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第九話「運-500000」




 あの後、函音ちゃんのナイフ投げのフォームとか姿勢を根こそぎ矯正した。

 そのお陰か、投げている姿は最早完璧な投げナイフマスター。

 ところがだ。ところがである。投げている姿勢がいかに最高でも何故か…。何故か! 的にかすりもしない。

 仕舞いにはナイフがブーメランの如く、猛スピードでUターンしながら俺に向かってきたりする始末だ。

 函音ちゃんも何だかうるうるしている。


 これは異世界パワーを使わねばどうにもなりませんな。

 ……くっ。お兄ちゃん、マジで頑張る! ごめん! 函音ちゃん!


 って事で函音ちゃんに取り合えず【最上鑑定】のさらに上、対象のあらゆる情報を無制限に引き出す【無限鑑定】を使う。


 これは本来必要のないような情報も、必要な情報もとにかく、対象の全てを引き出すので、早々使ってはならないシロモノ(スキル)である。

 プライバシー的な意味でもそうだが、勿論こっちにも害がある。


 それが、脳へのダメージだ。俺の脳は魔改造されて、それこそ単体で、スーパーコンピューター並の処理能力がある。フルで使用すればだけど。


 しかし、それでもこの【無限鑑定】の情報量を処理することができないのだ。

 【無限鑑定】は次元を越えてあらゆる情報を集める。【並列思考(メル・クタス)】と【無限叡智】先生の演算機能を活用してようやく情報を処理出来るのだ。


『【無限鑑定】を使用しますか?』


 【無限叡智】先生が脳内で聞いてきたので、俺は速攻で「はい」と答える。

 ……だって函音ちゃんが泣きそうな顔でこっち見てるんだもん…。


(…なっ?!)


 そして俺は洪水のような情報の中で面白いものを発見した。少し頭が痛むが、まあ、大丈夫だろう。


 ―――運:-500000。


 これは函音ちゃんのステータスの情報だ。ステータスの“運”平均値は、5位のもので、この数字は流石に異常だ。


 だが、これから推測するに、どうやらこれのせいでナイフが有り得ない起動を描いてこっちに向かってきていたのかもしれない。

 つまり、全ての出来事はただの“不幸”だった、という訳だ。

 原因らしきものはこれしか見当たらなかったので、俺は取り合えず【無限鑑定】を終了する。


 そして、函音ちゃんの運−500000を何とかする目処が立った。


「函音ちゃん? ちょっといい?」


 黙り込んでいた俺を不安げな表情で見詰めていた函音ちゃんに話しかける。


「ふぇ? 何ですか?」


 ちょっとビックリしたように反応する函音ちゃんに、俺はナイフが投げられないとおぼしき理由をそれっぽく説明する。


 まさか「君の運の数値が−500000なんだー!」なんて言うわけにはいかないしな。



「――って事だからこれをつければ投げられるようになるさ!」


 俺はこっそりスキルの【収納庫(ストレンド)】で別空間から取り出したミスリルを加工して、可愛らしいデザインのネックレスを作ってから、それに【幸運+5000000】を付与する。


 【概念付与】のスキルでアイテムへ特殊な概念を付与した別だけど、勿論タダじゃない。【幸運+5000000】ともなると桁違いの魔力が要求され、殆ど魔力がカラカラになるまで持っていかれてしまった。

 数値にすると、-500000だな。

 ちなみに魔力は数値的に普通の一般人は10あれば御の字だ。


 え? 魔力の数値がバグってて、しかも付与した幸運のゼロの数が元のより多い?


 まあ、魔力についてはあれで五十分の一だから。

 幸運については別に-500000で相殺したところで運はゼロのになるだけだし、どうせならあった方がいいだろ? 運。


「……本当にこのネックレスを着けるだけで上手くなれるんですか…?」


 函音ちゃんが恐る恐る聞いてくる。そりゃまあ、こんな『この水晶像を持っているだけで……』みたいな詐欺紛いの説明をされても信じられないわな。


「うん。そのネックレスがあれば無意識の領域で、重心の姿勢を常時矯正出来るからナイフ投げも何とかなる!!」


 だがしかしッ! ここは押す!! 何とかゴリ押しで着けさせる!!


「えっと、じゃあ……」


 そう言ってネックレスを受け取る函音ちゃん


「……えっと…あの、自分じゃあ上手く着けれないみたいなんで……着けてもらえませんか?」


 しばらく手を後ろにしてモソモソした後に、函音ちゃんがそう言う。

 どうやらネックレスの金具をうまくあわせられないらしい。

 函音ちゃんは身長176.2の俺を見上げながらそう言う形になるため、身長が低い彼女は上目使いで俺を見ており、もうその妹みたいな可愛さから承服せざるを得ない!!


 俺はそう内心で叫びつつも、彼女の背後に回り、俺は金具をくっつけてやる。


「ほい。出来たぞ」


 その場凌ぎで、着けている間しか効果はないが、これでまあナイフ投げの練習をやっと始められる。


「なんかこのネックレスを、羽毛みたいに軽いですけど大丈夫ですか……? 壊れたりしませんか?」


「ん? まあ、大丈夫だよ? それミスリルだし」


「みすりる? トールキンさんの『指輪物語』とかのですか? 実在しない金属ですよね?」


「……え…? ああ、うーんと、そう言う名前の合金なんだ。それ」


 俺はミスリルネックレスを指差しながら誤魔化しの言葉を紡ぐ。

 純粋な函音ちゃんは「そうなんですか! 凄いです!」と、納得してくれたが、それにしてもこんな良い子を騙す罪悪感。函音ちゃんはこんなヤツになっちゃダメだぜ。



 こうして、始まったナイフ訓練。


 俺はとあるスキルを使って投げナイフ指導を始めることにした。


 そして、そのスキルの名は。



 ―――【完全啓蒙】。




次回、主人公が育成チートに手を出します。ほんとに自重しませんね霧式くん。

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