3魔法のある暮らし
# 第二話 魔法のある暮らし
父親から魔法を教わるようになって、しばらくが経った。
少年は相変わらず、父親の教えを一つずつ覚えながら、石を動かす練習を続けていた。
小さな石なら、何度も失敗することなく動かせるようになった。少し大きな石になると、まだうまくいかないこともある。それでも、昨日できなかったことが今日できるようになるのは、少年にとって楽しいことだった。
そんなある日のこと。
屋敷の近くで遊んでいた少年は、近所に住む子供たちと顔を合わせた。
年の近い子供たちとは、以前から何度か遊んだことがある。屋敷の庭で顔を合わせることもあれば、道端で一緒になることもあった。
「なあ、なにしてるんだ?」
少年が小石を動かしていると、そのうちの一人が興味深そうに尋ねた。
「魔法の練習だよ」
「魔法? お前、もう使えるのか?」
「うん。お父さんに教えてもらってるんだ」
少年がそう答えると、子供たちは小石の周りに集まってきた。
「見せてくれよ!」
「いいよ」
少年は父親に教わったとおりに意識を向け、小石を少しだけ浮かせた。
小石は地面から離れ、しばらくすると、ころりと元の場所に落ちた。
「おお!」
「すげえ!」
声を上げる子供たちを見て、少年は少しだけ得意な気持ちになった。
「ぼくもできるぞ!」
そう言って、一人の子供が別の小石に手を伸ばした。
しかし、しばらくしても石は動かなかった。
「……あれ? なんでだよ」
「もう一回やってみれば?」
少年はそう答えたものの、どうすればうまくいくのかを教えられるわけではなかった。
少年自身も、父親に教わった手順を思い出しながら練習しているだけだ。どうしてうまくいくのか、どうして失敗するのか。そのすべてを理解しているわけではない。
ただ、父親に教わったことを思い出して、もう一度試してみる。
それを繰り返しているうちに、少しずつできることが増えていた。
「こうかな……?」
別の子供も小石に向かって集中する。すると、石がほんのわずかに揺れた。
「動いた!」
「ほんとだ!」
その声を聞いて、ほかの子供たちも次々と練習を始めた。
小石を動かそうとする子もいれば、地面の土を少しだけ盛り上げようとする子もいた。うまくいかずに悔しがる子もいれば、わずかな変化に喜ぶ子もいる。
少年も、その輪の中に加わった。
父親から教わった手順を思い出しながら、小石を浮かせる。今度は、落とさないように少しだけ長く浮かせてみた。
「おお、またできた!」
「どうやってるんだ?」
「えっと……お父さんに教えてもらったんだ」
尋ねられても、少年はそう答えることしかできなかった。
自分が教わったことを、そのままやっているだけなのだ。ほかの子供たちに何か特別なことを教えられるほど、魔法を知っているわけではない。
それでも、一緒に練習していると、少し不思議なことに気がついた。
ほかの子供たちは、何度も失敗していた。石が動かなかったり、動いてもすぐに落ちてしまったりする。
一方で、少年は教わったことを思い出せば、何度か試すうちにできることが多かった。
もちろん、少年にも失敗はある。大きな石を動かそうとすれば、うまくいかないこともあった。
それでも、同じように練習しているのに、自分のほうが少し早くできるようになっている気がした。
「……ぼく、ちょっと得意なのかな?」
少年は、小さな声でつぶやいた。
魔法を使える子供が自分以外にどれくらいいるのかも、同じ年頃の子供たちがどれほど練習しているのかも、少年にはよくわからない。
だから、自分が特別なのかどうかはわからなかった。
ただ、今ここにいる子供たちと比べると、少しだけ上手くできる。
それが、少年にわかったことだった。
「なあ、もう一回見せてくれよ!」
「いいよ!」
少年は再び小石に意識を向けた。
小石が地面から浮かび上がる。
それを見て、子供たちが歓声を上げた。
少年は嬉しくなって、何度も同じことを繰り返した。
魔法の練習は、父親と二人でするものだと思っていた。
けれど、こうして同じ年頃の子供たちと一緒に練習するのも、悪くない。
少年はそんなことを思いながら、日が傾くまで子供たちと魔法を練習していた。




