第五十九話「対話」
夏課題も終わって暇ができたので、取り敢えず執筆。
新しい話が出来たので、上げます。
「ボクの為に死ね。霧式 碧」
「そりゃ無理な話だ。σたん」
刹那、離れた位置にいた両者が、激突する。
σの小柄な体躯から繰り出されたとはとても思えないほどの、風の刃による重厚な一撃が俺を襲った。
が。前にのめり込むような形で上段からの風刃の一閃は、俺の武装―――魔剣によって阻まれる。
σは運動エネルギーをそのまま返されたかのように、空中に弾き飛ばされる。
「…魔剣?! いつの間に!!」
空中で即座に姿勢を建て直し、驚くように言うσ。
俺の両手にある魔剣は槍型。
短槍の魔剣が【魔槍グゥエルニール】。
長槍の魔剣が【呪槍グヴェイ=ヴォルグ】。
【グゥエルニール】は魔力に接触できる能力を持ち、σの風の刃という物理的に受け止められない攻撃を受けるのには最適だ。また、スキルの【魔槍】は短い詠唱が必要だが、一度だけ必ず意図した場所にこの槍の攻撃が当たるようになり、更に攻撃の際に対象の魔力を任意で奪う力を持つ。
【グヴェイ=ヴォルグ】も同じく魔力に接触できる能力を持つち、刃の部分に任意の魔法を“込める”事ができる。更にスキル【呪槍】は、【グゥエルニール】と同じように短い詠唱が必要なものの、追尾性能を持つ一撃を放ち、また任意であるが、対象に強力な呪詛をかける。その呪詛が力を発揮し続ける限り、対象者にこの槍がつけた傷が癒えることは無い。
さて、説明も終わったことだし、戦いを始めようか。
俺は蹲踞のような姿勢で、【グヴェイ=ヴォルグ】を右肩に担ぎ上げ、【グゥエルニール】は左手と脇に挟むようにして構える。
「戦いはその前からだ。準備を怠った者が負ける」
「…言わせておけばッッ!!」
叫びながら接近してくるσの足を払うように、【グヴェイ=ヴォルグ】で薙ぐ。
そこからの跳躍し、空中でくるくると、まるで出来の悪い駒のように回り、σを翻弄する。
着地した瞬間からも、迂闊には近づけないよう、【大車輪】【王蓮華】【轍廻】を繋げて使い、牽制も忘れない。
「ボクにも、守りたいものがあるんだ!! これさえッ! この任務さえ乗りきればッッ!!」
σの感情が吐露されて行く。
その吠え様には、先程までの迷いなど微塵もなく、何か強い決心が心を固めているようでもあった。
「ふッッ!!!」
刹那。そして、前の――対抗戦の時のσならば考えられない程鋭い踏み込み。
全身の強烈な魔力の高鳴りから、強化魔法の類いを使っていることは容易に類推できるが、その強化された肉体スペックに振り回される事もなく行動出来ているのは、ひとえに厳格な修練によるものなのだろう。
「ふッ!! ッ!! ハァッッ!!」
血気盛んな気合いとは裏腹に、繰り出される風刃の太刀筋や足の運び、体勢の維持は完璧。
風というだけあって、自在に伸縮できる刃も非常に厄介だ。間合いが常に変化しており、合わせるのにも随分苦労させられる。
「…お前…ッ! 俺の指摘通り、体…鍛えたんだッなッッ!!」
「それはッ、まあねッッ!!」
カァァアン!!!
甲高い音をたてて、槍の一本、【グゥエルニール】が真上へすっ飛んでゆく。
強化魔法を集中したσの裏拳が上段で防御していた俺の右手首に激突し、衝撃でぶっ飛ばされたのだ。
(風の刃じゃなくて腕かよ?!)
内心で叫びながらも槍撃の手は休めない。たった一本の槍でもσくらいの相手であれば戦える。
「あと一本! 必ず勝つ!!!」
意気込むσの攻撃の威力、キレ、重みが異様に増す。
「くっ…!!」
腕にかかる圧力と負担が半端じゃない…!
(クソッ、間合いの取り方、足の運び、攻撃の威力やタイミングを取っても以前とは段違いに上達している…!! この短期間で最早、別人…! ………だが…!)
だが、勝機はある。
『この短期間で』
そう。この戦いは前の対抗戦から然程と時は立っていない。
故に、短期間でどこまで強くなろうが、必ず綻びが発生する。
慣れと経験が足りなければ、如何に努力しようと、ミスが起きる可能性は非常に高まるのだ。
そして今、会話を交わすことによって、σに僅かな隙が生じた。
勿論、その隙をみすみすと見逃す俺ではない。
「貰った。…【穿て、必恨の槍】」
俺はあくまで冷静に、σの隙をついて、【グヴェイ=ヴォルグ】のスキル、【呪槍】を放つ。
「霧式! お前は甘いんだよ! 本気で殺しにかかってこない!! だから――――」
(ッッ!?)
「――――こうなるんだよ」
確かに貫いた筈のσは、霧散して消えて行く。
これは……。…風魔法で大気のの屈折率を変えたのか? 蜃気楼と同じ原理か。
「…まあ、予想はしてたがな」
俺は足元にあるそれを自分の手元へと蹴り上げる。
「なッ!? それは…!?」
大きく驚愕するσ。
俺はσに代わって続ける。
「ああ。魔剣―――【魔槍・グゥエルニール】だ」
「―――――ぁ………」
目を見開き、口を半開きにして、無防備に四肢を投げ出すσ。
そう。俺はこの戦いの中で槍を落とした事で、σが『あと一本』と錯覚したのをいい事に落ちた槍の位置まで押されているフリをしながらこの時が来るのを待っていた。
――驚愕、動揺、精神の乱れ。いずれも戦場では致命的なまでの隙だ。
その大きすぎる隙。
無論、断つ。
「…【貫け怨恨の呪槍】」
発動するスキルは、【魔槍・グゥエルニール】専用の武装スキル、【魔槍】だ。
研ぎ澄まされた刃は、σの柔らかい脇腹に食い入るように滑り込み、いとも簡単に断つ。
急所は外している。
俺は、二度と殺さない。殺さずに、戦い抜く。
ドサリと。
σが地面に落ちる。
体内の魔力を、生存に必要な最低限のラインまで奪った。もう指一本動かせないだろう。勿論、魔法の発動も、生命力を削らない限りは不可能だ。
あわあわと逃げ出そうとする仮面の奴等は、逃げられないように【グゥエルニール】を地面に突き立て、溜め込んでいた魔法を放つ。
それは闇属性の派生固有属性、“影属性”の魔法【影縛り】。
仮面達に【グゥエルニール】を中心として、まるで触手か何かのように、うねりながら猛スピードで接近するのっぺりと平面的な黒い影。
それは這い上がるように仮面達の体にまとわりつき、その場に縛る。
「……何で…殺さない…」
地面に大の字で横たわりながら、力なく呟くσ。
「これが俺の選んだ道だからだ」
俺は、σと…誰よりも自分自身にそう言い聞かせる。
ちらりと見た、σの表情は、死人のようだった。希望が見えずに、何かを諦めかけている顔だ。
俺は、【グヴェイ=ヴォルグ】を片腕で抱くようにしながら、σの横に座る。
すると、何を思ったのか、σが自分がヌゥェゴモル教団にいる理由を独白し始めた。
「ボクが……ヌゥェゴモル教団にいる訳。簡単だよ妹が人質に取られてるんだ」
次回、σたんとヌゥェゴモル教団施設にもぐりこむ! そこで霧式は、意外な強敵と相見える事になる。
乞うご期待!!




