最終話 家の祈りから外した声は、私の名で終鐘を鳴らす
その年の最後の夜、王都ではすべての鐘が一度ずつ鳴る。
新しい年を呼ぶ派手な祝鐘ではない。過ぎた一年の記録を閉じるための、静かな終鐘だ。各礼拝堂、鐘楼、施療院、職人街が、自分たちの名簿を確認し、歌った日、休んだ日、代替した日、非発声で祝福した日を読み返す。
エリアナは声名簿講堂で、最後の確認をしていた。
今年の休声欄は、空白ではない。
ミレーヌは三回休み、三回とも代替が成立した。ユーレンの木札奉納は二件に増えた。メリッサの朗読式は七件。王宮礼拝堂では、古式祝歌の発声者名併記が正式書式になった。ベルフォード家祝鐘は私的葬送を二件送り、母セシリアの木札は一度も外されなかった。
すべてが完璧ではない。
ある貴族礼拝堂では、休声欄を埋めることにまだ抵抗がある。見習いの中には、痛みを隠してしまう子もいる。父グラードからの手紙は、今も短く、時々棘がある。カインの家との慰謝料支払いも、最後の確認が残っている。
それでも、記録は進んでいる。
エリアナは台帳の末尾に、自分の年次記録を書いた。
『発声日、七十二日。休声日、百三十六日。非発声立ち会い、十九件。過負荷なし』
百三十六日。
歌わなかった日が、こんなにも堂々と数字になる。かつてなら恥だと思ったかもしれない。役に立たない日、怠けた日、家の期待に応えなかった日。
今は違う。
その日数があるから、七十二日の発声が守られた。
終鐘の時刻、アレクシスが迎えに来た。彼の手には、小さな家の鐘と同じ形の携帯鐘がある。
「今年の最後は、どこで聞きますか」
エリアナは石板に書いた。
『外で。王都十二鐘が、一人に戻ってこない音を聞きたいです』
二人は講堂の外へ出た。冬の空気は冷たいが、喉元には青い肩掛けがある。広場には、見習いたち、職人、婦人会、施療院の人々が集まっていた。誰かがエリアナに歌を求めることはない。今日は休声日だと、皆が知っている。
最初の鐘が鳴る。
西礼拝堂。
次に王立施療院。花市場。南門。薬師広場。古書街。遠くで、ベルフォード家の祝鐘も一度だけ応じた。どの音も、誰か一人の喉へ戻らず、それぞれの場所から空へ上がる。
エリアナは目を閉じた。
声名札を外した夜、彼女は沈黙を選んだ。
あの沈黙は、終わりではなかった。
自分の名を取り戻すための始まりだった。
アレクシスが携帯鐘を差し出す。
「最後の一音を、鳴らしますか。声ではなく、手で」
エリアナは頷いた。
小さな鐘を鳴らす。
りん。
その音は、王都十二鐘に比べればとても小さい。けれど、エリアナの手から出た音だった。喉を削らず、誰の名も消さず、休声日のまま鳴らせる音。
彼女は石板に最後の一文を書いた。
『私の声は、私の名で。私の沈黙も、私の名で。だから、明日も私は選べます』
アレクシスはそれを読み、静かに手を握った。
王都の鐘が、冬の空で重なっていく。
エリアナはもう、幕裏で誰かの名前を飾る少女ではない。
歌う日も、休む日も、声を出さない祝福の日も、すべて彼女自身の記録だ。
家の祈りから外した声は、消えなかった。
自分の名で休み、自分の名で働き、自分の名で愛し、たくさんの鐘へ分かれて響いている。
その響きの中で、エリアナは穏やかに笑った。
もう、誰にも言わせない。
私の声を、誰かの名前で歌えとは。
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