↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら全肯定お姉ちゃんでした 〜不遇な妹を甘やかして最果ての村で幸せに暮らします〜  作者: ランダムアクセス
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/22

第2話 森で拾った女の子は、自分を不吉だと言った

 翌日の午後。

 私は腰に小さなカゴを下げ、鼻歌まじりに村はずれの森へと向かっていた。


「今日は薬草とキノコを摘んで、干し肉と一緒にコトコト煮込んだシチューにしようかしら」


 木漏れ日が揺れる小道を歩いていると、澄んだ森の空気が胸いっぱいに広がる。

 やっぱりこの場所を選んで正解だったわ、なんて思いながら歩みを進めていた――その時だった。


「――おい、この疫病神め!」

「村から出ていけって言ったのが聞こえねえのか!」


 森の入り口、木立の影に隠れるように佇む粗末な掘っ立て小屋の近くから、荒々しい怒声が響いてきた。


(……なにかしら?)


 足を止めて木陰からそっと覗き込むと、そこには数人の老人たちが立っていた。

 村の中でも特に頑固で迷信深い、一部の年長者たちだ。

 彼らは手に小石や木の枝を握りしめ、地面にうずくまる小さな人影に向かって、容赦なくそれを投げつけていたのだ。


「お前がいるから凶暴な魔物が森に近づくんだ!」

「不吉な目で見つめるんじゃねえ! 気味の悪いガキめ!」


 パラパラと乾いた音を立てて、小石が小さな体に当たる。

 少し離れた街道沿いでは、農作業へ向かう途中の村人たちが数人、眉をひそめて足を止めていた。けれど、彼らは困ったような顔で遠巻きに見ているだけで、止めに入る様子はない。関わりたくない、といった雰囲気だった。


 小石を投げつけられているのは、ボロボロの布きれのような服をまとった、小柄な少女だった。

 銀糸のように繊細な髪を泥で汚し、膝を抱えて小さく震えている。

 年齢は十二歳くらいだろうか。折れそうなほど華奢な体だった。


 ――村はずれの掘っ立て小屋に、身寄りをなくした『不吉な子』が追いやられている。

 そういえば、村の中心でそんな噂を小耳に挟んだことがあった。

 けれど、まさかこんな理不尽な扱いを受けているなんて。


「……っ」


 カゴを握る私の指先に、ぎゅっと力がこもる。

 前世の記憶を取り戻してから、私はもう二度と怒ったり焦ったりせず、穏やかに生きようと決めていたはずだった。

 でも――ダメだ。

 あんな小さな子が怯えて泣いているのを前にして、見過ごせるほど私の心は枯れ果てちゃいない。


 ただ、今の私は魔力省エネ中の身。

 それに、相手を痛めつけるような攻撃魔法なんて、私の生活魔術では使えないし、使う気もない。

 でも――『お掃除』なら、話は別だ。


「……ずいぶんと、道端が散らかっているわね?」


 すっと息を吸い込み、私は木陰から優雅に歩み出た。

 そして、手近に落ちていた手頃な木の枝を、まるで愛用の箒のようにスッと構える。


「あらあら、おじいさんたち。道にそんなゴミや小石を散らかしちゃダメじゃない」


「な、なんだお前は……! あ、あいつは、村はずれのイカれた生活魔術師……!」


 老人たちの一人が私の顔を見て、引きつった声を上げた。

 ご名答。でも、イカれてるのはそっちの頭のほうよ。


「公共の通路を汚す不届きなゴミは――綺麗さっぱり掃き清めなきゃね。『生活魔術・強力掃除』!」


 カッと、手にした木の枝から淡い魔力の風が迸る。

 あくまで『掃除』だ。飛んできた小石をホコリとして認識し、老人たちの足元にある泥をチリとして認識する。

 するとどうだろう。


 ザザーーーーーッ!!


 少女に向かって投げられた小石が、まるで目に見えない巨大なハタキに叩かれたかのように、空中で綺麗にパパパッと弾き飛ばされた。

 それだけではない。

 老人たちの足元から巻き起こった猛烈な清浄の突風が、彼らの泥だらけのズボンや靴をゴシゴシと強烈に拭い去り――その勢いで、老人たちはすてーんと見事に尻餅をついた。


「うわあああっ!? な、なんだこの風は!?」

「ズ、ズボンがピカピカに……いや、そうじゃなくて!」

「ひ、ひぃぃっ! やっぱりあの女、頭がおかしいぞ!」


 怪我ひとつ負っていないけれど、全身の汚れを暴力的なまでの洗浄力で剥ぎ取られた老人たちは、真っ青な顔で後ずさりした。


「ふふ、お洋服が綺麗になってよかったわね? 次からゴミをポイ捨てしたら、おじいさんたちごと泡立ててお洗濯しちゃうから、気をつけてね?」


 私が満面の笑顔で木の枝をスチャッと構え直すと、老人たちは悲鳴を上げて跳び起きた。


「お、覚えてろよ! 疫病神にイカれた魔術師め、勝手にしやがれ!」


 捨て台詞を残して、老人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 遠巻きに見ていた村人たちも、「あちゃあ、またクレアさんが突飛なことを……」と苦笑いしながら足早に立ち去っていく。

 ふう、と息を吐いて木の枝を下ろす。

 体内を巡る魔力が少し減ったのを感じた。やっぱり、寝ても覚めても魔力は勝手には戻らない。でも、後悔なんて微塵もなかった。


 私はくるりと振り返り、うずくまったままの少女の元へと歩み寄った。


「大丈夫? 怪我はなかったかしら」


 できる限り優しく、柔らかい声で話しかけながらしゃがみ込む。

 すると、少女はビクッと肩を跳ね上がらせ、泥まみれの腕で必死に顔を覆い隠した。


「こ、来ないで……っ!」


 悲痛な、震える声だった。


「わたしに……近寄っちゃダメ……! 呪われちゃうよ……っ!」

「呪われる? どうして?」

「だって……わたしのこの目は、不吉だから……!」


 少女は拒絶するように首を振りながら、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。


「わたしの目には……見えるの。みんなの心の中にある、黒いモヤが……!」


 震える唇から、切々とこぼれ落ちる告白。

 少女の紫色の瞳――それは、他人の悪意や嘘、拒絶の感情が『黒いモヤ』となって見えてしまう目なのだという。


「みんな、口では優しいことを言ってても……心の中には真っ黒なモヤが渦巻いてるの。『不気味だ』とか、『関わりたくない』って……全部見えちゃうの……! それに、わたしは悪い魔物を引き寄せちゃう体質だから……だから、わたしはここに一人でいなきゃいけないの……っ!」


 泣きじゃくりながら、自分を責め立てる少女。

 これが、村で「不吉な子」と呼ばれ、森の入り口に追いやられていた理由だったのだ。

 人の悪意が見えてしまう目。魔物を呼んでしまう体質。

 どれほど孤独で、どれほど恐ろしかっただろう。信じられる大人が誰一人としていない世界で、たった十二歳の女の子が、どれだけの絶望に耐えてきたのか。


「ねえ」


 私は静かに声をかけた。

 少女は怯えたように、恐る恐る腕の隙間から私を見上げた。

 その瞬間――。


 少女の紫の瞳が、見開かれた。


「……え?」


 少女は呆然と息を呑み、私の顔を凝視した。

 まるで、あり得ないものを見てしまったかのように、その瞳が激しく揺れている。


「な、んで……?」


 少女のか細い呟きがこぼれる。


「黒いモヤが……ない……? 嘘……ひとつも、塵ひとつもない……?」


 少女の目に見えている世界を、私は知る由もない。

 けれど、当然だ。

 私の心の中に、この子への悪意や拒絶なんて、探したって埃ひとつ見つかりはしない。


 だって、目の前にいるのは――。

 泥だらけで、ボロボロで、それでも息を呑むほど透き通った銀髪と、宝石のように綺麗な紫の瞳を持った、奇跡のように愛らしい女の子なのだから。


「呪いなんて、あるわけないでしょう」


 私はにっこりと微笑み、地面に膝をついて、少女の泥だらけの小さな手をそっと包み込んだ。


「こんなに綺麗で可愛い子が、不吉なはずないじゃない。ねえ、あなたのお名前は?」


「……み、ミーシャ……」


「ミーシャちゃんね。とっても素敵なお名前」


 少女――ミーシャちゃんの手は、驚くほど冷たくて、小さかった。

 前世で、繋いであげられなかった妹の手の温もりを思い出す。

 もう二度と、後悔なんてしない。

 目の前で泣いているこの小さな手を、放してなるものか。


「ミーシャちゃん。こんな冷たい地面にいたら風邪を引いちゃうわ」


「え……?」


「私の家、すぐそこなの。あったかいお風呂に入って、美味しいごはんを食べましょ?」


「で、でも……わたし、不吉で……魔物も呼んじゃうのに……っ」


「いいのよ、そんなこと」


 私はぐっとミーシャちゃんの手を握り直し、とびきりの笑顔を向けた。


「誰がなんと言おうと、私があなたを放っておけないんだから。さあ、おうちに帰りましょ!」


 引っ張られた小さな体が、ふらりと私の胸元に飛び込んでくる。

 こうして私は、森で出会った『不吉な子』の手を引いて、夕暮れの我が家へと歩き出したのだった。


読んでくださりありがとうございます!


少しでも「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ページ下部の


・【★★★★★】での評価

・ブックマーク登録


で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回更新も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RANKING
✨ ランキング挑戦中! ✨
ここまでお読みいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思ったら、
ページ下部の
ブックマーク追加 と ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★
で応援していただけると、
作品のランキングが上がって執筆速度が爆上がりします!
※★1個や2個からでも大歓喜します!
皆様の1票が何よりの励みになります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。