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決死の潜入! 救出部隊が目撃した『地獄の拷問』と、絶対に帰りたくない? 元英雄たち

 極上のトリミング&スパを堪能し、フワフワのピカピカになった四匹の魔獣たち。

 彼らがすっかり野生と尊厳を失い、私のベッドの上で折り重なるようにして無防備なお昼寝を満喫していた、その日の夜のことである。


 魔女セルリアの城の敷地内に、黒い影が数人、音もなく侵入していた。


『……よし、結界の通過に成功したぞ』

『流さすがはドワーフの遺物である国宝『次元潜行の外套』です。あの極悪魔女の結界すらも、数秒だけなら誤魔化せるのですね』


 月明かりに照らされた影の正体は、サンディレ王国の精鋭部隊。

 先日の「お遊戯会(綿あめ大砲事件)」で心を折られた第一王子が、正面突破を諦め、秘密裏に送り込んできた『隠密救出部隊』であった。

 部隊を率いるのは、騎士団長レオンハルトの右腕である副団長・クラウス。彼は血を吐くような悲痛な面持ちで、魔女の城を睨み上げていた。


『団長……そして皇子殿下。どうかご無事でいてください。あの残虐非道な魔女のことだ、今頃、薄暗い地下牢で火あぶりか、血の池に沈められるなどの地獄の拷問を受けているに違いない……!』

『クラウス副団長、涙を拭いてください。我らの命に代えても、必ずや英雄たちを救い出しましょう!』


 彼らは決死の覚悟で城の壁を登り、かすかに開いていたバルコニーの窓(お風呂上がりの換気のために私が開けっ放しにしていた)から、音もなく城内へと侵入した。


 潜入した先は、偶然にも城のメインルーム――私の寝室のすぐ外の廊下だった。

 クラウスたちは息を殺し、扉の向こうから聞こえてくる音に耳を澄ませた。


『……くぅっ……あぁ……っ』

『……だめだ、もう……意識が……っ』

『……そこ、そこは……狂ってしまう……っ』


 扉の隙間から漏れ聞こえてくるのは、レオンハルトやシオンたちの、苦悶に満ちた(ように聞こえる)掠れた声。


『な、なんという事だ……!』

 クラウスはギリッと歯を食いしばり、血の涙を流した。

『聞け、あの誇り高きレオンハルト団長が、あのように声を漏らすほどの苦痛……! 魔女め、一体どれほどおぞましい拷問を! 突入するぞ! 私の命と引き換えにしてでも、団長を連れ帰る!』


 クラウスは聖剣を引き抜き、魔力防壁を最大まで展開して、寝室の巨大な扉を蹴り破った。


「そこまでだ極悪魔女!! レオンハルト団長は我らが――」


 バンッ!!という派手な音と共に突入した精鋭部隊。

 彼らがそこで目撃した『地獄の拷問』の光景は、あまりにも予想外なものだった。


「あ、そこそこ。レオンちゃん、首の後ろが凝ってるのね〜」

「クゥ〜〜〜ン……(あぁっ……魔女の魔法マッサージ機、最高すぎる……もう指一本動かせない……)」


 部屋のふかふかの絨毯の上。

 そこには、私の膝の上に頭を乗せ、完全に「ヘソ天(仰向け)」の無防備な体勢で、私が操る『魔力マッサージローラー』で全身をゴリゴリと解されてとろけきっている黒狼レオンハルトの姿があった。

 しかも彼の首には、お風呂上がりにつけてあげた「可愛い水玉模様のバンダナ」が巻かれている。


「シオンちゃん、爪切り終わったから、肉球クリーム塗るわね。はい、お手」

「コン(……お手、です。このローズの香りのクリーム、保湿力が高くて素晴らしいですね……あぁ、しっとりする……)」


 その隣では、白狐シオンが自ら前足を差し出し、私が肉球に特製保湿クリームを塗り込むのを、うっとりとした表情で眺めている。


「クロちゃん、ほら、猫じゃらしよ〜」

「ニャァッ!!(クソッ、またこの羽か! 殺す、今度こそ絶対に捕まえて……ああっ、羽が、羽の動きがたまらんっ!!)」


 雪豹クロードに至っては、空中に自動で飛び回る魔法の猫じゃらしを追いかけ、部屋中を走り回った挙句、カーテンに爪を立ててぶら下がり、完全に「遊びに夢中の大きな猫」と化していた。


「「「「……………………なっ!?」」」」


 突入してきた救出部隊のクラウスたちは、聖剣を振り上げたポーズのまま、完全に石化した。

 拷問部屋? 血の池?

 いや、そこにあったのは、冷暖房完備、最高級の調度品に囲まれ、魔女による至れり尽くせりのフルサービスを満喫している『超絶甘やかされペット空間』だったのだ。


「あら、お客さん?」

 私はマッサージローラーを止め、クラウスたちの方を振り返った。


「……え? だ、団長……?」

 クラウスの震える声に、ヘソ天で舌を出していたレオンハルトがハッと我に返った。


レオンハルト(ク、クラウス!? な、なぜお前がここに!? し、しまった、見られた! 騎士団長である俺が、水玉のバンダナを巻いて、腹を見せてマッサージを受けているところを……っ!!)


 レオンハルトはバネのように跳ね起き、慌てて威厳のある(つもりの)四つん這いのポーズをとった。しかし、完全にリラックスしきったフワフワの毛並みと水玉のバンダナのせいで、威厳などゼロである。


「ガ、ガウゥゥッ!!(ち、違うぞクラウス! これは誤解だ! 魔女は俺の精神を破壊するために、あえて快楽を与えるというおぞましい拷問をだな――)」

 必死に犬語(念話は私にしか聞こえない)で弁明しようとするレオンハルトだったが、悲しいかな、彼の太い尻尾はマッサージの余韻で「パタパタパタパタ!」と嬉しそうに床を叩いてしまっていた。


「だ、団長……? その、水玉の布は……それに、なぜ尻尾を振って……」

 クラウスは絶望的な顔で、上司の変わり果てた姿を見つめている。


「あら、レオンちゃんのお友達? せっかく来てくれたんだから、お茶でも出そうかしら。綿あめ食べる?」

 私が呑気に立ち上がろうとすると、クラウスがハッと正気を取り戻し、剣を構え直した。


「だ、騙されんぞ魔女め!! 団長たちにどんな強力な洗脳魔法をかけたかは知らんが、今すぐ解いてやる! さあ団長、今のうちにこちらへ! 私が殿しんがりを務めますから、早く逃げて――!」


 クラウスがレオンハルトの手(前足)を引こうと近づいた、その時だった。


「――ウゥゥゥゥゥゥッ!!!」


 レオンハルトが、かつてないほどの低い唸り声を上げ、クラウスに向かって牙を剥いたのだ。


「えっ……だ、団長?」

「ガウッ!!(触るなクラウス! 俺はまだ帰らんぞ!)」


 レオンハルトの頭の中で、猛烈な計算が行われていた。

 今、ここでクラウスと共に逃げ帰れば、どうなるか?

 王国の騎士団長に復帰し、激務と徹夜の連続。食事は硬いパンと塩味のスープ。そして何より、あの「魔女特製ドラゴンジャーキー」も「極上ボタニカルシャンプー」も「魔力マッサージ」も、二度と味わえなくなってしまうのだ。


(王国の危機ならいざ知らず、今は平和だ。俺が急いで帰る必要はない! それに、もうすぐ『夜食の特製ミルク』の時間なのだ! あんな美味いものを飲まずに帰るなど、絶対にありえん!!)


 完全に『餌付けされた犬』の思考回路に陥ったレオンハルトは、部下であるクラウスを威嚇し、私の足元にぴったりと寄り添って座り込んだ。


「コンッ(その通りです。帝国の皇子である私に、無断で触れるなど不敬ですよ。私は今、肉球の保湿成分を浸透させている最中なのです)」

 シオンもまた、前足を浮かせたまま、冷たい視線で救出部隊を睨みつけた。


「にゃあぁぁっ!(邪魔をするな! せっかく羽を捕まえられそうだったのに!)」

 クロードに至っては、遊びを邪魔された猫特有の怒りを露わにし、救出部隊に向かってシャァァッ!と毛を逆立てている。


「な、なんという事だ……」

 クラウスは、ガックリとその場に膝をついた。

「団長も、皇子殿下も、暗殺者の死神も……完全に、魔女の邪悪な魔法によって『愛玩動物ペット』に作り変えられてしまったというのか……! おのれぇぇぇっ!!」


 クラウスの悲痛と憤怒が入り混じった叫びが城に響き渡る。

 しかし、彼らがこれ以上騒げば、近隣の森の魔獣たち(を私が作った浄化領域から追い出した奴ら)が起きてしまうかもしれない。


「はいはい、お遊戯はそこまでね。夜更かしは美容の敵よ」

 私がパチンと指を鳴らすと、クラウスたち救出部隊の足元に魔法陣が展開された。

空間転移テレポート


「抜かった! 空間魔法だと!?」

「レオンちゃんたちは、うちで立派な番犬として雇うことにしたから、もう探さないでちょうだいね。それじゃ、おやすみなさい」

「だ、団長ぉぉぉぉぉ――ッ!!」


 シュンッ!

 クラウスたちの姿は、悲鳴と共に王国の城下町まで強制送還されていった。この城(土俵)では私が神なのだ。


「ふぅ、騒がしいお客さんだったわね。さ、レオンちゃん、驚いちゃったわね。夜食のミルク飲んで寝よっか」

「ガウッ!(頼む!)」


 自分の部下を追い返したにも関わらず、レオンハルトは微塵も後悔する様子を見せず、嬉しそうに尻尾を振ってミルクのお皿に向かっていった。

 シオンもクロードも、何事もなかったかのように自分の定位置(私のベッドの周りの最高級クッション)へと戻っていく。


(……この子たち、完全に帰る気ないわね)


 私は彼らの丸い背中を見つめながら、確信した。

 彼らはもう、元の人間社会の厳しい生活に戻ることはできない。極悪魔女(私)の提供する絶対的な安全と、究極の福利厚生、そして底なしの甘やかしに、魂の髄まで浸かりきってしまったのだから。


「ま、私としては可愛いモフモフたちとずっと一緒にいられるから、願ったり叶ったりだけどね」


 私はニコニコと笑いながら、彼らの頭を順番に撫でて回った。

 彼らが人間に戻ることは、おそらく永遠にない。

 もし奇跡が起きて呪いが解けたとしても、今日、部下の前で「水玉のバンダナをつけてヘソ天していた」という黒歴史が追加されたレオンハルトが、正気でいられるはずがないのだから。


「さ、明日はみんなに新しいお洋服(お散歩用の可愛いレインコート)を作ってあげるからね!」


 極悪魔女の平和で忙しいスローライフは、彼らの尊厳を削りながら、明日も続いていく。

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