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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第二十話 港町建設開始

九条宗春が相良家へ仕官してから十日。


相良領は慌ただしく動いていた。


原因は一つ。


港町建設である。


「人手が足りません」


朝から宗春が頭を抱えていた。


評定の間には大量の書類が積まれている。


設計図。


資材一覧。


人員配置。


予算表。


見るだけで頭が痛くなる量だった。


「足りないか」


悠真が聞く。


「全然足りません」


即答だった。


「大工、石工が足りません」


「それに船大工はもっと足りません」


宗春は疲れた顔で言う。


港は作れる。


だが人がいない。


戦国時代最大の問題だった。


「職人を呼ぶか…」


宗春は頷く。


「呼んでもそう簡単には来ませんよ」


「なぜだ」


「相良領だからです」


ぐうの音も出ない。


半年前まで滅亡寸前だった領地である。


信用が薄い。


当然だった。


◇◇◇


その日の昼。


悠真は城下町を歩いていた。


楓も一緒である。


最近は完全に護衛兼補佐になっていた。


「若様」


楓が小声で言う。


「見られています」


「いつものことだろ」


領民からの視線は増えた。


以前のような警戒ではない。


期待の目だ。


少し気恥ずかしい。


「違います」


楓の目が細くなる。


「別の者です」


悠真も気付いた。


通りの向こう。


旅装束の男たち。


二人。


こちらを観察している。


「商人か?」


「違います」


楓は即答した。


「武人です」


なるほど。


立ち方が違う。


歩き方も違う。


素人の悠真でも何となく分かった。


「朝倉か」


「可能性はあります」


楓の声が低くなる。


龍哭平原の戦い以降。


相良家は朝倉家に認識されている。


間者が来ても不思議ではない。


「泳がせる」


「よろしいのですか?」


「監視は頼む」


楓は静かに頷いた。


◇◇◇


数日後。


港予定地。


工事が始まっていた。


木材が運ばれる。


石材が積まれる。


職人たちが働く。


少しずつだが形になっている。


「見てください」


宗春が笑顔だった。


珍しい。


「桟橋の基礎です」


海へ伸びる木組み。


まだ小さい。


だが確かに港の形をしていた。


「順調か」


「予想以上です」


宗春は嬉しそうだった。


学者というより職人の顔になっている。


好きなのだろう。


こういう仕事が。


「若様!」


その時。


村人が駆け込んできた。


息を切らしている。


「大変です!」


嫌な予感。


最近多い気がする。


「今度は何だ」


「船です!」


「またか」


前回は宗春だった。


今度は誰だろう。


村人は叫んだ。


「商船です!」


悠真と宗春が顔を見合わせる。


商船。


つまり。


商人。


◇◇◇


海岸へ向かう。


そこには大型の船が停泊していた。


以前よりずっと大きい。


そして豪華だ。


「おお」


宗春が目を丸くする。


「知ってるのか」


「知っています」


少し驚いた顔だった。


「あの家紋は大坂屋です」


大坂屋。


たしか塩商の大商人。


やがて。


船から一人の老人が降りてきた。


六十代。


立派な着物。


鋭い目。


ただ者ではない。


「初めまして」


老人は笑った。


「大坂屋総代」


「大坂屋権蔵と申します」


宗春が驚く。


「総代自ら!?」


相当な大物らしい。


権蔵は悠真を見る。


そして笑った。


「倅より噂は聞いております」


源蔵が話したのであろう。


「変わった領主だとか」


「よく言われます」


権蔵は声を上げて笑った。


「結構」


どうやら気に入ったらしい。


「今日は商売の話です」


商人らしい。


悠真は嫌いではなかった。


「聞こう」


権蔵は海を指差した。


建設中の桟橋。


港予定地。


そして言った。


「この港」


「わしに投資させてくれませんか」


沈黙。


源左衛門が固まる。


宗春も目を見開く。


大坂屋。


西方最大級の商家。


その総代が。


自ら投資を申し出ている。


意味するところは大きかった。


相良領が商人たちに認められ始めたのだ。


「条件は」


悠真が尋ねる。


商人は無償では動かない。


それは知っている。


権蔵は満足そうに頷いた。


「良い質問です」


そして笑う。


「港の一角をお貸しください」


なるほど。


商館が欲しいのだ。


倉庫。


店舗。


流通拠点。


十分理解できる。


「悪くない」


悠真は呟く。


権蔵の笑みが深くなる。


「でしょう?」


交渉が始まる。


港町計画は新たな段階へ進もうとしていた。


そしてその頃。


相良領へ潜入していた朝倉の間者たちもまた、この光景を見ていた。


「まずいな」


一人が呟く。


「商人まで動き始めた」


相良家は成長している。


それも予想以上の速度で。


この報告は間違いなく朝倉義康の耳へ届くだろう。


そして。


その報告は新たな火種となる。


港町建設。


大商人との提携。


人材の流入。


弱小領地だった相良家は、もはや誰も無視できない存在になりつつあった。

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