21話
…全速力で、走って。
…犬人族の巣まで、来たはいいけどよ…。
…。
…なんだこりゃ…。
…犬人族の巣が、壁に覆われてる。
まるで砦か何かみたいじゃねーの。
こんなモン、前に来た時は無かったぞ…?
…って、そうか。
こりゃ魔法か。
よくよく見りゃ、壁の素材は泥だ。
…それを氷の魔法で凍らせたんだな、所々溶け始めてる。
混合魔法の重ね掛けだな。
…こんな芸当ができるのは、十中八九ヒカゲ青年だろうな。
気になるのは、壁の一部が大きく破損しているって所なんだけど…。
…うぉっ!?
何だっ!?
矢がっ!?
メッチャ矢が飛んでくるんだけどっ!?
『野蛮なリザードマンめ、性懲りもなくまた来たな!!返り討ちにしてくれるっ!!』
あっ!テメェ!!
トイプーちゃんやんけ!!
敵ちげーよ!
俺だよ俺、アギトだよっ!!
『あっ!?違いますわお兄様!!あれはアギト様ですわっ!!』
『何っ!?…何故見分けがつくんだ、俺には全然違いが判らん…。』
パグミナイス!!
…考えてみりゃあリザードマンが攻めてきたって話だったな。
これは俺が迂闊だったわ。
『ああ、アギト様…、必ず来てくれると信じておりましたわ…!』
…近ぇよ!!
あと鼻息が荒いっての!
つーか、それどころじゃ無かった!
…おい、ここで何があったんだ!?
それに、ウチのボスは何処だ!?
『…ヒカゲ様は…。』
『…シャルロッテ、アタシが話すよ。』
お、ババ…。
…酷ぇ怪我だな。
寝てなくて平気なのかよ?
『…なに、命があっただけ有難いこったね。それに、アタシは右利きだからねぇ。』
…大変なとこ悪いんだが、何があったか説明してもらえるか?
『ああ、そのつもりだよ。…今は一刻を争うからね。』
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『…ちょっと待て!犬人族がリザードマンの傘下に入るだと!?そんな話は聞いてないぞ!?』
その提案を聞いて、突然テディが声を荒げおった。
どうも言葉尻に反応して怒っていたみたいだけれど、話の前半部分は理解できなかったみたいだね。
…本人がどうしてもと言うから同席を許したんだけれど、今思えば早計だったねぇ。
『…テディ、話をちゃんと聞いてたのかい?あくまで「形だけ」の話じゃよ。』
『…フルールおばあさんの言う通りだよ。まぁ、これは犬人族の巣に襲撃があった時などに、僕らが加勢する為の口実みたいなものなんだけれど。』
ヒカゲの兄ちゃんはそう言って茶を啜っていたね。
…それにしても、もう何杯目かねぇ?
そんなに気に入ってくれたんなら、帰りに少し包んでやるかね。
『…しかし、本当に良いのかい?リザードマンだって人手不足だって話じゃあないか。』
『うん、そこで提案なんだけど、技術提供や合同訓練なんかしてみませんか?…言っちゃあ何ですが、この巣の変異種はおばあさんだけです。僕は自身が変異してから、ずっと変異の法則性を研究しているもんで、ようやくある程度の真相が分かってきた所なんですよ。』
『…なるほどねぇ。つまりは、先行投資ってヤツかい?』
アタシがそう言うと、兄ちゃんは邪気の無い笑みでこう言ったよ。
『まぁ、ぶっちゃけて言えばそういうコトです。僕達は犬人族が強くなる手助けをする。その代わりに、後に育った戦力は二つの巣で共有する。…共同戦線、とでも言うのかな?アギトだったら何か上手い表現を思いつきそうなんだけど…。』
『…有難い話さ。アタシもあと何年生きるか分からない。正直に言えば、群れの今後を憂えていたのさ。これは、若い連中を育てるのにまたとない機会かもねぇ。』
『いやいや、まだまだ長生きしてもらわないと困りますよ?僕はおばあさんの『呪術』にも興味津々なんですから。』
『…さて、それじゃあ話も大体まとまった所で、希望のあった巣の案内でもしようかねぇ。』
『そうだった、今回は犬人族の家屋もじっくりと見学させてもらえますか?…何せ僕らの巣ときたら、ただの穴なもんで。』
『…フフッ。いくらでも見てっておくれ。』
…ん?なんだい?
…話が長い?
もっとかいつまんで話せって?
五月蝿いねぇ、近頃の若いもんは気が短くって…。
しばらくアタシ等の巣を見て回っていると、突然兄ちゃんが立ち止まったんだ。
…えらく不機嫌そうに、眉間にシワをよせてね。
『…。』
『どうかなさいましたの、ヒカゲ様?』
『…なんだか、良くないモノが来たみたいだ。戦えない犬人族達は家に入って、巣からは絶対に出ないでね?』
そう言って兄ちゃんが杖を掲げる。
すると、犬人族の巣を囲うように地面が隆起し始めたんだ。
『…!?何だコレは!?何がおこっているっ!?』
『ヒ…ヒカゲ様の魔法ですのっ!?こんな大規模な魔法は初めて見ましたわ…!!』
兄ちゃんは、本当にとんでもない魔法を使うんだねぇ。
あの細い体で、リザードマンのボスをやってるのも頷ける話さ。
…これでリザードマンには魔力が無いなんて、とても信じられない話だねぇ。
しばらく身構えていると、遠くから地響きのような音が聞こえてきたんだ。
…その音は、だんだんとこの巣へと近づいてきているようだった。
…そして。
『…来た。』
険しい顔をした兄ちゃんの視線の先を見る。
すると、泥の壁の向こうから、巨大な魔物が顔を出したんだ。
『…うおぉっ!?何だあの生き物はっ!?』
『でけぇ…!』
『えっ…!?あ、アレって…。』
『そっか、シャルロッテちゃんは知ってるよね。前に食べたから。』
その魔物は、アタシも話には聞いたことがあった。
実物を見るのは初めてだったけどねぇ。
『あれは…リザードマンの沼に住む甲殻類じゃあないかい?』
『アギトはザリガニって呼んでるんけど…うん、あれは間違いなくザリガニだね。…全て狩り尽したと思ってたんだけどね…。』
『ギャオオオオオオオオッ!!!!!』
身の毛もよだつような雄たけびに、空気がビリビリと震えていたよ。
そして、その叫び声を合図にしたかのように、大槌にも似た両腕を乱暴に壁へと振り下ろしたんだ。
『ああっ!壁がっ!!』
『大丈夫。ガッチガチに硬めてあるから、あんな攻撃じゃ壊れやしないよ。』
…まるで落石か鉄砲水のような一撃だったんだけどねぇ。
ちょっとリザードマンは基準がおかしくないかい?
『…アレは変異個体なのか?』
『大きさから見て、変異個体だね。でも、なんだか様子がおかしい…。』
そう言って観察するように魔物を見つめる兄ちゃん。
その顔色が、何かを見つけて驚愕に染まった。
ただならぬ表情に、犬人族達も視線の先へと目をやると…。
『…!?何だ!?魔物の頭上に何かいるぞっ!?』
『…なっ!!アレはっ…!!』
「…リザードマン…!!」
今までずっと黙っていた、兄ちゃんの護衛の一人がそう呟いた。
…言葉は分からないが、見ているものは同じさ、言ってる意味も分かるよ。
ザリガニと呼ばれた魔物の頭上に立っていたのは、紛れも無いリザードマンだった。
しかも、その体躯は遠目から見ても分かる程、並みのリザードマンよりも巨大だった。
雨前の曇り空だってのに、異様にギラギラ輝く鱗も特徴的に見えたね。
…あれは間違いなく、変異種だったよ。
「ギャースッ!!ギャギャッ!ギャギャッ!!」
「グギャーッ!!」
護衛のリザードマン達が慌てた様子で何か叫んでいたよ。
流石に意味は理解できなかったけれどね。
…そして、それは起こったんだよ。
突然、爆音とともに、壁の一部が吹き飛んだんだ。
兄ちゃんが太鼓判を押した魔法の壁が、一撃で無残にも。
…みんな意味も分からずに唖然としていたよ。
虚ろな目で杖を構える、目の前のリザードマンにね。
壁を壊したのは、兄ちゃん本人なのさ。
その後の展開は、あっという間だったね。
崩れた壁から進入してきたザリガニと数人のリザードマンによって、護衛のリザードマンは殺されちまった。
アタシ達も奮闘したつもりだが、何分力の差がありすぎた。
…その間、兄ちゃんは微動だにしなかったよ。
最後まで奮闘していた大柄な護衛リザードマンがとうとう膝をつき、ザリガニの腕が頭上に振り下ろされた。
その瞬間、ほんの一瞬だけ兄ちゃんから魔力の流れを感じたよ。
…ザリガニが再び腕を持ち上げた時には、そこには大柄な護衛リザードマンの姿は無かった。
アタシにゃ理解できないけど、兄ちゃんが何かしたのは間違いない。
ザリガニに乗った変異種のリザードマンが、忌々しそうな目で兄ちゃんを睨んでいたが、一声何かを叫んだと思うと仲間のリザードマンを引き連れて何処かへ行ってしまった。
…兄ちゃんは、それについて行ってしまったよ。
残されたのは壊れた壁と、数対のリザードマンの死体。
…それに、傷ついた達犬人族達だけだったさ。
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『…とまぁ、こんな事があったのさ…。』
…。
話が長ぇよババア!!




