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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第十二話 赤月の夜襲

夜空には赤い月が浮かんでいた。


血のような色をした不気味な月だった。


黒峰軍五百は音もなく山道を進む。


松明は使わない。


馬にも布を巻いて音を消している。


先頭を進むのは黒峰義隆。


その後ろに歴戦の兵たち。


そして――。


「なんで俺もいるんだろうな……」


悠真は小声で呟いた。


岩倉が苦笑する。


俺は内政領主である。


戦場向きではない。


だが宗景の命令で同行している以上、断れなかった。


「敵補給隊まであと半里!」


斥候が戻る。


義隆が手を上げた。


全軍停止。


兵たちが一斉にしゃがみ込む。


静かだ。


風の音しか聞こえない。


やがて前方に灯りが見えてきた。


敵陣だった。


荷車が並ぶ。


米俵。


干し肉。


矢束。


大量の軍需物資。


護衛兵は百ほど。


焚火を囲み、酒を飲んでいる者もいる。


完全に油断していた。


「かかったな」


義隆が笑う。


「若様」


「何だ」


「合図を」


「俺が?」


「今回の発案者ですから」


勘弁してほしい。


だが兵たちの視線が集まっている。


仕方ない。


悠真は深呼吸した。


そして。


「行け」


静かな一言。


次の瞬間だった。


黒峰兵が一斉に飛び出した。


「敵襲ッ!!」


悲鳴。


怒号。


混乱。


夜の闇が一気に爆発する。


矢が飛ぶ。


槍が突き出される。


馬が駆ける。


義隆は先頭で敵陣へ突っ込んだ。


「黒峰義隆、参る!」


豪快な一撃。


敵兵が吹き飛ぶ。


強い。


圧倒的だった。


まるで戦国武将そのものだ。


いや実際そうなのだが。


「若様!」


岩倉が叫ぶ。


「下がってください!」


悠真は即座に従った。


無理をしない。


それが自分の役目だ。


前へ出る必要はない。


指揮官は生き残ることが重要である。


そんなことを考えていると。


視界の端で何かが動いた。


一人の敵兵。


若い兵だった。


混乱の中を必死に逃げようとしている。


だが。


その先には荷車。


足を取られた。


転倒。


そこへ黒峰兵が迫る。


槍を構えている。


「待て!」


気付けば叫んでいた。


黒峰兵が動きを止める。


若い兵は震えていた。


まだ十代だろう。


武士ですらない。


徴集された農民兵かもしれない。


悠真は近づいた。


「名前は」


「え……」


「名前だ」


「し、新助……」


怯えている。


当然だった。


死ぬと思っている。


戦場なのだから。


悠真は少し考えた。


そして黒峰兵へ言う。


「縛れ」


「殺さないのですか」


「捕虜だ」


兵は困惑した。


この時代では捕虜の扱いは雑である。


だが悠真は違った。


「手厚く扱ってやれ」


「は?」


「どうせ情報も聞ける」


兵は納得した。


理屈は通っている。


新助は信じられない顔をしていた。


「なんで……」


「死にたいのか?」


首をぶんぶん振る。


悠真は苦笑した。


「なら生きろ」


その言葉に新助は泣き出した。


◇◇◇


戦いは一時間もかからなかった。


完全勝利。


敵護衛隊は壊滅。


兵糧はすべて鹵獲。


被害も少ない。


理想的な結果だった。


夜明け前。


戦果報告が行われる。


「米俵六百」


「干し肉多数」


「矢束二千」


「敵損害七十」


「捕虜三十」


義隆は満足そうだった。


「大戦果だな」


「ですね」


悠真も頷く。


だが宗景なら満足しない気がした。


案の定だった。


翌朝。


本陣へ戻った義隆たちを見て宗景は言った。


「半分だな」


「半分?」


義隆が首を傾げる。


「兵糧を奪っただけだ」


宗景は笑う。


「まだ朝倉軍は生きている」


確かにそうだった。


兵糧は失った。


だが三千の軍勢は残っている。


本番はこれからだ。


「相良殿」


嫌な予感がした。


最近こればかりである。


「何でしょう」


「敵将ならどうする」


悠真は考える。


もし自分が朝倉軍なら。


兵糧を失った。


だが軍は健在。


なら。


「急ぐと思います」


宗景の目が光る。


「続けろ」


「補給が尽きる前に決戦を仕掛ける」


沈黙。


義隆が頷いた。


「確かに」


宗景は笑う。


「正解だ」


地図へ手を置く。


「朝倉は動く」


「それも近いうちにな」


空気が変わった。


軍議の武将たちも表情を引き締める。


決戦。


その二文字が現実味を帯び始めた。


そして同じ頃。


朝倉軍本陣。


怒号が響いていた。


「兵糧が襲撃されただと!?」


朝倉義康が机を叩き割る。


周囲の家臣たちは青ざめていた。


兵糧の損失は想像以上だった。


このままでは長期戦ができない。


「黒峰め……」


義康の目に怒りが宿る。


「決戦だ」


家臣たちが顔を上げる。


「全軍を集結させろ」


兵糧がないなら短期決戦。


もはやそれしか道はない。


「黒峰宗景を討つ!」


怒号が響く。


三千の軍勢が動き始める。


戦は次の段階へ進んだ。


黒峰軍二千五百。


朝倉軍三千。


乱世を揺るがす激突が、すぐそこまで迫っていた。

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