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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第四話 改革の始まり

蔵を開いて三日。


相良領は目に見えて変わり始めていた。


もちろん劇的な変化ではない。


飢えた民が一夜で豊かになるわけではない。


だが、人々の表情は確かに変わった。


城下町の通りを歩く悠真は、その変化を感じていた。


以前は俯いていた農民たちが顔を上げるようになった。


市場では小さな声ながら笑い声も聞こえる。


子供たちが走り回る姿も増えた。


それだけで十分だった。


「若様」


源左衛門が隣で呟く。


「民の集まりが予想以上です」


城門前の広場には数百人の領民が集まっていた。


用水路整備のためだ。


働けば米がもらえる。


ただそれだけの話だったが、食うに困っていた領民たちにとっては大きな希望だった。


「どれくらい集まった?」


「四百ほどかと」


悠真は少し驚いた。


予想の倍近い。


それだけ困窮していたということでもある。


「全員に仕事を割り振れ」


「はっ」


農民たちが次々と道具を受け取っていく。


鍬。


鋤。


縄。


誰も文句を言わない。


むしろ目の色が違った。


働けば家族が食べられる。


それだけで人は動く。


前世でも今世でも変わらない。


「まずは水だな」


悠真は広げられた地図を見る。


相良領は山が多い。


川もある。


本来なら農業に向いた土地だった。


だが管理が酷い。


用水路は崩れ、堤防も傷んでいる。


結果として田畑へ十分な水が届かない。


収穫量も落ちる。


悪循環だった。


「これを直すだけでも変わる」


現代人の感覚では当然だった。


だが戦国時代ではそこまで体系的に管理されていない。


悠真は一つひとつ問題を洗い出していった。


そこへ馬に乗った武士が駆け込んできた。


「若様!」


息を切らしている。


何かあったらしい。


「どうした」


「城下の商人たちが面会を求めております」


「商人?」


「はい」


悠真は少し考えた。


ちょうど良い。


こちらから呼ぶつもりだった。


「通せ」


◇◇◇


城の一室。


集められた商人たちは緊張した様子で座っていた。


十人ほど。


穀物商。


布商。


塩商。


酒商。


領内で商売をしている有力者たちである。


全員が不安そうな顔をしていた。


理由は簡単だ。


相良家は金がない。


つまり貸した金が返ってこない可能性が高い。


「本日は集まってもらって感謝する」


悠真が口を開く。


商人たちは頭を下げた。


だが誰も笑っていない。


警戒している。


当然だった。


「率直に言おう」


悠真は言った。


「金を借りたい」


場の空気が凍った。


やはり来た。


そんな顔だった。


最年長の商人が恐る恐る口を開く。


「若様……」


「何だ」


「失礼ながら、返済の見込みはございますか」


率直だった。


遠回しに言えば。


返せるのか?


という話である。


源左衛門が眉をひそめる。


だが悠真は笑った。


「当然だ」


即答だった。


商人たちは意外そうな顔をする。


「まず税を下げる」


「税を?」


「民を豊かにする」


「はあ……」


話が見えない。


商人たちは首を傾げた。


悠真は続ける。


「民が豊かになれば物を買う」


「物が売れればお前たちも儲かる」


「お前たちが儲かれば税も増える」


静かに説明する。


商人たちは徐々に真顔になっていった。


「そして領地が豊かになれば借金も返せる」


沈黙。


戦国時代の武士は商人を見下す者が多い。


だが目の前の若様は違った。


利益の話をしている。


商売の話をしている。


彼らの言葉で。


「面白い」


ぽつりと誰かが呟いた。


穀物商の男だった。


「若様」


「何だ」


「本当に改革をなさるおつもりで?」


「そのために動いている」


迷いなく答える。


男はしばらく考えた後、深く頭を下げた。


「ならば百両、出しましょう」


場がざわつく。


百両。


決して小さな額ではない。


「おい!」


別の商人が声を上げる。


「正気か!」


「賭けだ」


穀物商は笑った。


「だが今のままでは相良領は終わる」


誰も反論できない。


事実だからだ。


「なら変わる方に賭ける」


沈黙の後。


今度は塩商が手を挙げた。


「私は五十両」


「布商として三十両」


「酒商からも二十両」


次々と声が上がる。


源左衛門が驚愕していた。


こんなことは初めてだった。


今まで相良家に金を貸したがる商人などいなかった。


悠真は静かに息を吐いた。


第一関門突破。


だが本番はここからだ。


借りるだけなら誰でもできる。


問題は結果を出すこと。


「必ず返す」


悠真は商人たちを見渡した。


「そしてお前たちを今より儲けさせる」


商人たちの目が輝く。


それは戦国武将を見る目ではなかった。


商売相手を見る目だった。


◇◇◇


その夜。


北の黒峰家。


当主・黒峰宗景の前に一人の忍びが跪いていた。


「報告いたします」


「申せ」


「相良領にて大規模な土木工事が始まりました」


宗景が眉を上げる。


「ほう」


「さらに商人との取引も活発化しております」


報告は続く。


税の引き下げ。


蔵の開放。


領民動員。


商人融資。


宗景は静かに酒を口へ運んだ。


「面白い」


家臣たちは困惑する。


弱小領地の話だ。


気にする必要もない。


だが宗景は違った。


戦を知る者だった。


だからこそ分かる。


「滅びるはずの者が足掻いている」


その足掻きが厄介なのだ。


「引き続き監視しろ」


「はっ」


忍びが消える。


宗景は夜空を見上げた。


「さて」


口元がわずかに吊り上がる。


「どこまでやれるかな、相良の若造」


その言葉は風に溶けて消えた。


そしてその頃。


相良領では改革の第一歩が着実に進み始めていた。

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