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魔女のクローゼットからのお披露目会と、フリフリに屈した元英雄たちのファッション

「じゃーん! 徹夜して作っちゃったわ。みんな、集まってー!」


 お散歩の邪魔者をテレポートで追い払った翌朝。私は、寝室の広大な姿見の前に四匹のモフモフたちを招集した。

 私の背後には、キラキラと輝く魔力繊維で仕立てられた、色とりどりの『小さなお洋服』が並んでいる。前世で「もしペットを飼ったら、絶対に可愛いお洋服を着せてドッグカフェに行くんだ!」と夢見ていた私の妄想が、最高級の防護マテリアルと融合して今、ここに具現化したのだ。


「「「「……………………」」」」


 四匹は一斉に、嫌な予感しかしないという目で後ずさりした。


レオンハルト(お洋服……だと? 嫌だ、嫌すぎる。昨夜、水玉のバンダナという人生最大の汚点をクラウスに見られたばかりなのだぞ!? これ以上、俺の戦士としての衣服の概念を汚されてたまるか!)

シオン(……まさか、私にそんな布切れを着せる気ですか? 私の美しさは、この天然の白銀の毛並みによって完成されているのです。余計な装飾など、美学が許しません!)


「ほらほら、逃げないの。これ、ただのお洋服じゃないんだから。今日の朝活は『試着会』よ!」


---


「まずはレオンちゃんからね! はい、おすわり!」

「ガ、ガウゥゥ……(おのれ魔女、その無邪気な笑顔が一番恐ろしいわ……っ)」


 文句を言いつつも、すっかり「おすわり」が条件反射になってしまったレオンハルト。彼に着せたのは、サンディレ王国の騎士団制服をモチーフにした、特製の『ワンちゃん用ミニチュア騎士服』である。

 胸元には小さな勲章が揺れ、背中にはミニサイズの真っ赤なマント。


「きゃあああ! 格好いい! 凛々しいわレオンちゃん! まさに騎士団のトップって感じ!」

 私がパチパチと拍手すると、レオンハルトは渋々鏡を覗き込んだ。


「……ガウ?(む? これは……我が騎士団の礼服の意匠……? いや、それどころか、肩周りのカッティングが絶妙で、狼としての前足の可動域を一切邪魔していない。さらに、背中のマントには『絶対防御(物理・魔法無効)』のパッシブスキルが付与されているだと!?)」

 着心地の良さと、国家防衛レベルの超高性能バフに気づいたレオンハルトの目が輝いた。彼は鏡の前で、胸を張ってポーズを決め、マントを「フサッ」と揺らしている。気に入ったらしい。


「次はシオンちゃんよ。はい、これ」

「コンッ!?(な、なんですかこれは!? フリフリが……フリフリが多すぎます!)」


 シオンに用意したのは、ルナリア帝国の高貴な正装をベースにしつつ、私の趣味でレースをふんだんにあしらった『英国貴族風・フリル付き高貴なケープ』だ。

 お湯に濡れてフェレット化した黒歴史を払拭するべく、シオンは断固拒否の姿勢を見せたが、私がケープのボタンを留めた瞬間、彼の九本のしっぽがピーンと直立した。


「コン……(あぁっ、このレース、ただの布ではありませんね!? 最高級の『天使の繭糸』で織られており、私の繊細な毛並みと摩擦を起こすどころか、着ているだけで静電気を完全に除去している……! しかも、私の顔立ちの美しさを三割増しに魅せる絶妙な純白……。ええい、美しい私がさらに美しくなってしまう……!)」

 知性派の軍師は、機能美とビジュアルの暴力にあっさりと敗北した。彼は鏡の前で「右斜め45度からの角度が一番美しいですね」とばかりに首を傾げ、うっとりと自分を見つめている。


「クロちゃんにはこれね! 暗殺者っぽいやつ!」

「……(嫌だ、目立つ)」


 水が大嫌いな雪豹のクロードには、前世の『猫用泥棒唐草模様バンダナ』をオマージュした、漆黒の『隠密フード付きミニポンチョ』を着せてみた。

 フードの先には、可愛いネコ耳(雪豹だけど)の飾りがついている。


「シャァァッ……(こんな玩具のような服で、私の隠密性が……え?)」

 フードを深く被った瞬間、クロードの姿が鏡から完全に消えた。


「わあ、すごい! 完全に気配も姿も消えたわ!」

「にゃ、にゃあ……(姿が消えるだけでなく、私の体温を完全に遮断し、熱感知の魔導具すらも欺く最高峰のアーティファクト……。これがあれば、どんな暗殺も……いや、フードの耳が可愛いのが、非常に不本意だが……レロレロ……)」

 クロードは姿を消したまま、お気に入りのちゅ〜るを舐めることに集中し始めた。


「最後はルカちゃんね! はい、ハチさんのコスチュームよ!」

「きゅっ! お尻に針がついてるー! ぶーーん!」

 ルカは黄色と黒の縞々のお洋服を着て、嬉しそうに部屋中を飛び回っている。可愛い。


---


「よし、みんなバッチリね! それじゃあ、新しいお洋服を着て、今日も元気に『お庭のパトロール(お散歩)』に行きましょう!」


 私が四本のリード(お洋服にマッチしたカラーリング)を繋ぐと、四匹はもう一切の抵抗をしなかった。それどころか、「俺の騎士服を見ろ」「私のフリルの方が高貴です」「フード被ったから見えないにゃ」とばかりに、お互いを意識しながらドヤ顔で廊下を行進していく。


 正門を抜け、私の『絶対浄化領域』によって美しいエメラルドグリーンの芝生が広がるお庭へと出た、その時だった。


 ――ガサガサッ!!


 敷地を囲む生け垣の向こうから、またしても不穏な気配が漂ってきた。

 昨夜、テレポートで追い返された副団長クラウスが、今度はさらに人数を増やし、王国の精鋭魔導士団を引き連れて性懲りもなく舞い戻ってきたのだ。


『皆の者、油断するな! 昨夜、私は確かに見た……団長たちは、魔女の悍ましい洗脳によって、水玉のバンダナを巻かれ、腹を晒して苦悶の叫びを上げていた! 今日こそ、あの地獄から英雄たちを奪還するのだ!』

『おおお……! なんと恐ろしい魔女の拷問……!』


 生け垣の隙間から、決死の形相で呪文を唱えようとする魔導士たち。

 しかし、彼らがそこで目撃したのは――。


「あ、レオンちゃん。芝生にゴロゴロしたらお洋服が汚れちゃうわよ。騎士マントが草まみれよ?」

「ガウッ!?(し、しまった! あまりの芝生の心地よさに、つい騎士としての佇まいを忘れて背中を擦り付けてしまった……っ)」


 ミニチュアの騎士服をパツパツに着こなした巨大な黒狼が、魔女に叱られてシュンと耳を垂らしている姿。

 そして、その横でフリフリのレースケープを風に翻し、自分のしっぽを優雅にブラッシングしている白狐。

 さらに、ネコ耳フードを被って透明化したり現れたりしながら、蝶々を必死に両前足でペシペシと叩いている雪豹。


「「「「……………………は?」」」」


 生け垣の向こうで、精鋭魔導士団の魔法陣が、一斉にパリンパリンと音を立てて霧散した。

『ク、クラウス副団長……あの、団長の着ている、可愛らしいお洋服は……?』

『……洗脳、ではないな。あれは……完璧に、飼い慣らされておられる……』


 彼らが絶望と困惑のどん底に叩き落とされた、その瞬間。

 お散歩の邪魔をされたことに気づいたレオンハルト(騎士服着用)が、冷徹な目でクラウスたちを睨みつけた。


「グルルルルルッ……!!(クラウス、お前たち、また俺の至福の時間を邪魔しに来たのか。いい加減にしろ、次は本当に噛み殺すぞ……!)」


 騎士服の胸の勲章を揺らしながら、凄まじい威圧感(※ただし見た目は超可愛い)で威嚇する元上司。


『ひ、ひぃぃぃっ! 団長が……お洋服を着た団長が、怒っておられるーっ!!』

『撤退だ! もうあの人たちは、我らの知る英雄ではない! 魔女の完全なるペット(王)だーっ!!』


 精神的恐怖(と圧倒的な絵面のシュールさ)に耐えかねた精鋭部隊は、私の魔法を待つまでもなく、一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。


「あれ? またすぐ帰っちゃったわね。シャイなお友達だわ」

 私が首を傾げると、レオンハルトはフンと鼻を鳴らし、再び私の足元に頭を擦り付けてきた。マントを撫でろという催促だ。


「よしよし、レオンちゃんは本当にお利口さんね。騎士服、とっても似合ってるわよ!」

「ガウッ(当然だ。俺はこの服を気に入っている)」


---


 お庭のパトロールを終え、お城に戻った私たち。

 お洋服を脱がせてブラッシングをしてあげると、四匹は満足げにリビングの巨大な絨毯の上にパタリと倒れ込んだ。


(ふふふ……お洋服を着せるのも、案外あっさり受け入れてくれたわね。この調子なら、次はワンちゃん用のお帽子とか、猫ちゃん用の首巻きとか、色々試せそうだわ!)


 私の脳内クローゼットの妄想は膨らむばかりだ。

 一方、元英雄たちは、もはや「人間の姿に戻りたい」というまっとうな野心を、完全に脳の片隅へと追いやっていた。


レオンハルト(……あの騎士服の防御バフ、王国の国宝よりも強力だったな。明日も、あの服を着て散歩に行きたいものだ……)

シオン(……あのレースの肌触り、忘れられません。次のおやつは、あのケープを着てプリンをいただくとしましょう……)


 彼らのプライドは、魔女の圧倒的な「お針子チート能力」と「極上の快適さ」の前に、完全にひれ伏した。

 人間に戻った時の黒歴史(今度は『可愛い騎士服とフリフリケープでドヤ顔していた』が追加)を恐れるあまり、彼らは自ら進んでペットとしての完成度を高めていく。


「さーて、お散歩も頑張ったし、お昼ご飯は『特製マナ牛のハンバーグ・チーズのせ』にしましょうかね!」

「「「「ガウッ!!(コンッ!/ニャァッ!/きゅっ!)」」」」


 一斉に目を輝かせて立ち上がるモフモフたち。

 極悪魔女のラグジュアリーなモフモフ調教ライフは、今日も誰も止められないスピードで進化していくのだった。

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