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第五十八話「覚悟は、ない」

 お待たせしました! 最新話です。





 着地したのはいいものの、砂埃が物凄い。

 もうもうと立ち込める砂の弾幕で、辺りはなんも見えない。最早目眩ましだな。


 取り敢えず、風魔法で風を発生させ、前に砂埃を押し出す。



「…霧式…碧…!!!」


 そんな声が聞こえた。「何で俺の名を?!」とも思ったが、待てよ。 この声は…。


「ん? σ(シグマ)たん?」



 夏の対抗戦で出会ったσ(シグマ)たんの声やないか!


 砂埃が晴れると、口元をヒクつかせて額に青筋を浮かべながらも笑顔だという、訳の分からない表情で立ち竦む、σ(シグマ)がいた。



「え? どゆこと? 聖岳ちゃんを攫ったのσ(シグマ)たんなの?」



 σ(シグマ)の掌より飛んでくる光の光線を、首を傾げて避け、ナチュラルに俺はそう問う。



「チッ、これ避けんのか…。って、ボクをσ(シグマ)たんって呼ぶなよ!」



「いや、そんなのいいからさ、聖岳ちゃん攫ったの、お前ら?」


 σ(シグマ)たん達を軽く睥睨しながら言う。

 結界を張っていたとおぼしき仮面の教徒達が狼狽えるように後退る。


 σ(シグマ)たんは、はあとため息をつくと呆れるように口を開いた。


「あそこでスプラッタなことになってる男だよ。

私はただ護衛隊の隊長で、与えられた任務は上山(かみやま)聖岳(ひじり)が車から出られないように包囲しておく檻の役割さ」


 長ったらしい説明をしていたσ(シグマ)たんが指差した先には丁度聖岳ちゃんが背を預ける車の残骸があった。


 車は半ばから幾つかの断面を覗かせるように破断しており、その中でそれに巻き込まれたであろう男が胴体と首、それから脛のあたりを輪切りにされて横たわって(?)いる。


「うわぁ、こりゃまたグロいな…。ホントにスプラッタホラーだよ、スプラッタホラー」


 無駄に綺麗な切断面から臓腑が溢れ落ちているのもグロポイントプラスだな。


 って、そんな事をいってる場合か。


「お宅は聖岳ちゃんを何に使うつもりだったわけ? 【無限叡智】でも妨害が入って調べられないんだよ」


 俺はちらりと後ろでぐったりとしている聖岳ちゃんを見ながらも、そう問う。


「…ボクは知らないよ。…あ、でも木貞タキって奴が関わってるのは小耳に挟んだけど……。詳しくは分からないや」


「そうか」


 俺は答えながら、【無限叡智】を起動。



『木貞タキについて世界検索(ワールド・サーチ)しますか? yes/no』



 勿論yesだ。


 そして、頭の中に情報が流れ込んでくる。


 木貞タキ。2095年、山口県生まれ。


 サイコパス。自分の悦楽の為なら手段を選ばない。非常に残忍で冷酷なな一面も持つ。


 グラナダ教国へバックにつくようにヌゥェゴモル教団を誘導。

 教国が戦闘を周囲にけしかける混乱に乗じて、世界中にヌゥェゴモル教団の教徒をばら蒔き。火崎アリスもゲリラ小隊襲撃の際に学園に侵入。


 また、研究者・科学者・医者といった側面も持ち合わせており、非常に稀有な天才である。

 人を攫い、非人道的な人体実験を行う。


 現在は■■■■により、■■■し、イデアを複数保持した戦士(オモチャ)複数イデア保持体(イディアクス)の制作に熱中。





 集められた有益な情報はこんなところだ。

 途中で奇妙なノイズ―――ヌゥェゴモルによる妨害だろうか―――が走り、うまく聞き取れなかった箇所もあるが、要点は掴んだ。

 グラナダ教国のバックにいた教団はヌゥェゴモルだったのか。



 だが…。


 何故だろう。 今までヌゥェゴモル教団について調べたことが幾らかあったが、どれも失敗に終わった。


 それは団員についての情報もだ。

 こんな簡単に情報が手にはいるなんて…。やはり…






 …………罠、か。




σ(シグマ)たん、嵌めたな? 俺らを」


「………まあね」


 苦々しい表情を浮かべる俺に、目をそらしながらそう言うσ(シグマ)


「…お前らしくないぞ。なんか」



「…知らないよ、そんな事。…ボクは、どっちにしろヌゥェゴモル教団に付く。…だって…いや、何でもない」


「……。やるのか。殺し合い」


「……やるよ。ボクはボクのために、お前を殺す」



 俺は横顔から見えるσ(シグマ)たん…いや、σ(シグマ)の目を見据えて問う。


 その目に、決意はなかった。



 彼女は、迷っている。



 いや――――


「こりゃ、縛り付けられてるヤツの目だ」





「ボクの為に死ね。霧式 碧」



「そりゃ無理な話だ。σ(シグマ)たん」




 二人による、“戦い”が始まった。


 仮面の衆も、聖岳ちゃんでさえ立ち入ることのできぬ高次元の戦い。



 そこには、迷いと、決意と、誓いがあった。



 二人は、各々の思いを刃に乗せ、殺し合いという名の“対話”を始めた。






 次回から戦闘に入ります。

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