胃袋と尊厳の完全掌握! そろそろ呪いを解いてもボコボコにされない説
カラカラカラ……、フリフリフリ……。
王国の辺境にある商業都市の石畳を、私は鼻歌交じりに巨大な『魔導ペットカート』を押して歩いていた。
カートの周囲はこれでもかとピンクのレースやリボンでデコレーションされており、街を行く人々は「お、おう……なんだあの派手な乳母車は……」と遠巻きにこちらを眺めている。
だが、人々が本当に驚愕すべきは、そのカートの『中身』だった。
「ほらみんな、街に着いたわよ。絶対に顔を出したらダメだからね?」
私がカートの遮光カーテンを少しだけ開けて中を覗くと、そこには――。
ギューギュー詰めの密度のなか、ミニチュア騎士服を着た巨大な黒狼が小さく丸まり、フリルケープを着た白狐が彼の背中の上に乗って、ネコ耳フードの雪豹がカートの隅のクッションに顔を埋めて完全に現実逃避していた。
レオンハルト(……殺せ。いっそ俺を殺してくれ……っ。なぜ王国の近衛騎士団長であるこの俺が、こんなフリフリの箱に詰め込まれて街をドナドナされねばならんのだ……!)
シオン(……シッ、静かにしなさい駄犬。声が漏れたら終わりです。もし帝国の密偵にこの姿を見られでもしたら、私はその場で自決します……!)
元英雄たちのプライドは、街の石畳の上で今、完全に粉砕され、チリ紙のようになっていた。
しかし、彼らがここまでして付いてきたのには理由がある。「お留守番してたら、今日のおやつの『特製マナ苺のパフェ』は抜きよ」という、私の無慈悲な一言に胃袋を人質に取られたからだ。彼らは完全に、食欲の奴隷だった。
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カートを押しながら、私は心の中でニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
(ふふふ……順調、実に順調だわ!)
そもそも、私が彼らをここまで限界まで甘やかしているのは、単なる趣味(9割趣味だけど)ではない。
彼らは本来、私を討伐しにきた王国の最高戦力たち。もし何かの拍子に呪いが解けて人間の姿に戻った瞬間、元極悪魔女の私は確実に恨み骨髄でボコボコにされ、ギロチン台へ直行のエンドを迎えてしまう。
だからこその、この『圧倒的手懐け作戦』なのだ!
動物の姿のうちに最高級の肉を食わせ、極上のスパで癒やし、可愛いお洋服で尊厳をマッサージ(粉砕)し、「魔女様なしでは生きていけない身体」にしてしまえば、いざ人間に戻った時も「ボコボコにするどころか、むしろ飼ってくださいと跪くはず」という、私の命がけの生存戦略(下心)なのである。
(昨日も一個のハンバーグのために必死に私の好みを当てにきたし、今日の朝もあんなに寂しがってくれた。……これ、もう好感度カンストしてんじゃない?)
街の中央広場を通りかかると、大きな掲示板に「行方不明の英雄たち(レオンハルト、シオン、クロード)を捜索中。有力な情報には賞金」という手配書が貼られているのが見えた。
(あんな徹夜続きでご飯も硬いパンばかりのブラックな職場、戻りたいはずがないわよねぇ)
私は手配書を一瞥し、フリフリカートの中のモフモフたちに心の中で語りかける。
そして、今日の一番の目的地である、怪しいお婆さんが営む『魔法素材専門店』へと足を向けた。
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「いらっしゃい、魔女様。お探しのものはこれかね?」
店の奥から差し出されたのは、怪しく黄金色に輝く一房の果実。
それを見た瞬間、カートの中のレオンハルトとシオンの耳が、ピクン!と跳ね上がった。
レオンハルト(な……ッ!? あれは……伝説の『月光の果実』!?)
シオン(馬鹿な、あらゆる状態異常や変身の呪いを一時的に解除するという、世界に数個しか現存しない幻の秘薬……!)
そう、私が今日街に来た本当の目的は、この果実の買い出しだった。
「ありがとう、お婆さん。これさえあれば、うちの可愛いペットたちを、ちょっとだけ『元の姿』に戻して実験ができるわ」
私は果実を空間収納に仕舞い、満面の笑みでカートを振り返った。
(よし、準備は整ったわ! これだけ贅沢に餌付けしたんだから、もう私をボコボコにしようなんて野生の心は消え失せているはず。お城に帰ったら、いよいよこの果実を使って……彼らの呪いを解くテストをしてみましょう!)
ついに、魔女の手懐け計画は最終段階へ。
物語の結末――「ボコボコ処刑エンド」を回避し、「一生私のモフモフ下僕として養ってあげるハッピーエンド」に向けて、運命の舵が一気に切られたのである。
レオンハルト(……おい、魔女が不穏な笑みを浮かべてこちらを見ているぞ)
シオン(まさか、次はどんな恐ろしいお洋服を着せられるというのですか……。私はもう、フリル以上の屈辱には耐えられませんよ……!)
まさか自分たちの「人間に戻る鍵」が買い出されたとも知らず、カートの中でブルブルと震える元英雄たち。
「さあみんな、お城に帰ったら、特製パフェを食べながら『運命のお披露目会』よ!」
極悪魔女の生存戦略は、彼らの胃袋を完全に掴んだまま、ついに最終決戦へと向かうのだった。




