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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第十五話 狙われた若君

龍哭平原。


戦いは佳境へ入りつつあった。


朝倉軍の騎馬隊は壊滅。


右翼は黒峰軍が優勢。


中央でも義隆が奮戦している。


誰が見ても黒峰軍有利だった。


だが。


戦とは最後まで分からない。


「若様」


岩倉が本陣の周囲を見回す。


「少し下がりましょう」


「なぜだ?」


「嫌な予感がします」


戦場を生きてきた武士の勘だった。


悠真は頷く。


こういう時の勘は馬鹿にできない。


「分かった」


馬を動かそうとした。


その瞬間だった。


ヒュンッ!!


何かが空を裂く。


反射的に顔を向ける。


矢だった。


「若様ッ!!」


岩倉が叫ぶ。


ガキィン!!


岩倉の盾に矢が突き刺さる。


あと少しずれていれば悠真の頭だった。


周囲が騒然となる。


「敵襲!」


「本陣だ!」


「守れぇぇぇ!!」


悠真の背筋が冷えた。


今のは明らかに狙われていた。


「まさか」


その答えはすぐ現れた。


平原の東側。


戦場の喧騒に紛れるように兵が飛び出してくる。


数は五十ほど。


少ない。


だが全員が精鋭だった。


「朝倉赤狼隊!」


黒峰兵が叫ぶ。


名の知れた遊撃部隊だった。


「まずいな」


悠真は思わず呟いた。


完全に自分が標的である。


◇◇◇


朝倉軍側。


赤狼隊隊長・坂井玄馬は笑っていた。


「見つけたぞ」


黒峰本陣。


その中にいる若い男。


相良悠真。


最近噂の若造だ。


「殿の命だ」


槍を構える。


「首を取る」


五十人が一気に加速する。


風のような速さだった。


◇◇◇


「迎撃!」


岩倉が叫ぶ。


護衛兵たちが槍を構える。


だが数が足りない。


本陣は安全圏だと思われていた。


精鋭部隊への備えが薄い。


赤狼隊は一直線に突っ込んできた。


「邪魔だ!」


坂井玄馬が槍を振るう。


護衛兵が吹き飛ぶ。


強い。


歴戦の猛者だった。


「若様!」


岩倉が前へ出る。


刀を抜く。


激突。


金属音。


二人の刃がぶつかる。


だが押される。


坂井玄馬は戦場で百人以上を討ち取った豪傑だ。


岩倉も強いが格が違った。


「退け!」


岩倉が吹き飛ばされる。


悠真の顔色が変わった。


まずい。


本当にまずい。


会社員だった自分にどうしろというのか。


「若様、逃げてください!」


護衛兵が叫ぶ。


その時だった。


不意に前世の記憶が蘇る。


営業会議。


工事現場。


物流。


地図。


人の流れ。


情報。


点と点が繋がった。


悠真は周囲を見る。


本陣。


荷車。


補給物資。


予備の馬。


そして――。


旗。


大量の軍旗。


「岩倉!」


「はっ!」


「旗を全部立てろ!」


一瞬。


全員が固まった。


「は?」


「いいから全部だ!」


意味が分からない。


だが岩倉は従った。


今までの若様は必ず結果を出している。


兵たちが慌てて旗を立てる。


相良家。


黒峰家。


予備旗。


ありったけ。


本陣が旗だらけになる。


坂井玄馬も困惑した。


「何だ?」


次の瞬間。


悠真が叫ぶ。


「宗景殿の本陣はこっちだぞぉぉぉぉ!!」


戦場に響く大声。


周囲が静まり返る。


岩倉が目を見開く。


坂井玄馬も固まる。


そして。


「……は?」


意味が分からない。


悠真は続ける。


「黒峰宗景はここにいるぞー!!」


全力で叫ぶ。


馬鹿みたいだった。


だが。


戦場の視線が集まる。


朝倉兵。


黒峰兵。


全員が見る。


坂井玄馬の顔色が変わった。


宗景がいる?


本当か?


もし本当なら。


相良などどうでもいい。


黒峰宗景の首の方が価値が高い。


迷いが生じる。


その一瞬。


戦場では致命的だった。


◇◇◇


「今だ!」


轟く声。


平原の向こうから騎馬隊が飛び出した。


先頭には黒峰義隆。


大太刀を掲げて突撃してくる。


「義隆様だ!」


黒峰軍が沸く。


赤狼隊の顔色が変わる。


挟まれた。


完全に。


「ちっ!」


坂井玄馬が舌打ちする。


判断が遅れた。


もう遅い。


義隆の騎馬隊が横から突撃する。


激突。


悲鳴。


赤狼隊が吹き飛ぶ。


坂井玄馬も立ち所に伏せられる。


義隆の刃が首元へ突き付けられる。


「終わりだ」


勝負あり。


赤狼隊は壊滅した。


◇◇◇


戦いが落ち着いた頃。


義隆は呆れた顔で悠真を見ていた。


「何をしたんだ」


「時間稼ぎ」


「旗を立てて?」


「目立てば迷うと思ったので」


義隆は頭を抱えた。


普通はやらない。


というか思いつかない。


だが。


結果として成功した。


「父上が気に入るわけだ」


呆れ半分。


感心半分だった。


悠真は苦笑する。


正直、自分でもどうかと思う。


だが生き残った。


それで十分だ。


その時。


本陣へ新たな報告が届いた。


「敵中央軍、崩壊!」


「朝倉軍総崩れです!」


歓声が上がる。


ついに勝負が決した。


黒峰軍の勝利。


龍哭平原の戦いは終わったのだ。

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