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異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件  作者: ベルナルド
エピローグ

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第十話 咲き乱れる木々


 「いいか、クソガキども」


 ジャンの修行は、その一言から始まった。


「てめぇら、魔力の使い方がゴミだ」

「初手からひどすぎるだろ」

「事実だろうが」


 ジャンは悪びれもせず、鼻で笑った。

 森の外れ。町から少し離れた開けた場所に、俺とレンは立たされていた。

 春の風が吹くたび、木々の枝先から若葉が揺れる。

 少し前まで冬の名残を残していた森は、今ではゆっくりと色を取り戻し始めていた。

 その中で、ジャンだけは相変わらずだった。

 

「まず、魔力ってのは二種類ある」

「二種類?」

「空気に漂っている魔力。こいつを魔粒子(まりゅうし)という。んで、それを体の中で使えるように変えたものが魔想(まそう)だ」

「なるほど」

「おっと。この国じゃ、マナとマナスだったか? まあ、呼び方なんざどうでもいい」


 ジャンは面倒くさそうに手を振った。


「大事なのは、外にあるもんと、自分の中にあるもんを分けて考えることだ」


 今までは一括りに魔力と呼んでいたが、違いがあったようだ。

 魔粒子(まりゅうし)はそのままでは使えず、体内で自分用にチューニングする必要があるのか

 俺が今まで無意識にやっていた訓練は、どうやら完全に間違いではなかったらしい。

 横を見ると、レンは腕を組んだまま固まっていた。

 たぶん半分くらいしか理解していない。


「おい、魔力の多いクソガキ」

「ルークスだ」

「あん? てめぇ、初代勇者様かよ」

「違うけど、名前はルークスだ」

「なら、ルークでいいな」

「よくない」

「よし、ルーク」

「こいつ、レンと同じタイプかよ……」


 人の話をまったく聞かない。

 まるでレンの矢さぐれたバージョンだな。

 ジャンはにやにやしながら、俺の方へ顎をしゃくった。


「お前、この前の模擬戦で気づいてただろ。俺がお前らの動きを読んでいた理由に」

「あれか」


 模擬戦では俺とレンの攻撃は、ほとんど通じなかった。

 真正面から仕掛けても、横から回り込んでも、死角を突こうとしても、ジャンは見てもいないのに避けた。


「あんた、俺たちの魔想(まそう)の流れを見てたんだろ」

「惜しいな」

「違うのか?」

「俺は言ったはずだ。魔力には二種類あるってな」


 俺のやった魔想円(まそうえん)は自分の魔力で満たすことで違和感を感じれていた

 でも父さんも、ジャンも、俺が魔想を身体の外に広げなくても、俺の動きに反応していた。

 なら、俺がやっていた魔想円とは違う。

 自分の魔想で周囲を満たすのではなく、もともと空気中にある魔粒子を使っている?

 でも、そんなことができるのか。


「分かんねぇ顔してんな」

「うるさい」

「あ! 俺、たまにジャンの気配を感じてたぞ!」


 横からレンが声を上げた。

 ジャンが片眉を上げる。


「ほう。筋肉馬鹿の方が先に気づいてたか」

「俺の名前はレンだ!」

「そうかそうか。レン、正解だ」

「よっしゃ!」

「待て。どういうことだよ」


 俺が聞くと、ジャンは口の端を吊り上げた。


「感じてみろ」


 その瞬間。

 ほんの一瞬だけ、空気が揺れた。ジャンの魔想だ。

 だが、すぐに消える。いや、違う。消えたのではない。

 空気に溶けたのだ。周囲の魔粒子に、ほんの少しだけジャンの魔想が混ざった。

 あまりにも薄い。普通なら気づけない。けれど、確かにそこにある。


「……なるほど」


 俺は息を呑んだ。

 俺の魔想円は、自分の魔想を周囲にばらまく技だ。

 だから、範囲内にあるものを感じ取れる。

 だが同時に、俺自身がどこにいるかも丸わかりになる。

 自分の匂いを派手に撒き散らしながら敵を探しているようなものだ。


 でも、ジャンの技は違う。空気中の魔粒子に、気づかれない程度の魔想を混ぜる。

 それによって、一方的に相手を感知する。


「この技を、流想(りゅうそう)。またの名をフロウと呼ばれている」

「フロウ……」

「ルーク。お前がやっていた荒業を、実戦用に削ったものだ」

「荒業って」

「事実だろうが。あんなに魔想をばらまいてたら、俺はここにいますって叫んでるのと同じだ」

「ぐっ」


 否定できない。魔想円を使うと、相手の動きは分かる。だが、相手にも俺の魔想が伝わる。

 便利ではある。けれど、実戦では危うい。

 俺は自分で技を作ったつもりだった。

 でも、この世界にはその先があった。

 悔しい。けれど、不思議と嫌ではなかった。

 俺の考えは、完全に間違っていたわけじゃない。

 ただ、まだ粗いだけだ。


「だが、いいぜ。お前らは面白い」


 ジャンは俺とレンを交互に見た。


「考えるクソガキと、感じるクソガキか」

「俺はレンだ!」

「俺もルークスだ!」

「うるせぇな。名前なんざ強くなってから主張しろ」


 ひどい理屈だった。


「まあ、フロウはまだ早い。その前に教える技がある」

「魔術か!」


 レンが目を輝かせる。


「違ぇよ。そいつは俺の専門外だ」

「ちぇっ」

「まずは、こいつだ」


 ジャンの身体から魔想がにじみ出る。

 だが、それは俺の魔想円のように周囲へ広がらなかった。

 皮膚にぴたりと張りつく。

 薄い膜のように。見えない鎧のように。ジャンが手招きする。


「触ってみろ」


 俺とレンはおそるおそるジャンの腕に触れた。


「硬っ」

「なんだこれ!」


 人の腕とは思えなかった。

 皮膚の上に、もう一枚硬い殻がある。

 けれど、金属のような冷たさはない。


 これは魔想だ。魔想が、身体にぴったり張りついている。


「これがオーラだ」


 ジャンは当然のように言った。


「自分の魔想で身体を覆う。基礎中の基礎だ。こいつを極めることが、強くなる第一歩になる」

「身体強化とは違うのか?」

「違う。身体強化は中を強くする。オーラは外を覆う。筋肉を強くするのと、鎧を着るのは違うだろうが」

「なるほど」

「お前は考えすぎる。レンは考えなさすぎる。足して二で割れ」

「無理だろ」

「俺は考えてるぞ!」

「それが考えてねぇ証拠だ」


 レンは不満げに頬を膨らませた。こうして、俺たちの修行は始まった。

 とはいえ、ジャンが毎日教えてくれるわけではない。


 あの男は一か月に一度、町へ来る。

 そのたびに俺たちと模擬戦をし、前よりマシになっているかを確認する。

 間違っていれば、口汚く指摘する。正しければ、鼻で笑って終わる。

 褒めることはほとんどない。


 本当にやる気があるのか怪しい。けれど、その一言一言は的確だった。

 俺たちは、オーラの練習を始めた。魔想を身体の外へ出す。

 だが、広げすぎてはいけない。


 皮膚に沿わせる。合わせた魔想を離さない。

 そして魔想で覆うことで内部の魔想を盛らさない

 言葉にすると簡単だ。

 実際は、ひどく難しかった。

 俺は魔想を流すことは得意だ。


 足へ流す、腕へ流す、木剣へ流す。

 それならできるけれど、覆うとなると話が変わる。

 魔想はすぐに広がろうとする。 空気に溶けようとする。

 身体から離れていく。

 それを無理やり肌に張りつけるのは、濡れた布を風の中で身体に巻きつけ続けるような感覚だった。


「くそ……また剥がれた」


 俺が悪戦苦闘している横で、レンは木剣を振っていた。

 何も考えていないように見える。

 けれど、木剣を振るたびに、身体を覆う魔想が少しずつ安定していく。

 レンは感覚で掴んでいた。俺が考えて、試して、失敗して、また考えている横で。

 レンは、身体で覚えていく。

 それが少しだけ悔しかった。いや、少しではない。かなり悔しかった。


 それから半年が経った。

 春に咲いた花は散り、夏の陽射しが森を濃い緑に染め、やがて陽木の葉が赤くなり始めた。

 俺たちは七歳になっていた。身体も少し大きくなった。木剣も前より長いものに変わった。

 そして、その頃から。


 俺の勝率は、止まり始めた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


簡単解説

オーラ/流纏 魔想で自身を覆うことで肉体の強度を上げる

主人公のはオーラではなく、全方位に魔想を撒いているだけ、それを自身の肉体にピッタリくっつけて覆うのがオーラ。このオーラは鍛錬次第では性質ごと変えれる


フロウ/流想 

自分の魔想を空気中の魔粒子に薄く混ぜる


説明されていないけど存在する技術

サイト/流視 魔粒子を感知する技

しかし、魔粒子を自然に感じると言うよりかは目を凝らすことで見るスナイパー的な攻撃や偵察技。


センス/流水 上級者が扱う技で、魔粒子を戦闘中に自然に感じ取れる。そのかわり使い続けると上級者でも疲れる。


前の熊をジャンが射抜いたのはサイトを使っていました。

特に印象に残った場面や台詞がありましたら、一言だけでも感想をいただけると、とても励みになります。

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