第二十七話「夏だ! クラス対抗戦!~10~」
次回から綾瀬の試合が再開されます。
今回はちょっと心のお話。
「――?!」
【精神干渉】を使おうとしたその瞬間、綾瀬がその場に崩れ落ちた。
イデアは顕現こそしているが、本当に辛うじてといった感じで、鏡面には罅が入っている。
「……ヤバイな。綾瀬の心が折れかかってる…」
隣の聖岳ちゃんは…。…うん。精神干渉系イデアの考察に取り付かれて最早正気じゃないね。
…勘の鋭い聖岳ちゃんは無効化されている。
これはチャンスだ。使えるぞ…。【精神干渉】が。
「………【精神干渉】」
俺はスキル名を唱え、綾瀬の精神――心に侵入した。
† † †
(綾瀬視点)
心が、折れてしまった。自分がどんなに嘘つきな人間なのか、分かってしまった。
いつからか勘違いしていたのか。私は、誰も信じられないとても臆病で嘘つきな人間。
なのに、ずっとそれから逃げ続けて。剰え他人も自分も騙し続けていた。
最早私に、なんの自信もない。合宿で死ぬような思いをしたのも、試合でFクラスの皆が頑張ったのも。全てがどうでもいい事。
私は、これからも信じられないのだろう。他人もきっと自分自身も。
『――――そうじゃないだろ』
妙にエコーのかかった声が脳内に響いた。
―――え?
この声は―――霧式くん……?
『(ファミ吉下さい…)』
そんなふざけた台詞が『コイツ、直接脳内に…?!』…といった感じで、響き渡った。
† † †
暗澹とした漆黒の空間にて。
(ファミ吉下さい…)
なんか綾瀬に元気がなさそうだったから、俺は取り敢えず言ってみた。勿論、脳内に直接。
「…。……」
うわ、なんか無言で睨まれた…。何故だ。解せぬ。
まあ、このファミ吉を食えば元気でるだろ。まあ、あげないけど~。
俺は手にファミ吉を出現させて一人で食べる。
何故そんなことが出来るのかと言うと、ここが精神世界――通常の世界とは全く違う世界だからだ。
…え? 自分だけ食べるとか卑怯? 外道?
知りませんね。そんなこと。
「…!! …?!」
…おう綾瀬も自分が今何処にいるのか気付いたようだ。
…ごほん。精神世界にいることは分かっていないらしいが、何か超次元的な所にいるのは理解しているらしい。
いやぁ~、ファミ吉ウマーー!!
あ、すんません調子乗ってました今すぐひれ伏すんでそんなに白けた目で見ないで下さいすいませんマジごめんなさい。
………それにしても、何だよこれは。
不安の塊のような漆黒の空間。
そして綾瀬の周囲には全てを拒絶するかの如く、巨大な半透明の壁が聳え立っている。
ツンと指で触れてみると、明らかな拒絶の意思――激しいスパークが返ってきた。
これが彼女の“不信”の象徴。
…この精神世界には持ち主の思っていること全てが反映される。
つまりこの障壁は、彼女の外界を拒む意思が作り出した、文字通り“拒絶の壁”なのだ。
だがな。俺ほどのレベルとなると他人の精神世界を拡張し、意のままに…そう、マジで好き勝手出来るのだよ。さっきのファミ吉みたいにな。
本来持ち主の意思しか反映される事のない精神世界ですらも、支配権限を奪い取る事で支配する。
それが俺のスキルの一つ、【精神支配】の力だ。
「…なあ、綾瀬。その壁邪魔だからどうにかするぜ?」
「…」
オイオイ目を逸らさないでくれよ。何か俺、不安になっちまうよ。
「……【精神支配】」
俺がそう唱えると、闇を吹き払うようにして周囲の景色が変化した。
―――――ファミマに。
てれたりたらー、てれりたるらー♪
不思議と家族団欒したくなるような、優しくも間の抜けた入店音が耳朶を震わす。
因みに、ファミマとは、全国チェーンの巨大店舗式コンビニ、ファミリーマーケットの略称というか、愛称だ。
「…は? え…?」
目を白黒させながら混乱する綾瀬。
次の瞬間、俺はそれに追撃をかけるような行動に出る!
「まあ、ファミマと言ったらファミ吉だろ。まあ、食えよ」
仕様で店員の制服を着ている俺は、カウンターの向こうから、取り敢えず綾瀬にファミマ名物のファミ吉を渡す。
「あ、ありがと…」
困惑しながらもファミ吉を受け取る綾瀬。間違いねぇ。こやつは状況に対応できておらん。…俺の勝ちだッ!!
「…はむ」
可愛らしくファミ吉を口に含む綾瀬。あれ? 何か可愛い…。
「…少しは落ち着いたか?」
話し掛けてみる。
「……まあね…」
おお。言葉が返ってきたよ。…これが“貴方とコンビニファミリーマーケット”を謳うファミマの魔力なのか…!?
「……誰も信じられないの」
綾瀬が口を開く。そして俯きながら続けて行く。
「……皆、私をどう思っているのかが怖くて…辛くて…」
「……」
「…でもやっぱり自分が一番信じられない。…自分も他人も騙し続けてきた、自分自身が一番嫌い……」
コンビニの床にへたり込む綾瀬は、無言で話を聞く俺に言った。これが彼女の吐露出来る全ての事なのだろう。
よく見れば綾瀬の頬を一筋の涙が伝っている。
泣くほどのものなのだ。
綾瀬は、他人も…自分自身すら信じられない事がとても悲しくて、辛い。
そして、何より、綾瀬は他人の中にいる自分を恐怖している。
俺にもそんな時期があったな…。
異世界で仲間に裏切られて、それから何もかもが信じられなくなった事があったのだ。
俺の経験からして、こういったときは…うーん、何すりゃいいんだ…? さっぱりわかんねぇ。
…まあ、正直にいることが信じる事に繋がる…のか?
「…綾瀬、実は俺にもそんな時があったんだ」
「……え…?」
「…君も知らない位遠い場所に一人っきりでとばされて…。…弱かった俺は、そこで頑張った。…死なないために必死で努力したんだ…。…でもあるとき裏切りにあって、死にかけた。…それから誰も信じられくなったんだ」
「ちょ、ちょっと待って?! 死なないために努力?! 死にかけた?! 訳が分からないわよ?!」
悲鳴のような声を上げる綾瀬。
そりゃあ、行き成りこんなこと言われても困るわな…。
「…同じだと、思う。…いや、君は多分俺よりも強い…」
「…霧式くん……?」
「…自分に嘘をついているのは誰しも同じだ。…こんな俺でさえも、生き残るために自分に嘘をつき続けていたんだ」
「……」
無言の綾瀬。綾瀬は床で膝を抱えたまま俺の話を聞いている。
「…まああれだ! 綾瀬が俺らを信じられなくても、俺ら――Fクラスはずっと綾瀬を信じてる!」
辛気臭い雰囲気になり始めたので、何とか挽回するために大声で言う俺。
そしてそれにはっと顔を上げる綾瀬。…見開かれた目の端には涙の滴があった。
俺は続ける。
「…だからちょっとずつでいい。…絶対に立ち上がれる日が来るから。…信じられる人が現れる時が来るから。…だから。…いつか俺らを信じられるときが来たら、教えてくれ。…それがきっと俺たちのスタートラインになるから」
そうして、一拍置いて言う。
「そうだよな? …怜那」
どうだッ?! この完璧なタイミングでの名前呼び!? これは効くぞ?!
「…………ありがとう…」
綾瀬――いや、怜那が泣き笑いのような表情で顔を上げて言った。
……何故だか自分も、救われた気がした。
――この血に濡れた罪科の手。
俺は、何十人も、何百人も、何千人も斬ってきた。意思をもった――人と全く変わらない、感情を持った魔族の兵士達を。
最後には生き返らせたとはいえ、俺は彼らを一度殺している。それは何があっても赦されざる事であり、俺が贖罪し続けなければいけない“罪”だ。
俺は魔族には憎まれる存在だったのだ。その憎しみは、これからも俺が背負っていかなくてはならない。彼らによる“死”なら俺は、甘んじて受け入れよう。
それが俺の、唯一の償いだから。
ふとした瞬間、綾瀬の胸元が目映い光を発した。
「……マジかよ…」
それが綾瀬のイデアの進化だと気付くのに、俺は数秒もかからなかった。
綾瀬の進化したイデアとは!?
次回に続く!!




