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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第十八話 港町計画

翌朝。


相良城の評定の間は珍しく熱気に包まれていた。


理由は簡単だ。


若様がまた何かを始めようとしている。


重臣たちは半ば諦めていた。


いや、慣れてしまったと言った方が正しい。


税を下げると言われた時も驚いた。


盗賊を雇うと言われた時も驚いた。


黒峰家と同盟した時は腰を抜かした。


だが結果は出ている。


ならば今回も信じるしかない。


「まず現状確認だ」


悠真は地図を広げた。


相良領全域が描かれている。


「街道整備は順調」


「農地も増加中」


「交易量も上昇」


重臣たちが頷く。


数字は正直だった。


以前の相良領とは別物である。


市場は活気を取り戻し始めていた。


商人も増えている。


税収も少しずつ回復していた。


「だが」


悠真は南部を指差した。


海岸線。


「ここが死んでいる」


全員の視線が集まる。


確かに海はある。


だが小さな漁村があるだけだった。


港とは呼べない。


「若様」


山内が口を開く。


「本当に港を作るのですか」


「作る」


即答だった。


「絶対に必要だ」


物流。


交易。


人口。


経済。


全てに関わる。


前世で散々見てきた。


港を制する者は物流を制する。


物流を制する者は経済を制する。


戦国時代でも変わらないはずだった。


「まず視察だ」


悠真は立ち上がる。


「現地へ行く」


◇◇◇


三日後。


相良領南部。


海辺の村。


悠真は初めて海を見ていた。


もちろん前世でも海は見たことがある。


だが今の海は違う。


人工物が少ない。


どこまでも広い。


青い。


「これは凄いな」


思わず呟く。


楓が隣で頷いた。


「海が好きなのですか」


「好きだな」


「私は苦手です」


「何故だ?」


「泳げませんから」


意外だった。


万能そうに見えて弱点があった。


少し親近感が湧く。


◇◇◇


村長の案内で海岸を歩く。


砂浜。


岩場。


入り江。


悠真は周囲を観察した。


そして。


見つける。


「ここだ」


小さな入り江だった。


波が穏やか。


風も防げる。


天然の良港に近い。


「若様?」


源左衛門が首を傾げる。


悠真は笑った。


「港を作るならここだ」


村長たちは顔を見合わせる。


そんな発想はなかった。


ただの漁村だ。


だが悠真には違って見える。


倉庫を作る。


船着場を作る。


市場を作る。


人が集まる。


商人が来る。


金が回る。


未来図が頭の中に浮かんでいた。


◇◇◇


その日の夕方。


村で小さな騒ぎが起きた。


「若様!」


村人が駆け込んでくる。


「船が!」


「船?」


「見慣れない船です!」


全員が海を見る。


沖合。


確かに船影があった。


一隻。


帆船。


だが旗がない。


村人たちがざわつく。


「海賊か?」


「まずいぞ」


「逃げろ!」


緊張が走る。


海賊は珍しくない。


沿岸部を襲うこともある。


だが。


楓が目を細めた。


「違います」


「分かるのか」


「船体が綺麗です」


なるほど。


海賊船ならもっと荒れている。


やがて船が近づく。


そして港代わりの桟橋へ接岸した。


降りてきたのは。


一人の男だった。


三十代前半。


長身。


旅装束。


腰には刀。


だが武士ではない。


商人でもない。


妙な雰囲気があった。


男は周囲を見回した。


そして。


悠真を見つける。


「あなたが相良悠真殿ですか」


村が静まる。


悠真は頷いた。


「そうだが」


男は笑った。


どこか掴みどころのない笑みだった。


「探しました」


嫌な予感がした。


最近こればかりである。


「私は九条宗春」


男は一礼する。


「流れの学者です」


学者。


戦国時代では珍しい存在だった。


「学者?」


「はい」


宗春は微笑む。


「あなたの噂を聞きまして」


噂。


また噂である。


「税を下げた領主」


「盗賊を雇った領主」


「港を作ろうとしている領主」


全部自分だった。


「面白そうだったので来ました」


軽い。


驚くほど軽い理由だった。


だが。


悠真は気付いていた。


この男の目。


知識人の目だ。


何かを知っている人間の目だった。


「それで」


悠真は尋ねる。


「何をしに来た」


宗春は笑った。


そして。


とんでもないことを言った。


「天下を変えに来ました」


風が吹いた。


海が揺れる。


楓が眉をひそめる。


源左衛門が固まる。


村人たちも意味が分からない顔をしていた。


だが。


宗春だけは楽しそうに笑っている。


「正確には」


一歩前へ出る。


「あなたと一緒に、です」


悠真は頭を抱えたくなった。


また変なのが増えた。


そんな予感しかしなかった。


しかし。


この出会いが。


後に相良家最大の頭脳を迎える瞬間だったことを。


まだ誰も知らなかった。

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