第二十八話 海を手に入れろ
「海賊王を雇う?」
翌朝。
評定の間は大混乱だった。
当然である。
税を下げると言った時も驚いた。
盗賊を雇った時も驚いた。
だが今回は別格だった。
海賊王である。
「反対です!」
源左衛門が机を叩く。
「危険すぎます!」
「まぁ、そうだな」
悠真も否定はしなかった。
危険人物なのは間違いない。
問題は。
その危険を上回る価値があるかどうかだった。
「宗春」
「はい」
「どう思う」
宗春は腕を組んだ。
しばらく考える。
そして。
「正直申し上げますと欲しいですね」
即答だった。
「理由は」
「船です」
それだった。
相良家には船がない。
船乗りも少ない。
海運の知識も不足している。
港は作った。
だが運用する人材がまだまだ乏しい。
「ガロンは全部持っています」
確かに。
海賊王。
つまり海の専門家だ。
◇◇◇
その日の昼。
悠真は港へ向かった。
ガロンは桟橋で魚を食べていた。
豪快だった。
焼き魚を丸ごとかじっている。
「どうだ」
ガロンが笑う。
「考えたか」
「一つ聞きたい」
悠真は腰を下ろした。
「本当に海賊をやめるのか」
ガロンは海を見る。
しばらく黙る。
そして。
「若い頃は楽しかった」
静かな声だった。
「奪う」
「勝つ」
「強い奴と戦う」
笑う。
だがどこか寂しそうだった。
「だがな」
海を見る。
水平線。
遠く。
ずっと遠く。
「気付いたんだ」
「何を」
「何も残らねぇ」
沈黙。
「港もねぇ」
「町もねぇ」
「仲間も減る」
「金も消える」
海賊の現実だった。
「だったら」
ガロンは笑う。
「今度は作ってみたい」
悠真は少し驚いた。
その答えは予想外だった。
◇◇◇
夕方。
正式な契約が結ばれた。
黒牙海賊団。
相良家所属。
ただし条件付き。
略奪禁止。
無許可航行禁止。
違反時は処罰。
かなり厳しい。
だが。
ガロンは笑った。
「構わねぇぜ」
文句も言わない。
むしろ楽しそうだった。
「面白そうだからな」
本当にそれだけらしい。
◇◇◇
数日後。
港町。
工事はさらに加速していた。
黒牙海賊団の船員たちが加わったからだ。
海の男たちは働く。
ロープを扱う。
船を修理する。
桟橋を作る。
海の知識が豊富だった。
「すごいな」
悠真は感心する。
ガロンが笑った。
「当たり前だ」
「海で生きてきたからな」
なるほど。
専門家だった。
海賊だが。
◇◇◇
その頃。
大坂屋権蔵も驚いていた。
「海賊を雇った?」
報告を聞いて絶句した。
だが。
すぐに笑う。
「相も変わらず面白い御仁ですな」
最近周囲がみんなそう言う。
感覚が麻痺してきていた。
「若様は本当に変わっておる」
権蔵は港を見る。
海賊。
商人。
外国人。
忍び。
学者。
普通なら絶対にまとまらない。
だが。
なぜか集まっている。
相良家には何かがあった。
◇◇◇
一方。
朝倉城。
義康は報告を聞いて固まっていた。
「海賊を雇った?」
「はい」
家臣も困惑している。
意味が分からない。
誰も理解できない。
「……何だそれは」
義康が頭を抱える。
龍哭平原。
港町。
大坂屋。
海賊。
相良悠真は常識の外にいた。
だから読みづらい。
だから厄介だった。
「放置できんな」
低く呟く。
そして。
新たな報告が届いた。
「殿」
「何だ」
「東雲家から使者です」
義康が顔を上げる。
ついに来た。
同盟軍の話だ。
家臣たちも緊張する。
使者は書状を差し出した。
義康は目を通す。
そして。
顔色が変わった。
「どうされました」
家臣が尋ねる。
義康は無言だった。
やがて。
書状を机へ置く。
「……面倒なことになった」
「何が」
義康は深く息を吐いた。
「東雲景隆が出る」
静寂。
部屋が凍る。
東雲景隆。
東雲家当主。
東方最強と呼ばれる老将。
普段は動かない。
だが。
今回は違う。
「あちらも本気のようだ」
義康が呟く。
龍哭平原の戦いとは比べ物にならない。
本当の大戦が始まる。
その頃。
相良領では誰も知らなかった。
港町の発展。
新たな仲間。
その全てを飲み込むような巨大な戦火が。
すぐそこまで迫っていることを




