第二十八話「夏だ! クラス対抗戦!~11~」
大変お待たせしやした。最新話でございやす。
綾瀬の胸元が目映い光を発している。
「…マジかよ……」
俺は思わず呟いた。
…これは…。イデアの進化…!!
「…綾瀬、イデア…出せる?」
様子を窺いながら言う。今綾瀬は精神的にナイーブだからな。
「……大丈夫…。出してみる…。…【顕現せよ】」
綾瀬はそう言ってイデアを召喚する。
そして、そこにあったのは―――。
「…凄く綺麗なイデアだな」
俺は呆れるかのように放心しながら呟く。何でFクラスの子は皆、心が綺麗なわけ? 超純真じゃん…。
それに比べて俺は……。
「俺には、綺麗な心が必要だ…」
俺は小声でそう呟きながら綾瀬の手を握り、立ち上がらせると、バンと背中を押した。
「行ってこい。綾瀬なら絶対に勝てる。…俺は“信じてる”ぞ」
そう言って俺は【精神支配】を解除し、【精神干渉】の発動と共に拡張した精神世界を閉じる。
綾瀬は白い光の中で、少しだけ笑って言った。
「当たり前じゃん。…誰に言ってんの? 絶対勝つから…」
そうして、俺も精神世界を後にするのだった。
† † †
(綾瀬視点)
すっと目を開く。
さっき、霧式くんが元気付けてくれた気がする。夢だったのかもしれないけど、今はどちらでもいい。
何か、もう吹っ切れた。
今考えるべきは、どうやって朏島とか言うやつに勝つかだ。
…さっき直感的に理解したのだ。…私のイデアは、確かに進化した。
「う、嘘?! 確かに心を折った!! 何で貴女は動けるのよ?!」
「吹っ切れた。それだけよ……」
立ち上がりながら言う私に悲鳴のような声で叫ぶ朏島。
隣のイデア―【姿鏡】が淡い水色をした粒子を立ち上らせながら幻想的に消えて行く。
そして、やっと私は新たなイデアを召喚する。
「…【顕現せよ】…!」
そして現れる私の心象。
「これが私の心――…【万華鏡】」
人目見て【万華鏡】かと言われれば分からない形をしているが、私には直感的にわかった。
これがイデアの効果や名前と見た目が乖離していても、何を模しているのか分かるという、【イスピ効果】だ…。って、そんなことはどうでもいい。
「貴女に勝つ! 絶対に」
私は、朏島に向かって宣言する。
一度だけ、一度だけだけど。自分を信じてみる。
† † †
「おっ、始まったな」
精神世界から戻ってきた俺は、そう言って開始された綾瀬の戦いを観戦する。
…朏島とやら。一度挫けて立ち上がった者は、強いぞ?
「…ふっ、全く、お前はどんな指導をしたんだ? 心を挫かれてなお立ち上がるなど、普通ではないぞ?」
突然に、ズイと視界の七割を占める勢いで現れた聖岳ちゃんが言う。
思わず、仰け反りながら俺は叫んでしまう。
「のわああああっ?! な、何だ聖岳ちゃんか、ビックリしたぶらはむっっっ?!!!」
「聖岳先生と呼べ。聖岳先生と。…全くいつもお前は…」
取り敢えずといった感じでハリセンで叩かれる俺。
ええやないか、ちゃん付けで呼んだって。聖岳センセ可愛いんやけー。
まあ、その事はあとで脳内会議するとして、さっきから実況が静かだな…。俺が精神世界に飛んでいた間に何かあったのか?
でも、精神世界は時間の影響を受けないし…。
『ぐー……』
『ごー……』
ええぇぇえ?! 何?! あいつら寝てるゥウ?!
え?! 何なの?! ふざけんなよ?! お前ら実況だろ?! 何で寝てんのさ?! ……まあいいや。もうほっとけ。
なんせ観客は綾瀬のイデア変貌に驚愕していてそんなのは気にしていないのだ。
だってパンフレットには綾瀬のイデアが【手鏡】って書いてあったのが、実は【姿鏡】に進化していて、それが試合中に更に進化するんだもんな。
うむ。確かにワケわからんな。みんな心の成長期ってやつか。きっとそうに違いない。
…まあ、あれだ。そんなことよりあのイデアの能力が気になる。
確か、綾瀬は【万華鏡】と呼んでいたか。
イデアというのは、使用者にもよるが、それが何を模した姿なのか直感的に分かる者もいるらしい。これは【イスピ効果】とも呼ばれる現象であり、綾瀬にもそれが働いたのだろう。
「シッッ!!」
動揺していた朏島も、何やら危ない気配を感じたらしく、意識を切り替えて先制攻撃を仕掛ける。
鋭い踏み込み、加速に最適な体勢。
動きからして相当出来るようだ。
洗脳が効かないと判断して接近せんに持ち込む、頭の回転と判断力。そして純粋な戦闘能力も高く評価できる。
これで『相手は全て私の言いなりになるべきなのよぐへへ』みたいなイデア―――即ち、心を持っていなかったらもっといい評価を得られるのに。
一方、鋭い踏み切りで近付いてくる朏島を前に、綾瀬は非常に冷静であった。
光のフラグメントが一点に集中し、それが盾のごとき障壁に変化する。
ブインと独特の振動音(?)を響かせながら展開された障壁は、小さな正六角形の集合した、あたかも蜂の巣のような作りをしている。
「やはり盾か?!」とも思うが、【最上鑑定】を使用した次の瞬間に、俺は凍てついてしまった。
(何だこのチートはぁぁぁぁぁぁぁァア!?!?)
…と、取り敢えず今鑑定した結果をありのまま表示するぜ。
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名称:麗封
形状:万華鏡
材質:k@Mn[3.t~v
能力:ベクトル操作 反射 倍返し 事象屈折
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説明の部分は省略するが、凄まじいチートっぷりだ。
ベクトル操作とか倍返し俺でも迂闊に攻撃できんわ。
故に。
綾瀬に対して近接攻撃は悪手だったな。朏島、お前の負けだよ。
「はああああッッッ!?!」
障壁を全力で殴った朏島のか細い体躯が嘘のように吹っ飛んで行く。
この場合、障壁の効果―――ベクトル操作、反射、倍返しのいずれかを発動させたのだろう。
ただ、ベクトル操作にしろ、反射にしろ、倍返しにしろ、その体躯が吹き飛ぶほどの力を殴るだけで相当の事だ。
恐らく自信の精神に干渉し、洗脳に似た状態に自分を落とすことで、一種の強化状態になっていたのだろう。
だが、その拳の威力は全て自分に返ってきたはずだ。
見れば、朏島の腕はひしゃげてしまっている。それがあのイデア、【万華鏡】の力の一端だ。
「はは…参ったよ。私じゃ貴女に勝てないわ。…ま、次は負けないから」
破壊された右手押さえながらそう言って、降参する朏島。
あの腕の怪我、痛いという概念を通り越した苦痛を彼女に与えるはずだ。
それなのに、脂汗をだらだらとかきながらも余裕そうな態度は崩さない。これはきっと、朏島洗乃という人間のプライドがそうさせているのだろう。
だとしたら彼女また、凄まじい怪物だ。俺の挑戦者に値する才能を秘めているだろう。
「ああ、あいつもSクラスには惜しい人材だなぁ…」…などと、然り気無くSクラスをバカにしながらも、俺は綾瀬に目を向ける。サムズアップしながら。
こちらに気付いた綾瀬は、少しだけ頬を赤らめながらはにかむように笑った。
―――そこには“不信”の壁は一切なく、ただ万華鏡を覗くような、美しく健気で、それでいて芯がすっかり通った強い“心”が見え隠れしていた。
次回、ようやくメインヒロイン(仮)、柊木雪奈ちゃんが登場しまっせ!




