完璧超美人リリアーナ
ぽわっとまるで沸騰するお湯のように、ついついテンションの上がってしまった私でしたけれども。
「温泉ッ!? あるのッ!? ここにッ!?」
そんな私よりも更に一段ほど声色を高くなさったスピカさんが、ミントさんの肩をグイッと掴んではぐわんぐわんと揺らしていらっしゃいましたの。
風に揺れる麦穂よりも右に左に大忙しな感じなのです。
始めのほうはフフンどやどやと余裕そうなお顔をしていらっしゃいましたの。
しかしながら、ふぅむ……? だんだんと顔色が悪くなってきているような……?
「…………ストップ。これ以上やられたら、さすがのアタシでも……吐くから」
「あ、ごめんっ」
フラッと膝から崩れようとしたミントさんの肩を支えるような形で、揺り動かすのをようやくお止めなさいました。
なるほど、今朝方の治癒魔法は効いているようですが、まだまだ万全というにはほど遠い状態みたいですわね。
こんなに弱々しくて女々しいミントさんなんて、早々にお目にかかれるものではありませんの。
ともかく彼女を部屋の中のベッドのほうまで誘導してさしあげまして、私たちもまた、近くに腰を下ろしておきます。
「…………ふぅ。やっぱり酒を飲むと、アタシの絶妙なバランス感覚が狂っちゃうみたいね。適当に宙に浮くこともできなくなるし」
「あら、そうなんですの?」
ぼっふと重い音を立てながら、布団の塊に背中からダイブなさいました。
いつもは鞭のようにしなやかな尻尾も、今日は物憂げにでろんと垂れておりますの。
「もしや魔族にお酒は天敵でして?」
「いや、別にそういうわけでもないと思うけど……あーでも、そういや親父が飲んでるところは見たことないわね……」
「はぇーっ! ミントさんのお父様っ」
「ま、飲む暇もないってのが一番の理由なんでしょうけど」
ぷいっと憎まれ口を叩いたかと思いきや、ガバッと身を起こし直しなさいましたの。
一瞬だけまた顔をしかめなさいましたが、ふっとすぐに息を整えていらっしゃいましたの。
朝方にゆっくりと二度寝なさったとはいえ、まだ万全というわけではないようで。
「……それはそうと、私もつい先ほどまで外を出歩いておりましたから、足がヘロヘロなんですの。少しばかり休んでいってもよろしくて?」
これは嘘も方便ってヤツですの。
さすがに私も旅を続けてきて長いですから、この程度のお散歩で疲れてしまうような足腰は持っておりません。
「こっほん。充分に休まるまでちょっとしたお話でもしていましょうか」
本当の理由はミントさんのためでしてよ。
私は空気が読めて気も遣える優秀乙女ですもの。
グロッキーめな彼女が落ち着いて歩けるようになるまではもうしばらく時間が必要かと思いますゆえに。
それなりにご復活なさるまで、スピカさんの愛剣がどのような流れを経て修理されることになったのか、パパッとご説明しておきたいと思います。
一石二鳥の報告会ですわね。
「ぅおっほん。どうか楽ぅな姿勢で聞いてくださいまし。特に深刻なお話をするつもりはありませんし。えっと、そうですわねぇ……。まずは今朝方のお話から――」
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小腹が空くくらいの時間は経ちましたでしょうか。
顔を青白くなさっていたミントさんも、すっかり色を取り戻しております。
アタシもドワーフの爺ィが驚く顔を見たかったわね、なぁんてケラケラと笑っていらっしゃいました。
「そんじゃそろそろ向かうとしますか。そこそこ歩くわよ。街中にあったら大繁盛しちゃうし、広いし」
「私、温泉って初めての経験ですの〜っ」
「滝みたいに流れてるところとか、やたらバカでかい湯船とかあるらしいわよー」
はぇーっ。それは楽しみですのーっ。
大人も子供も満喫できそうですから、人気が出ないわけありませんわよね。
「夜は芋煮のごった返しになると思うわ。今なら多少は空いてるんじゃないかしら」
きっとお仕事帰りの方々がその日の汗を流しに来られるのでしょうね。
筋骨隆々なドワーフ族さん方が、裸で湯を浴び水を浴び……!
ふっふっふ。妄想が捗りますわねぇ。
私としては別に混浴でも大欲情でもオール・ウェルカムなんですけれども、ここまで湯浴み文化が発展しているのであればキチンと管理されていそうな気がいたします……。
今回は旅にくたびれた己とお二方を労うつもりで、温泉というモノを楽しませていただきましょうか。
すっくと立ち上がっては、膝の具合を確認してみます。
……ぃよーし、おーるおっけーですの。
今でさえすこぶる元気だと言いますのに、温泉効果によってこれ以上元気になってしまったら、私はどうなってしまうのでしょうか……!?
おまけに様々な成分の溶け込んだトロみのあるお湯はお肌にも格別にイイらしいですの。
このままではただの美人のリリアーナが完璧超美人リリアーナになってしまうかもしれません……ッ!
「……あと、温泉に浸かりながら飲むお酒もあるのよねぇ」
部屋を出る直前にミントさんがボソリと呟いたのも、私は決して聞き逃しませんでしたの。
はっはーん。
さてはそれが一番の目的なんですのねぇ!?




