうすんだよ。これじゃ何も買えない!」 

「それこそ今更だな」


 どの世界でも『金が全て』となると、異世界に夢も希望も持てなくなりそうだ。


「気がついてたなら突っ込めよ!」

「突っ込むのは一兄の役目だろ? おにいちゃん」

「何だよそれ! 都合いいときだけそんな呼び方するなよ! 嬉しいけど!」

 

 嬉しいのか。


「俺の兄がキモい」

「俺の弟が酷い!」


 そんなやり取りを繰り返しているうちに、俺の限界がきた。


「一兄! ふざけるのも、いい加減にしろよ! こんなとをして『服が出てくる』わけがないだろ!!」


 そう言った途端。

 俺の右手の勾玉からポンという音が鳴って、俺の頭上に見慣れない『服』が出てきた。


「??????」


 何故?

 呆然とする俺達。


「え? 今、『服が出てくる』って言った?」


 すると次は一兄の左手から、先ほどと同じようにポンと音が鳴り、見慣れない『服』が今度は一兄の頭上に出てきた。


「??????」


 訳が分からない。

 本当に服が出てきた。

 そしてハッとして、互いに顔を見合わせ、声を出した。


「「スコロールだ!!」」

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