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異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件  作者: ベルナルド
エピローグ

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2/15

第一話 異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件

 

 やあやあ、皆さん。

 異世界転生したら、まず何をするべきだと思う?


 時間切れ。


 正解は、魔力があるかの確認だ。

 異世界によっては、魔力が存在しない物語もある。

 ここが重要だ。

 もし魔力がある世界なら、それは大きなアドバンテージになる。

 つまり、まずは検証である。


「すちぇーちゃす」

「――― ルークス?」


 目の前の空間には、ただ天井の景色が広がっているだけだった。

 何も出ない。半透明の板も、数値も、職業も、スキル欄もない。


 俺の声を聞いた女性が、俺の顔を覗き込む。

 どうやら彼女は、俺が自分を呼んだと思ったらしい。

 にこやかに笑ってくれている。

 やめてくれ。中身は成人男性なんだ。

 ウキウキしながら「ステータス」と口にした結果、何も起きず、母親らしき女性に微笑まれる。

 これは心に来る。


「しゅきる。きゃんてい。うー、ない」


 スキルもなし。鑑定もなし。

 少なくとも、言葉に反応して便利機能が開くタイプの世界ではないらしい。

 だが、俺は諦めなかった。


 最後は魔力だ。

 これに関しては、検証する前から期待できた。

 なぜなら、この家には明かりがあったからだ。

 火ではない。油でもない。

 天井から吊るされた石ころのようなものが、ぼんやりと光を放っている。


 正式名称は分からない。けどまあ、物語でよくある魔導具の類だろう。

 つまり、この世界には魔力に近い何かがある。

 俺は自分の身体の内側へ意識を向けた。しかし、何も感じない。

 腹の奥にも、胸の奥にも、指先にも、魔力らしきものはない。

 何度も意識を集中させたが、分かったのは赤子の身体があまりにも自由にならないという現実だけだった。

 そんな調子で、時間だけが過ぎていった。


 ある日、家の扉が開き、大男が入ってきた。


 母らしき女性は、ぱっと表情を輝かせる。大男もまた、不器用そうに笑った。

 二人は何かを話し、抱き合う。言葉はまだ分からない。

 だが、空気で分かる。

 この男は、俺の父親なのだろう。


「―――――」


 母は俺を抱き上げると、大男へ優しく手渡した。


「―――― ルークス」


 何度も呼ばれるその音。


 ルークス。


 おそらく、それが今世での俺の名前だ。

 ルークス。悪くない。むしろ、なかなか主人公っぽい。


 父は俺を抱き上げた。

 その瞬間、俺は思わず身を固くする。

 ガタイが良すぎる。腕が太い。顔も強い。

 少し力を込められただけで、俺の赤子ボディなど一瞬で潰れてしまいそうだ。


 だが、不思議なことに、父に抱かれていると安心した。

 母に抱かれた時の温かさとは違う。胸の奥に、小さな火が灯るような感覚。

 身体の中心が、ぽかぽかと温かい。


 なんだ、これ。


 父と母は久しぶりに会えたのか、その夜、楽しそうに話し込んでいた。

 赤子の俺にできることは、空気を読んで寝たふりをすることくらいだ。

 だが、その間も俺は考えていた。

 父に抱かれた時に感じた、あの温かみの正体について。

 俺はもう一度、身体の内側へ意識を向けた。


 すると、前とは違った。

 身体の中心に、本当に小さな温かみがある。

 これ、魔力じゃないか?

 俺はその温かみを、もっと燃え上がらせようとした。

 無意識に息を止め、集中する。

 だが、温かみは逆に弱くなっていった。


「にゃんれだ?」


 何でだ?


 今度は逆に、大きく息を吸ってみる。

 すると、胸の奥の温かみがわずかに増した。

 なるほど、息だ。空気を吸うことで、何かが身体の中に入ってきている。


 俺は検証を続けた。

 息を吸うと、温かみが増す。息を止めると、温かみが弱まる。

 ならば、限界まで息を吸えば一気に増えるはずだ。

 そう思って、赤子なりに大きく息を吸い込んだ。

 だが、結果は普通に吸った時と大して変わらなかった。


 つまり、ただ空気を吸えばいいわけではないらしい。

 空気中の何かを取り込み、身体の中で別の力に変える。

 その変換には、俺の身体のどこかが関わっている。


 肺か、心臓か。それとも、この世界特有の器官か。

 まだ分からない。

 だが、仮に名前をつけるなら、魔力炉。

 空気中の何かを取り込み、俺の身体で扱える力に変える炉。


 もちろん、これは俺の勝手な仮説だ。

 正しいかどうかは分からない。

 だが、もし本当にそんな器官があるなら、鍛えられるかもしれない。


 筋肉ではなくても、使えば慣れる。

 呼吸だって、訓練すれば深くなる。

 肺活量だって鍛えられる。

 だったら、魔力を生み出す器官だって、使い続ければ強くなる可能性がある。

 つまり、子供の頃から魔力を鍛えて、同世代最強。


 きたぞ。俺の時代がきた。

 ステータスもスキルも鑑定もない。

 だが、魔力はある。


 しかも俺は赤子の時点でその存在に気づいた。

 これは明らかなアドバンテージだ。異世界無双してやるぜ。

 ガハハハ。


「―――――」


 ドヤ顔を決めていると、母が笑顔で俺の頭を撫でてきた。

 解せぬ。

 俺は今、未来の大魔術師として重大な発見をしたところなのだ。

 そんな温かい目で見ないでほしい。


 分かりやすいぐらい。この時の俺は、完全に調子に乗っていた。

 何せ、異世界に転生したのだ。

 前世ではただの大学生だった俺が、憧れだった物語の主人公になれる。

 そう信じていた。

 だが、現実はそう簡単ではなかった。


 なぜなら、この世界はすでに、俺が夢見た異世界ではなくなっていたのだから。


         ◇

 あれから、半年の月日が経った。


 父さんや母さんが毎日のように話しかけてくれた。

 おかげで、俺は少しずつこの世界の言葉を理解できるようになっていた。

 もちろん、日本語ではない。最初はかなり苦労した。

 だが、そこは赤子の柔らかい脳みそに感謝である。

 前世の俺だったら、半年で知らない言語を聞き取るなんて絶対に無理だった。


 それで分かったことがある。

 どうやら、この世界の数え方は日本とほとんど同じらしい。

 一、二、三に相当する言葉があり、十、百、千の区切りも分かりやすい。

 つくづくありがたい限りだ。

 そして何より、俺はようやく移動手段を確保した。


 ハイハイである。


 いや、馬鹿にしてはいけない。赤子にとって、ハイハイとは革命だ。

 これまで天井と母さんの顔くらいしか見えなかった俺に、ついに世界探索の自由が与えられたのだから。


「あ、ルークス。ダメよ」

「まだ危ないわ」


 ……まあ、今日もすぐに捕まったのだが。


 なぜだか分からないが、脱走しても母さんにはすぐにバレる。

 親の勘なのか。それとも、赤子の移動音が思った以上にうるさいのか。

 どちらにせよ、俺の探索活動は毎回数分で終了する。


 だが、それでもある程度の情報収集はできた。

 まず、この家は木造の一階建てだ。部屋はおそらく三つ。

 父さんと母さんの寝室、俺のための小さな部屋、そして食事や作業をするための広い部屋。


 日本で言うなら、田舎にありそうな素朴な家だ。

 貴族の屋敷という感じはまったくない。

 少なくとも、俺は平民の家に生まれたらしい。

 まあ、異世界転生でいきなり貴族じゃないのは少し残念だ。

 だが、平民スタートも王道と言えば王道である。

 むしろ、ここから成り上がる余地があると思えば悪くない。


 それから、もう一つ分かったことがある。


 父さんは、どう見ても普通の人間ではない。

 父さんは毎朝、日が昇る前から庭に出て身体を鍛えている。

 最初はただの筋トレだと思っていた。

 だが、違った。


 鉄の重りを背負いながら、木剣を振る。

 それも、軽々と。

 木剣とは言ったが、あれは俺の知っている木剣ではない。

 太い。重そう。普通なら振るどころか、持ち上げるだけで腰をやりそうな代物。

 それを父さんは、ぶん、ぶん、と空気を裂くように振っている。


 いや、待て。あれはもうトレーニングではない。

 アニメでしか見たことがない修行風景だ。


 俺は赤子ながらに悟った。

 あれは無理だ。少なくとも、今の俺が真似したら一発で死ぬ。

 そんなわけで、ここ最近の俺は、ハイハイで脱走しては母さんに捕まり、父さんの人間離れした鍛錬を眺める日々を送っていた。


 そんなある日の夜


「ねぇ、ルークス」

「今日はこの絵本を読んであげるね」

「あい」


 まだ話すことはうまくできない。

 だが、聞き取れる単語は増えている。


 母の名はミリア。

 父の名はガレン。


 二人が互いの名前を呼び合っていたので、自然と覚えた。

 俺の名前は、やはりルークスで間違いないらしい。

 ミリアは優しく微笑むと、一冊の絵本を開いた。


「アレス伝記」


 その題名を聞いた時、俺は特に何も思わなかった。

 きっと、この世界の偉人の話なのだろう。

 桃太郎や金太郎のようなものかもしれない。

 ミリアは、ゆっくりと読み始めた。


「昔々、この世界には、魔王と呼ばれる悪い悪い王様がいました」


 魔王だ、来た来た。

 やはりこの世界には魔王がいるらしい。


「世界は、魔王に奪われてしまいそうになりました」


 王道だ。とても王道だ。

 こういうのがいいんだよ


「そんな時、ひとりの勇者が立ち上がりました。彼の名はゼイン」


 勇者ゼイン。なるほど、この世界にも勇者がいるのか。

 俺が勇者の生まれ変わりだったりする展開も、まだ可能性としてはある。


「けれど、勇者だけでは魔王の侵略を止めきることはできませんでした」


 おや。


「勇者ゼインと共に魔王へ立ち向かった、もうひとりの英雄がいました」


 ミリアの声が、少し誇らしげになる。


「我らが英雄。人類の守護神。アレス・ジョーンズ様です」


 アレス・ジョーンズ。聞き慣れない名前だ。

 だが、母の声色からして、この世界ではかなり有名な人物なのだろう。


「アレス様は、魔族から人類を守っただけではありません」


 ミリアは、絵本を閉じると、天井を指さした。


「様々な便利な発明によって、世界に明かりを灯してくださいました」


 天井には、あの石ころのような明かりがある。

 俺が魔石ランプか何かだと思っていたものだ。


「この家を照らしている電球も、守護神様が広めてくださったものなのよ」

「他にも、ここは田舎だからないけど王国だったら魔導列車だったり、王国名物のカレーも最高よ」


 電球、列車、カレー。

 俺の思考が止まった。

 今、なんて言った?


「あい?」

「ふふ。ルークス、気になるの?」


 ミリアは優しく笑う。


「あれは電球よ。夜でも安全に過ごせるように、守護神様が広めてくださったの」


 電球。電球だと?

 俺はゆっくりと天井を見上げた。


 そこにあるのは、地球で見たガラスの電球そのものではない。

 石のような、結晶のような、異世界らしい明かりだ。

 だが、母はそれを当たり前のように電球と呼んだ。

 しかも、広めたのはアレス・ジョーンズ。


 人類の守護神。

 便利な発明。

 電球に、列車に、カレー。


 おいおい、嘘だろ。それ、絶対に転生者だろ。

 俺は必死に頭を回転させる。

 この世界には魔王がいた。勇者がいた。

 そして、その勇者と共に戦った人類の守護神、アレス・ジ ョーンズがいた。

 そいつは様々な便利な発明を広めた。


 夜を照らす電球。人や荷物を遠くまで運ぶ魔導列車。

 そして、王国名物として定着しているカレー。

 ……いや、最後だけ方向性が変だが、そこはどうでもいい。

 重要なのは、どれも俺が異世界でやりたかったことだということだ。


 つまり。俺が異世界転生でやりたかったこと。

 現代知識で周囲を驚かせること。

 便利な道具を作って世界を変えること。

 知識チートで無双すること。

 それらはすでに、誰かがやった後なのだ。


 嘘だろ。そんなの、あんまりだろ。


 俺は異世界に来た。間違いなく来た。

 魔力らしきものもある。勇者も魔王もいる。

 物語の舞台としては完璧だ。

 なのに。俺が主人公になるための道は、すでに前の転生者によって踏み荒らされていた。


「あう」


 あまりの衝撃に、俺はそのまま意識を手放した。

 拝啓、地球にいる母さん、父さん。

 どうやら俺は、ダメかもしれません。

 せっかく異世界転生したのに。


 この世界ではもう、前の転生者がすべてやり尽くしていました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

衝撃の事実!ルークスはどう動くのか。気になる続きは明日!

冗談はさておき、更新はエピローグが終わるまでは一日二回 朝8時と昼の12時となっています。今回は特別に昼の12時にもう一度更新します!

それ以降はおそらく、一日一回の朝8時更新になると思います。できるだけ皆さんに待ち時間を作りたくないので毎日更新を目指してやっていきます。

特に印象に残った場面や台詞がありましたら、一言だけでも感想をいただけると、とても励みになります。


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