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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第六話 黒峰の虎

盗賊討伐から三日後。


相良領はちょっとした騒ぎになっていた。


理由は簡単だった。


捕らえた盗賊を処刑しなかったからである。


戦国の世では珍しいどころか異常だった。


盗賊は見せしめに首を刎ねる。


それが常識。


だが悠真は違った。


彼らを用水路工事へ回した。


食事を与えた。


働けば報酬も出した。


結果――。


「若様!」


城下を歩いていた悠真へ声が飛ぶ。


振り返ると、先日襲われた北村の村長だった。


「どうした」


「ありがとうございました!」


老人は深々と頭を下げた。


周囲の村人たちも続く。


「本当に助かりました」


「倉を襲われた時は終わりかと思いました」


「若様が来てくれなければ……」


悠真は少し困った。


前世では感謝されることに慣れていない。


むしろ怒られる方が多かった。


「礼なら兵たちに言ってやってくれ」


「もちろんです」


村人たちは笑う。


その笑顔を見て、悠真も少しだけ笑った。


そんな様子を遠くから見ている男がいた。


黒装束。


旅人の格好をしている。


だが、その目は鋭い。


黒峰家の忍びだった。


「なるほどな」


男は呟く。


領民の表情。


市場の活気。


修復されていく街道。


どれも報告通りだった。


「放蕩息子、か」


とてもそうは見えない。


忍びは静かに踵を返した。


報告するべきだ。


早急に。


◇◇◇


北方。


黒峰城。


周辺一帯を支配する大勢力である。


石高十五万石。


兵力三千。


相良家とは比較にもならない。


天守最上階。


そこに一人の男が座っていた。


黒峰宗景。


四十五歳。


周辺諸国から《黒峰の虎》と恐れられる戦国大名だった。


「戻ったか」


宗景が言う。


忍びが膝をついた。


「はっ」


「報告しろ」


静かな声。


だが逆らえない圧があった。


忍びは頭を下げる。


「相良領ですが、予想以上です」


「ほう」


「街道修復、用水路整備、盗賊討伐」


宗景は黙って聞く。


「さらに捕らえた盗賊を処刑せず労働へ回しております」


そこで初めて宗景の眉が動いた。


「処刑しなかった?」


「はい」


「面白いな」


忍びは続ける。


「領民の支持も集めています」


「商人たちも協力的です」


「税も下げるとの噂があります」


宗景は酒を口へ運んだ。


しばらく沈黙。


やがて笑った。


「変わり者だな」


家臣たちは首を傾げる。


弱小領主の話だ。


気にする必要はない。


普通ならそう考える。


だが宗景は違った。


戦国を生き抜いてきた男の勘が告げていた。


「死ぬはずの国が生きようとしている」


それは厄介だ。


死ぬ者は放置しておけばいい。


だが生きようとする者は違う。


「父上」


若い男が口を開く。


宗景の嫡男。


黒峰義隆である。


二十三歳。


武勇に優れる若武者だった。


「相良など放置で良いのでは?」


宗景は笑う。


「そう思うか?」


「たかが二万石です」


「今はな」


義隆は首を傾げた。


宗景は窓の外を見た。


「義隆」


「はっ」


「国を大きくする者とは何だと思う」


突然の質問だった。


義隆は即答する。


「強い兵です」


「半分正解だ」


「半分?」


宗景は静かに言った。


「人だ」


「人……」


「人を集められる者が最後に勝つ」


義隆は黙る。


宗景は続けた。


「金も兵も民も商人も」


「すべて人だ」


そして酒杯を置く。


「今の相良には人が集まり始めている」


義隆の表情が変わった。


ようやく理解した。


それは危険な兆候だ。


弱小勢力が勢いを得る時の前兆。


「では」


「まだ待て」


宗景は首を振った。


「今は観察だ」


猛獣は獲物へ飛びかかる前に観察する。


相手を知る。


弱点を探す。


それが黒峰宗景だった。


「どのみち冬は近い」


宗景の目が細くなる。


「冬を越えられるか見ものだ」


◇◇◇


その頃。


相良領。


悠真は頭を抱えていた。


「足りない……」


机の上には帳簿が山積みになっている。


原因は明白だった。


金である。


圧倒的に足りない。


街道修復。


用水路整備。


備蓄米購入。


すべて金がかかる。


借りた資金も減ってきていた。


「若様」


源左衛門が部屋へ入る。


「どうした」


「南から商隊が参りました」


「商隊?」


「塩商です」


悠真は顔を上げた。


塩。


戦国時代において最重要商品の一つ。


保存食には必須。


生活にも必須。


つまり儲かる。


「通してくれ」


「はっ」


しばらくして一人の男が現れた。


四十代半ば。


恰幅の良い商人だった。


男は深々と頭を下げる。


「初めまして、若様」


「初めまして」


「私は大坂屋源兵衛と申します」


悠真は目を細めた。


商人の目だ。


利益を嗅ぎつける人間の目。


嫌いではない。


むしろ好きだった。


「本日はどのような用件で」


源兵衛は笑う。


「儲け話にございます」


その言葉に悠真も笑った。


戦国時代。


武士は商人を見下す。


商人は武士を警戒する。


だが悠真は違う。


前世で理解していた。


経済が国を支えることを。


「聞こう」


源兵衛の目が輝く。


「相良領を通る新しい交易路を作りませんか」


部屋の空気が変わった。


源左衛門が驚き。


商人が笑い。


悠真は思った。


――面白くなってきた。


相良改革は次の段階へ進もうとしていた。

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