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人間に戻った英雄たちの消えない『後遺症』

 お城に帰り着くや否や、私は約束通り『特製マナ苺の超絶特大パフェ』を作り上げた。

 グラスの底にはサクサクの魔力パイ生地、その上に濃厚なバニラアイスと、甘酸っぱいマナ苺をこれでもかと山盛りに積み上げ、仕上げに世界樹のシロップをたっぷりとかけた至高のスイーツである。


「はい、お留守番(カートでの隠密行動)お疲れ様! 存分にお食べ!」


「「「「ガウッ!!(コンッ!/ニャァッ!/きゅっ!)」」」」


 四匹はフリフリのお洋服を着たまま、ものすごい勢いでパフェに喰らいついた。

 レオンハルト(黒狼)は顔中をクリームだらけにし、シオン(白狐)は「冷たっ、しかし美味い……っ」と頭を押さえながらもスプーン(前足)を止めず、クロード(雪豹)に至っては器の底を舐め回している。


(うんうん、いい食いっぷりだわ。これなら完全に胃袋は私のものね)


 彼らがパフェを完食し、絨毯の上で幸せそうにお腹を出して転がったタイミングを見計らって、私は空間収納から先ほど買った『月光の果実』を取り出した。


「さーて、みんなお腹いっぱいになったところで……。今日のおやつの『デザート』は、これよ」


 私が果実を四等分にカットしてお皿に並べると、レオンハルトとシオンの顔色(毛色?)がサァッと変わった。


レオンハルト(お、おい……! それは本当に『月光の果実』ではないか!? あらゆる変身の呪いを解くという伝説の……っ!)

シオン(まさか、魔女は本当に私たちの呪いを解くつもりですか? 討伐軍である私たちを人間に戻せば、自分の首を絞めることになると分かっていて……?)


 彼らの目に、かつての「戦士としての理知」がわずかに蘇る。

 そうだ。これを食べれば、人間に戻れる。

 忌まわしきフリフリ服とも、四足歩行の生活ともおさらばし、王国の騎士団長として、帝国の皇子として、本来の誇り高い姿と力を取り戻すことができるのだ。そして、目の前の極悪魔女を討ち取ることも――。


「ほら、食べていいわよ。あー、でも、これを食べたらもう……私からの『ご飯』や『お風呂』は、おしまいかもねぇ」


 私がわざとらしく、大げさにため息をついてみせた、その瞬間。


 ピタッ。

 月光の果実に伸ばしかけていたレオンハルトの前足が、空中で完全にフリーズした。


レオンハルト(……おしまい、だと? あの肉汁溢れるハンバーグも、厚切りベーコンも、そしてこの極上のパフェも……二度と食べられない?)


 レオンハルトの脳裏に、走馬灯のように『人間の時の生活』がフラッシュバックした。

 来る日も来る日も書類の山。徹夜の連続。食事は塩味の薄い硬いパンと干し肉。お風呂は冷たい水浴びのみ。

 対して、魔女の城での生活。

 毎食が超高級レストラン顔負けのフルコース。ふかふかのベッド。極上の泡風呂と魔力マッサージ。


レオンハルト(……人間の尊厳と、この神がかった福利厚生……どちらが上だ……!?)

シオン(……皇子としての責務と、魔女様が毎日作ってくれるおやつのプリン……。計算するまでもない、どう考えてもプリンの圧勝です……!)

クロード(……帰らない。暗殺稼業なんて、もう嫌だ。温かいお布団とちゅ〜るが良い……)


 彼らは果実を前に、かつてないほどの激しい葛藤に襲われていた。

 だが、私としてはどうしても「人間の姿でも私を攻撃しないか」を確認しなければならない。命がかかっているのだ。


「あれ? 食べないの? じゃあ私が食べさせちゃうわよ。ほら、あーん」


 私が無理やり彼らの口に果実の欠片を放り込んだ瞬間――。


 ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!


 部屋の中に白い煙が立ち込め、眩い光が弾けた。

 やがて煙が晴れた後。絨毯の上に倒れ込んでいたのは、見目麗しい人間の男たちだった。


「げほっ、ごほっ……な、なんだ……?」


 一番に体を起こしたのは、黒髪で鋭い眼光を持つ、彫刻のように整った顔立ちの超絶イケメン。王国の近衛騎士団長、レオンハルトだ。

 続いて、白銀の長髪を揺らす中性的な美青年、シオン。

 そして、灰色の髪で影のある美少年、クロード。


「やった……! 元に戻ったぞ!」

「ええ、魔力も完全に回復しています。これでようやく……!」


 彼らは自分の手を見つめ、歓喜の声を上げた。

 ……が。私は彼らの姿を見て、思わず「ぶっ」と吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。どうやら中途半端だったようだ。


 なぜなら、彼らの体には、魔獣の時の名残――レオンハルトには『黒狼の耳と太い尻尾』が、シオンには『白狐の九本のしっぽ』が、クロードには『雪豹の耳と長い尻尾』が、しっかりと残ってしまっていたのだ。

 しかも、彼らが着ているのは、動物の時に着せていた「ミニチュア騎士服」「フリルケープ」「ネコ耳フードポンチョ」が、人間サイズに巨大化してパツパツになった代物だった。


(ヤバい、超絶イケメンなのに、頭に犬耳生やしてピチピチのフリル着てる……! シュールすぎる!)


 しかし、彼ら自身はその面白すぎる格好にまだ気づいていない。

 レオンハルトが立ち上がり、私に向かって鋭い視線を向けた。


「……極悪魔女セルリア。ついに俺たちは元の姿を取り戻したぞ。もはや貴様の甘言には騙されん。大人しく縛につけ!」


 おっ、言ったわね?

 私は心臓をバクバクさせながらも、余裕の笑みを浮かべてみせた。


「へえ、私を捕まえるの? ……でもレオンちゃん、本当にそれでいいの?」

「レ、レオンちゃんと呼ぶな! 俺は騎士団長だ!」


「だって、あなたの尻尾……ものすごくパタパタ揺れてるわよ?」


「……え?」


 レオンハルトが恐る恐る後ろを振り返ると、彼のお尻から生えた立派な黒狼の尻尾が、まるで扇風機のように「ブオンブオンブオンッ!」と千切れんばかりに私に向かって振られまくっていた。


「な、なんだこれは!? し、尻尾が勝手に……ッ!?」

「シオンちゃんも、私を威嚇してるつもりでしょうけど、その九本のしっぽ、完全に『撫でて』のアーチを描いてるわよ?」

「なっ!? ば、馬鹿な、私の高貴なしっぽが、なぜこの女に向かって……っ!」


 そう。彼らの理性は「魔女を討伐しなければ」と考えていたが、彼らの肉体と本能(と胃袋)は、完全に私に調教されきっていたのだ。

 人間の姿に戻ろうが、彼らの深層心理に刻み込まれた「魔女様=最高のご主人様」という図式は、決して消えることはなかった。


「もう、強がらなくていいのよ。ほら、手を出して」


 私が手を差し出すと。


「くっ、誰が貴様になど……!」

 口ではそう反抗しながらも、レオンハルトの右手が、スッ……と私の手の上に重なった。

 完璧な『お手』である。


「うおおおおッ!? 俺の右腕がぁぁぁッ!!」

「はい、よくできました。次はシオンちゃん、お座り」

「誰が座るか……っ、はっ!? ひざ、膝が勝手に……ッ!」

 シオンは綺麗な土下座(正座)の姿勢で、私を見上げてプルプルと震えている。


「クロちゃん、ちゅ〜る食べる?」

「……(無言でネコ耳フードを被り、口を大きく開けて待機)」


(勝った……!!)

 私は確信した。私の命がけの生存戦略は、完璧に成功したのだ。

 このイケメンたち(耳としっぽ付き)は、もう絶対に私に危害を加えることはない。それどころか、私の命令には本能レベルで逆らえない『絶対服従のモフモフ下僕』と化していたのである。


「ふふふ……。みんな、これからも末長く、私の城で一緒に暮らしましょうね? 今夜は特上の『すき焼き』にしてあげるから」


 すき焼き。

 その単語を聞いた瞬間、討伐の意志など完全に宇宙の彼方へ吹き飛んだイケメン三人は、パァァァッ!と顔を輝かせ、私の足元にすり寄ってきた。


「ガウッ……いや、魔女様! 一生ついていきます!」

「コン……いえ、私めをお傍に置いてくださいませ、ご主人様!」

「ニャァ……すき焼き、肉、いっぱい……」


 こうして、世界を滅ぼすはずだった極悪魔女を討伐するはずだった英雄たちの関係は、「過保護な飼い主」と「限界まで甘やかされたイケメン下僕」として、新たなステージへと突入するのであった。

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