第八話「イデア実技演習場」
ちょいと前に述べた通り、この学園は広い。
「ちょっと、トイレ行ってくるわ~」「おう。行ってこいや」みたいなやり取りの後に行方不明者が出るほどバカでかい学園だ。
しかし、そのお陰でイデアを使って思いっきり暴れるにはまったく問題がない。
そしてその為の施設もある。
―――イデア実技演習場。これまたバカでかい施設で、分館も含めれば学園の四分の一に相当する広さを持っている。
今まで出現したイデアより学園が独自考案したタイプ別けとレベルによって、各自に適した訓練を行うことも可能である。
そして今、俺は最底辺のレベルチーム、『Fクラス』でこのイデア実技演習場にいる。
イデア測定や面接試験を元に得られたデータからクラスの再編を行ったそうで、今後の行動クラスもこの『Fクラス』になるらしい。
俺の実力は聖岳ちゃんからみても間違いなく最強らしいが、イデア化塩基配列が測定では滅茶苦茶な上、そもそも出せもしない筈のイデア(魔剣だけど)を出す俺を正式でない形でSクラスにするわけにはいかない。そこで特待生枠で九割がたSクラス決定だった俺は、Fクラスに見事転落した。
……悪い意味で異例の出来事だってよ。
因みにあのクーデレ娘こと、柊木 雪奈は見事Sクラス。一番上だよ…。
…まあ、勿論Sクラスに行くチャンスはある。
この学園では一年が終わると生徒達の実力に会わせてクラスを完全に変える。つまり、FクラスがSクラスに行く事も理論上は有り得るわけだ。
それより早くSクラスに行きたければ、ちょっとだけハードルは上がるが、今夏のクラス対抗戦でFクラスが『下克上ルール』という制度を使ってFクラスごとSクラスになってしまえばいい。
そして俺のようなバグキャラなら一発でSクラスにのしあがる事が可能だろうし、Fクラスの皆を魔改造すればSクラスになるなぞ簡単なことであろう。
だがッ!
だがッッ!! それでも俺は叫びたい! 叫ばざるを得ない!!!
「何でだよぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!?!」
俺は、イデア実技演習場のド真ん中で叫んだ。
俺の叫びは、風属性魔法【気体操作】によって周囲の大気には届かず、そのまま虚空へと消えていった。
つまり他の人には聞こえていない。
「ふぅ。少しは落ち着いた……。練習するか」
俺は展開していた【気体操作】を解除し、首をコキコキと回す。そして腰のホルダーに手を向けて……。
と、そこへ。
「あ、あの、すいません!」
「ん?」
ナイフらしきイデアを持った背の低い少女が近付いてきた。ロリ体形、ツインテール、非常に高い顔面偏差値……非常に好みな領域だ。
「どうしたの?」
にこやかに俺が訊ねると、彼女は「ナイフの扱い方」を教えて欲しいと言う。
曰く、俺が手慣れた感じでナイフを持っているのを見て、どう使えばいいのか教えてくれると思ったらしい。
確かに今日はナイフ投げの練習をしに来たからな。イデアの練習? そんなものは建前だ。フェイクだ。隠れ蓑だ。イデアを出せない俺がイデアの練習なんぞ出来るわけがなかろう!!
「君のイデアは投げナイフなの?」
少女の手ある何本かのナイフを見て言う。
「え? あ、はい! 一応すごいイデアみたいで、このナイフを幾らでも出す事が出来るんです!」
「充分チートじゃん?! 君何でFクラスにいるのさ?!」
凄むように言う俺に「ひぇっ?!」…となりながら後ざする少女。
俺はそれに「ああ、ごめん。君のイデアが凄かったからついつい…」と謝る。
少女は「えっと、はい」と、前置きしてから自分が何故かFクラスにいるのか語り始める。
曰く、彼女はナイフなど今まで握ったことがないらしく、自分のイデアを知ったときに非常に驚いたらしい。
そして勿論、どう使えばいいのかまったくわからない。
そして面接の時に、イデアを活用出来るかという問いにうまく答えられず、取り合えずお手玉を渡されたのだという。
イデアの投げナイフの代わりにこのお手玉でそれっぽいことをやってみろという事だったらしい。
そしてそれに大失敗した彼女は、「お手玉も出来ねぇのかよ。なら投げナイフなんて夢のまた夢だな」ということで、Sクラス候補からFクラスへ一気に落とされたらしい。
「なにそれ酷ぇな?!?」
つい俺は叫んでしまう。だって、まあ、ね? 俺と似たような境遇の人が目の前にいるわけよ? シンパシー覚えると同時にビックリするよね? ……するよね?
…………。……よし、そのような事は置いといて。
つまりは彼女、投げナイフの扱いを教えて欲しいわけだな?
ならいいだろう。お兄ちゃんマジで頑張っちゃう。
「…俺で良ければ相談には乗るよ。ナイフの扱いにはなれてるし……なッ!」
俺は、言いなが腰のホルダーからナイフを片手に三本ずつで合計六本抜き取ると、何処かのメイド長も驚きのナイフさばきで、空中に放り上げ、瞬時に一本一本キャッチして投げる。
腕がシュバババと謎の風切り音を響かせてナイフをカッ飛ばし、全て二十メートル位離れた的に当てる。
まあ、言ってみれば一種のプロモーションだ。
「まあ、こんな感じかな」
少女の顔を見て言う。ウィンクはしない。俺にそんな気障なキャラは似合わない。
え? 今のままで十分気障?
知らんな。
少女はしばらく呆然としていたが、やがて「…あれ、ここから的こまで二十メートルくらいあるよね?! しかもいまの技何?! 凄すぎるよ?!」と、驚愕を露にする。
が、こんなもの俺から言わせれば初歩中の初歩だ。やろうと思えば最高150本のナイフを投げた上、知覚能力とそれに適応させた肉体でそれを全部投げて百発百中で標的に命中させられる。魔法を使えば時間軸を歪めることで周囲の時間を止め、そこから投げることで、理論上は無限にナイフを投げ続けることが可能だ。
「ま、俺の名前は霧式 碧だ。宜しく。君は?」
「え、ええっと、桐舘 函音と言います! えっと、ナイフの事、宜しくお願いします!!」
「ん。わかった。…じゃあまずは取り合えずそれ投げてみろ」
俺は少女改め、函音ちゃんのイデアを指差して言う。
「ふぇっ?! 私ナイフはダメって言ったじゃないですか?!」
「まあ、いいから取り合えず投げてみて。そこから姿勢なり、投げ方なり修正を開始するから」
「……うぅ…。…わかりました。……いきますよ……、はぁっ?!!」
函音的から四、五メートル離れると、
ナイフの柄を持って思いっきりフルスイングする。
滅茶苦茶なフォームだが、ナイフは回転しながらも真っ直ぐに飛び、的に迫る。
「おお!!」
思わず感嘆の声をあげる俺。
そしてナイフは的につき刺さ………………らず、運が悪く(?)柄の部分が的の木製の縁に当たり、そのまま奇跡的としか形容の仕様がない起動を描いて俺の顔面に迫る。
スローモーションになったような白黒の景色の中、ちらりと横を見ると、片手を口元に押し当てて悲惨な表情をした函音が見える。
俺はなんの動揺もせず組んでいた腕の片手を上げて、実に自然な動きで人差し指と中指を使い、挟んで止める。
「あぶなっ。……あ、函音ちゃん大丈夫ー?
」
「はっ、はわわ……ナイフをっ……指でっ………?!!」
アワアワしだす函音ちゃん。ふっ、俺の技に惚れ惚れするがいい!
「あのっ! ゆ、指! 怪我してないですか?」
「ん? ああ、してないよ?」
……俺の技出はなく怪我の心配っすか…。なんかこの子凄いピュア…。
「俺は大丈夫だからもう一回投げてみて?」
「え? 私、昔っからこんなのなんで危ないですよ!」
「まあまあ。いいから投げてみて?」
「……わかりました。…えいっ!!」
ヒュン!! という風を切る音を響かせながらナイフが飛ぶ。
―――ただし、斜め真上…、丁度俺の直上に。
「あちゃー」
そう言う俺に対し、「避けてくださぁい!!」と叫ぶ函音。いや。普通避けれないから。
まあ、普通は…だけど。
俺は真上を見上げると、そのままの姿勢で、首をくいっと曲げる。その横、顔面スレスレを通過してゆくナイフ。
ナイフはトスッ、と綺麗な音を響かせながら地面に刀身の半ば辺りまでつき刺さる。
「こりゃあ大変そうだな。ナイフ指導」
前途多難だな…と、俺は心中で溜め息を吐いた。




