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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第八話 戦わずして勝つ

「二千……」


評定の間に重苦しい沈黙が落ちていた。


黒峰軍二千。


対する相良軍は三百。


単純計算でも六倍以上の戦力差がある。


しかも相手は黒峰宗景。


周辺諸国でも名の知れた名将だった。


勝てる要素などどこにもない。


「若様」


源左衛門が低い声で言う。


「籠城の準備を」


「いや」


悠真は首を振った。


「まだ戦になったわけじゃない」


重臣たちが顔を見合わせる。


確かに黒峰軍は国境付近に集結している。


だが侵攻したわけではない。


「演習か」


岩倉が呟く。


「おそらくな」


悠真は地図を見る。


黒峰宗景は馬鹿ではない。


相良領が改革を始めたからといって、いきなり攻める理由はない。


むしろ様子見。


圧力。


牽制。


その可能性が高い。


「つまり試されている」


「試される?」


「俺たちがどう動くかだ」


悠真は苦笑した。


前世でもこういう話はあった。


新興企業が成長すると大企業が牽制する。


価格競争。


圧力。


買収。


やり方は違っても本質は同じだ。


「なら慌てる必要はない」


「しかし若様」


山内が顔を曇らせる。


「領民が不安がります」


それは事実だった。


戦の噂はすぐ広がる。


農民は逃げる。


商人は荷を止める。


せっかく回り始めた経済が止まってしまう。


「だから先に動く」


悠真は立ち上がった。


「城下へ行くぞ」


◇◇◇


その日の昼。


城下の広場には大勢の領民が集まっていた。


農民。


職人。


商人。


子供たち。


誰もが不安そうな顔をしている。


黒峰軍二千集結。


その噂は既に広まっていた。


「若様だ!」


誰かが叫ぶ。


人々の視線が集まる。


悠真は壇上へ上がった。


深呼吸する。


会社員時代にも人前で話した経験はある。


だが数百人を前にするのは初めてだった。


「皆、聞いてくれ」


ざわめきが止まる。


「黒峰軍が国境へ集まった」


人々の顔が曇る。


当然だ。


誰も戦などしたくない。


「だが安心してほしい」


悠真は続けた。


「相良家は戦を望まない」


静かな声だった。


しかし不思議とよく通った。


「お前たちは畑を耕せ」


「商人は商売を続けろ」


「職人は仕事を続けろ」


そして笑った。


「面倒事は俺たちの仕事だ」


一瞬の静寂。


やがて誰かが笑った。


それが広がる。


少しだけ空気が軽くなった。


「若様なら大丈夫だ」


そんな声まで聞こえてくる。


悠真は内心で苦笑した。


期待されている。


以前では考えられないことだった。


◇◇◇


翌日。


相良城へ一人の使者が訪れた。


黒峰家の家紋を掲げた騎馬武者である。


評定の間へ通されると、男は堂々と頭を上げた。


「黒峰家当主、黒峰宗景様より書状を預かっております」


「読め」


書状が広げられる。


源左衛門が内容を確認し、顔をしかめた。


「若様……」


「何と書いてある」


源左衛門は読み上げる。


「近頃、相良領に不穏な動きあり」


「その真意を問う」


「ついては両家の友好のため、相良家当主は黒峰城へ出向かれたし」


評定の間が静まり返った。


事実上の呼び出しだった。


断れば敵対。


行けば圧力。


どちらにしても厄介である。


「どうされますか」


岩倉が尋ねる。


「行く」


即答だった。


「若様!」


源左衛門が立ち上がる。


「危険です!」


「知っている」


「ならば!」


「だからこそ行く」


悠真は笑った。


黒峰宗景が見たいのは相良家の当主。


逃げれば弱いと判断される。


なら答えは一つだった。


「会ってくる」


「しかし護衛は」


「連れて行く」


岩倉と数十名。


それで十分だ。


戦うためではない。


交渉するためだ。


◇◇◇


数日後。


黒峰城。


巨大だった。


相良城とは比べ物にならない。


城下町も活気に満ちている。


人口も多い。


軍勢も強い。


まさに大国だった。


「これが十五万石か……」


悠真は小さく呟く。


岩倉が苦い顔をした。


「勝てる気がしませんな」


「戦わなければいい」


悠真は笑う。


そして案内された大広間へ足を踏み入れた。


上座には一人の男が座っていた。


黒峰宗景。


鋭い目。


堂々とした体躯。


まさしく戦国大名だった。


「初めまして」


悠真は一礼する。


宗景は静かに見つめた。


しばらく沈黙。


やがて口元がわずかに上がる。


「なるほど」


低い声だった。


「確かに面白い若造だ」


その一言で空気が張り詰める。


戦国の猛虎。


黒峰宗景。


そして転生者・相良悠真。


乱世を変える二人の男が、ついに相対した。


だがこの時、まだ誰も知らなかった。


この会談が戦ではなく――。


後に歴史を変える巨大な同盟の始まりになることを。

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