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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第二話 民の声

翌朝、悠真は日の出と共に目を覚ました。


前世では考えられない時間だった。


毎日深夜まで働き、朝はギリギリまで寝ていた自分が、今では自然と目が覚める。


理由は簡単だった。


時間がない。


相良家の滅亡まで一年。


それを知っている以上、のんびりしている余裕などなかった。


身支度を整え、部屋を出る。


廊下では源左衛門がすでに待っていた。


「お早いですな、若様」


「領地を見ると言っただろ」


「まさか本当に行かれるとは」


「そんなに信用がないのか?」


「……はい」


即答だった。


悠真は苦笑する。


記憶にある以前の自分は、まさに絵に描いたような放蕩息子だった。


領民の暮らしなど興味もなく、城下へ出るのも遊ぶ時だけ。


信用がないのも当然である。


「まあ、その評価はこれから変えるさ」


源左衛門は何も言わなかった。


ただ、その目にはわずかな期待が見えていた。


城を出る。


朝の城下町は静かだった。


しかし活気はない。


商人たちの表情は暗く、農民たちの顔には疲労が浮かんでいる。


子供たちの姿も少ない。


皆、生きるだけで精一杯なのだ。


悠真は歩きながら周囲を観察した。


市場に並ぶ商品は少ない。


野菜も痩せている。


衣服も継ぎ接ぎだらけ。


予想以上に状況は悪かった。


「税はどれくらい取っている?」


隣を歩く源左衛門へ尋ねる。


「六公四民にございます」


悠真は思わず足を止めた。


「六公四民?」


「はい」


重い。


重すぎる。


収穫の六割を領主が徴収する。


豊作ならまだしも、不作が続く状況でそれを続ければ農民が潰れる。


現代人の感覚なら当然だった。


「誰が決めた」


「先代様です」


「なるほど」


滅ぶべくして滅ぶわけだ。


農民が疲弊し、生産力が落ち、さらに税を上げる。


典型的な悪循環だった。


そんなことを考えていると、前方が騒がしくなった。


路地裏から怒鳴り声が聞こえる。


「だから待ってください!」


若い娘の声だった。


悠真は足を向ける。


そこでは一人の武士が農民の娘を怒鳴りつけていた。


娘は十六、七歳だろうか。


痩せた身体で必死に何かを守っている。


足元には小さな米袋があった。


「年貢が足りんと言っている!」


「母が病気なんです!」


「知るか!」


武士が娘を突き飛ばした。


小さな悲鳴。


娘が地面へ倒れる。


米袋が転がった。


武士はそれを拾い上げる。


「これは没収だ」


「そんな……!」


娘の顔から血の気が引く。


その米は家族の命なのだろう。


悠真は無言で歩み寄った。


「何をしている」


武士が振り返る。


そして顔色が変わった。


「わ、若様!?」


「質問している」


低い声だった。


武士は慌てて頭を下げる。


「年貢の不足分を回収しておりました」


「この娘からか?」


「はっ」


悠真は娘を見る。


頬はこけ、服も古い。


どう見ても余裕のある暮らしではない。


それでも武士は米を取り上げようとしている。


「返せ」


「え?」


「その米を返せと言った」


武士は固まった。


理解できないのだろう。


今までの悠真なら農民の味方などしなかった。


むしろ武士を褒めたかもしれない。


「しかし規則が……」


「規則?」


悠真は静かに言った。


「領民を飢えさせるための規則か?」


武士の顔が青ざめる。


答えられない。


「返せ」


再び言う。


今度は逆らえなかった。


武士は震える手で米袋を差し出した。


娘は信じられないものを見る目をしていた。


悠真はその米袋を拾い、彼女へ手渡す。


「大事に使え」


「え……?」


「母親を助けろ」


娘の目に涙が浮かんだ。


やがて深く頭を下げる。


「ありがとうございます……!」


周囲で見ていた人々もざわめいていた。


皆、驚いている。


それも当然だろう。


放蕩息子で有名だった若様が、農民を助けたのだから。


悠真は周囲を見渡した。


疲れた顔。


諦めた目。


生気を失った人々。


この領地の問題は城の中では見えなかった。


だが外へ出れば一目瞭然だった。


「源左衛門」


「はっ」


「年貢帳を持ってこい」


「すべてですか?」


「全部だ」


源左衛門の顔が引き締まる。


何かを察したのだろう。


「若様、まさか……」


「税を下げる」


その言葉に周囲が静まり返った。


源左衛門も目を見開く。


「本気ですか?」


「本気だ」


即答だった。


「今のままでは領民が先に死ぬ」


「ですが財政が……」


「財政はすでに死んでいる」


源左衛門は黙った。


反論できなかった。


借金。


食糧不足。


兵力不足。


すでに破綻寸前なのだ。


「まず民を生かす」


悠真は言った。


「話はそれからだ」


豊かな民は税を納める。


貧しい民は逃げる。


前世では当たり前の経済原理だった。


だがこの時代ではまだ理解されていない。


だからこそ差になる。


「まずは領民の腹を満たす」


悠真は空を見上げた。


朝日が雲を突き抜けて差し込んでいる。


相良家は弱い。


金もない。


兵も少ない。


だが、まだ終わっていない。


変えられる。


やり方次第で未来は変わる。


その確信があった。


そしてこの日。


後に『相良改革』と呼ばれる大事業の第一歩が踏み出されたのである。

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