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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第七話 金の流れ

「交易路、ですか」


悠真は源兵衛の差し出した地図へ目を落とした。


評定の間には源左衛門と勘定奉行の山内も呼ばれている。


机の上に広げられた地図には、相良領を中心とした周辺諸国の街道が描かれていた。


源兵衛は商人らしい笑みを浮かべる。


「はい」


「現在、南の港から北方へ向かう荷は黒峰領を通ります」


「知っている」


「ですが遠回りなのです」


悠真は地図を見た。


確かにそうだった。


黒峰領経由は安全だが距離が長い。


そのため輸送費も高くなる。


「つまり?」


「相良領を通る方が近いのです」


源兵衛の指が地図をなぞる。


南の港町。


そこから相良領。


そして北部諸国。


一直線だった。


「街道さえ整えば三日ほど短縮できます」


評定の間が静まり返る。


三日。


輸送業にとっては大きい。


それだけ利益が増える。


「問題は治安です」


源兵衛が言った。


「盗賊が出る」


「道も悪い」


「だから誰も使わない」


悠真は腕を組んだ。


なるほど。


話が見えてきた。


「だが道が整い、盗賊も減れば」


「商人が集まります」


源兵衛は即答した。


「人が集まり」


「物が集まり」


「金が集まる」


それはまさしく経済の基本だった。


前世で嫌というほど聞いた話である。


「面白いな」


悠真は笑った。


源左衛門たちは何が面白いのか分からない顔をしている。


だが悠真には価値が分かる。


これは単なる街道整備ではない。


相良領を物流拠点にする計画だ。


成功すれば税収が一気に増える。


「若様」


山内が慎重に口を開く。


「実現は可能なのでしょうか」


「可能だ」


悠真は即答した。


「むしろやるべきだ」


問題は資金。


だがその答えも考えていた。


「源兵衛」


「はい」


「お前たちはいくら出せる」


商人は笑った。


その質問を待っていたらしい。


「まず五百両」


源左衛門が吹き出した。


「ご、五百!?」


小勢力にとっては大金だった。


商人は続ける。


「完成後の通行権をいただけるなら、さらに増やせます」


悠真は思わず笑った。


完全に投資家である。


未来へ金を入れる。


そして利益を回収する。


前世では当たり前。


この時代では珍しい。


「良いだろう」


即決だった。


源左衛門が驚く。


「若様!?」


「利益が出るなら問題ない」


「しかし!」


「金を眠らせる方が損だ」


源左衛門は頭を抱えた。


最近の若様は理解が追いつかない。


だが結果は出している。


だから反対できない。


「契約成立ですね」


源兵衛が笑う。


「成立だ」


二人は手を合わせた。


武士と商人。


本来なら距離のある存在だった。


だが今の相良領では違う。


互いに利益がある。


それで十分だった。


◇◇◇


数日後。


南街道。


工事は本格化していた。


農民。


元盗賊。


職人。


総勢八百人。


相良領史上最大規模の土木工事だった。


「若様!」


岩倉が駆け寄る。


「どうした」


「橋が完成しました!」


悠真は川岸へ向かった。


そこには新しい木橋が架かっていた。


以前は渡し舟しかなかった場所だ。


これだけでも物流効率は大きく変わる。


「上出来だ」


職人たちが笑う。


誇らしげだった。


自分たちが作った橋。


自分たちの未来を繋ぐ橋。


その実感があった。


「飯の時間だ!」


誰かが叫ぶ。


途端に歓声が上がる。


大鍋で作られた雑炊。


配られる塩漬け肉。


そして米。


以前では考えられない光景だった。


元盗賊の大男――弥助もそこにいた。


「若様」


「どうした」


「本当に食わせてくれるんだな」


悠真は苦笑する。


何度目だろう。


この質問。


「約束しただろ」


弥助は黙った。


そして頭を下げる。


盗賊だった男が。


領主へ。


「ありがとう」


小さな声だった。


だが確かな本音だった。


悠真は何も言わなかった。


ただ肩を叩く。


それだけで十分だった。


◇◇◇


一方その頃。


黒峰城。


宗景の元へ新たな報告が届いていた。


「交易路?」


「はっ」


忍びが答える。


「相良領を通る新街道の建設が進んでおります」


宗景の目が細くなる。


「誰が金を出した」


「南方商人たちです」


沈黙。


家臣たちはまだ危機感が薄い。


だが宗景だけは違った。


理解していた。


「商人が動いたか」


それは重要だった。


商人は利益の匂いに敏感だ。


無価値な土地へ金は出さない。


つまり。


相良領に価値を見出したということ。


「面白い」


宗景は笑った。


だがその目は笑っていない。


猛獣の目だった。


「義隆」


「はっ」


嫡男が前へ出る。


「兵を動かせ」


家臣たちが驚く。


「父上!?」


「戦ですか!」


宗景は首を振った。


「違う」


そして静かに言った。


「国境で演習を始めろ」


義隆は理解した。


威圧だ。


脅しだ。


相良領へ圧力をかける。


「相良の若造がどう動くか見てみたい」


宗景は笑う。


弱者は追い詰められると本性を現す。


果たして相良悠真はどちらか。


英雄か。


凡人か。


それを確かめる時が来た。


◇◇◇


その翌朝。


相良領北部。


見張りの兵が青ざめた顔で城へ駆け込んだ。


「大変です!」


評定の間へ飛び込む。


「黒峰軍です!」


空気が凍った。


「何だと」


「国境付近に二千!」


「二千の兵が集結しております!」


重臣たちの顔から血の気が引く。


相良家の総兵力は三百。


二千など勝負にもならない。


評定の間が騒然となる。


だが。


上座に座る悠真だけは静かだった。


「なるほど」


予想より早かった。


しかし予想外ではない。


弱小勢力が成長すれば、大国は必ず反応する。


歴史が証明している。


「若様……」


源左衛門の声は震えていた。


悠真は静かに立ち上がる。


そして笑った。


「どうやら」


評定の間を見渡す。


「最初の大勝負らしいな」


その言葉に誰も返事ができなかった。


戦国乱世。


相良家最大の危機が迫っていた。

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